Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

坂元裕二『最高の離婚』のパロディも 『離婚なふたり』は軽妙なテンポで進む、新しい離婚劇に

リアルサウンド

19/4/12(金) 12:00

 人はなぜ離婚したくないのだろうか。

 人はなぜ離婚したくなるのだろうか。

 4月5日、樋口卓治原作、本人が脚本も務めるドラマ『離婚なふたり』の前編が、テレビ朝日系で放送された。本作は、リリー・フランキー演じる人気脚本家、野田隆介が、妻・今日子(小林聡美)から離婚を切り出されるところから始まる。普段は亭主関白で、家事は基本的に妻任せであり、食事は仕事部屋でのカップ焼きそば。声を荒げたり暴力を振るったりすることこそないものの、上から目線で指示を出す。そんな状況に嫌気がさした今日子は、突然離婚を切り出した。「私と別れてください」。

 隆介は人気脚本家として、夫婦関係を描いた作品を多く手がけており、困難を乗り越えてゆく夫婦の姿を多く描くことから、「サバイバルロマンス」=“サバロマ”の名手などと呼ばれていた。そんな隆介にやってきた妻の突然の離婚宣言。予想だにしない申し出に、隆介は困惑する。最初は些細なことに機嫌を損ねているだけだと思っていたが、今日子が決然たる意志を示すにつれ、戸惑いは大きなものに。そして自ら手がけるドラマ作品と私生活との矛盾が、次第に噴出してゆく。

 一方の今日子は友人の真紀(渡辺真起子)の紹介で、弁護士の堂島正義(岡田将生)とともに、離婚への準備を本格的に始めていくが、彼女もまた堂島が並べる硬い言葉に戸惑いながらも、進んでいこうとする。浮気やDVなど定番の理由があるわけではない。けれども今の夫との生活は決してハッピーなものではない。そんな割り切れない感情を、今日子の台詞は的確に表現する。「漠然と、自分の未来に夫がいない」。

 隆介は自らのドラマのプロモーションのため、スポンサー企業の「サンクス・ワイフ・ギビング賞」の大賞受賞者として登壇してほしいと依頼され、勝手に引き受けてしまう。それを知った今日子からは、授賞式の出席の条件として別居を提示される。そして前編のラストでは、夫婦揃って壇上でインタビューを受けるが、当然かみ合うはずもない。挙げ句の果てに、若手の頃の苦労時代の妻からの言葉として隆介が持ち出したのは、CMのコピー。漫談? とツッコミが入るも当然である。

 離婚というと、悲痛な別れや浮気や不倫といったドロドロの愛憎劇が定番だが、それがリアルな現実を捉えているとは限らない。本作では「涙」は登場しない。特にこれといった離婚の理由はなく、あるといえばあるし、ないといえばない。なんとなく合わないから別れる。「離婚」というイベントに、身を切り裂かれるような悲しみが存在していなければならないというルールはない。法的な結婚があまりにも規範化している日本社会への、一つのアンチテーゼとも捉えられる(もちろん現実の日本社会においては、経済的、社会的な様々な理由により、女性の側が「離婚できない状況」に置かれている点も見逃してはならない)。

 とはいえ、そのような「離婚」をテレビドラマで描くのは、とても難しい。視聴者を引きつけるには、「ドラマ」が乏しいからだ。だが本作ではそれを、様々な形で克服しようと試みる。まず、隆介と今日子の会話のテンポが良い。主演のリリー・フランキーと小林聡美の夫婦役が好キャスティングだ。離婚というシリアスな場面でありながら、それを感じさせない。口喧嘩は絶えないが、それは長い時間を(望まない形であれ)過ごした形跡が感じられもする。他人だけど他人じゃない。お互いの迷いと苛立ちが交差し絡み合う。

 また、ところどころに登場する台詞に、ハッとさせられるものが多い。「別れると決めたら旦那は荷物」、離婚を切り出したのは「なんとなく今だって思っちゃった」から。別れを決めた理由は「焼きそばだけど焼きそばじゃない」。平易な言葉も組み合わせ次第だ。

 ちなみに本作は、2013年フジテレビ系放送の、坂元裕二作『最高の離婚』を強く意識して作られているが、それを作中におおっぴらに宣言するところも面白い。坂元の名前が度々登場し、前編のラストシーンでの隆介の回想で登場する「なぜだろう。別れたら好きになる」は、同作のコピーそのものであり、そのことも隆介の口から語られる。この辺りの細かい仕掛けは、ドラマ好きをくすぐる。また本作は『桐島、部活やめるってよ』を手がけた吉田大八の、スペシャルドラマ初演出作品でもある。きめ細かな演出やテンポ良い展開は健在であり、その辺りも見どころの一つだ。

 4月12日放送の後編では、いよいよ堂島が隆介の前に現れ、隆介はいよいよ追い込まれて行くようだ。「理想の夫婦を描き続けた人気脚本家」は自らの夫婦関係に、どのようなエンディングを用意するのだろうか。(文=エオミナカヒサ)

新着エッセイ

新着クリエイター人生

水先案内

アプリで読む