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真心ブラザーズが語る、時代の波を乗りこなす音楽哲学 「退屈に慣れておいたほうがいい」

リアルサウンド

18/9/5(水) 16:00

 モノラル録音、一発録り、ブルースとロックンロール。原始的なバンドサウンドへと立ち返って制作された前作『FLOW ON THE CLOUD』から、およそ1年ぶり。通算16作目のアルバム『INNER VOICE』は、前作のフォーマットを踏襲しつつ、より開かれた明るい音像と、スリルを増したセッションを詰め込んだ、会心の1枚に仕上がった。温かみのある音質にこだわり、アナログレコードを制作するのも、前回同様だ。時代の波に抗うようで、実は軽やかに乗りこなす、真心ブラザーズの音楽哲学とは? YO-KINGと桜井秀俊の本音を聞いてみた。(宮本英夫)

創作活動で追求する“自由”

――前作と、兄弟アルバムのような感じがしましたね。

桜井秀俊(以下、桜井):あ、そうですね。レコーディングのミュージシャンも、エンジニアも一緒で、よりエキサイティングな大喜利ができたというか。

――ああ、大喜利。

桜井:前回は「どうやるんだ?」みたいな、ドキドキも含めたパッケージだったけど、2枚並べて聴くと、前作はいまいち全員わかってない感じの、初期衝動みたいなものが録音されていたんだなと思いますね。今回は、より加速してるけど、フォーマットはみんな理解しているという感じ。

――確かに、伸び伸び、自然体の度合いが増したような。

桜井:明るいイメージがありますね。文字面はそんなに明るい、楽しいことを歌っているわけではないけど、ムードとして音像は明るいのが面白いですね。

――やり方が決まってると、曲作りも自然体でできる。

YO-KING:うん、そうですね。スリーコードとかブルースのスタイルで、いくらでも曲ができるんだという確信があるから。最近の言葉で言うと、ブルースというプラットフォームがあるわけだから、制作活動は、たぶんいくらでもできますね。

――すごくいい、サイクルに入ってる気がしますね。今回、参考音源はなかったんですか。

YO-KING:参考音源は、今回はなかったかな。

桜井:なかったと思う。

――前回は、ボブ・ディランの『ジョン・ウェズリー・ハーディング』をみんなに聴かせて、と言ってましたけども。

YO-KING:そうですそうです。あの音数のなさは、すごいですよ。あと、あの終わり方。ツッタ、ツッタ、ダダダダーン。それであんな名盤扱いだから。俺も名盤だと思うし。やっぱ、そういうところですよね。やってる人たちは楽しくて、簡単で、それでいいものができちゃって、評価も高くて、たくさん売れるという幸せなストーリーがあれば、いいんですけどね。

――いいんですけどねえ。

YO-KING:でもそういう、実例があるわけだから。いろんな作り方があって、どれを選ぶかは作り手次第で、そういう意味では「こういう作り方もありまっせ」という、一つのサンプルにはなってると思うんですよね。

――確かに。

YO-KING:制作時間の延べ時間も、少ないと思う。昔は1日1曲、歌録りとかしてたもんね。何個も録って、繋ぎ合わせて。ただ、そこを経た上でのこれっていうことだから、ポジティブシンキングをするしかないですね。自分だけは特別だと思っても、時間や距離が離れてみると、やっぱり大きな流れの中にいる自分を発見するじゃないですか。その時は、こういうものなんだと思っちゃってるけど。

――ああ。はい。

YO-KING:その「こういうものなんだ」というものを、どれだけ外すかが、自由だから。ある意味、21世紀からこっちは、「こういうものなんだ」という枠をどんどん外していく時間帯でしたよね。「こうだから、しょうがないでしょ」と言われて、思考停止するんじゃなくて、「え、なんで? なんで?」みたいな。まあ、めんどくさい時は逃げたけど、そこで考えるかどうかだよね。モノラルで、一発録りでやってみようとか。

――そうそう。そういうことですよね。なんでモノラルで、一発録りでやっちゃいけないの? って。やってみたら楽しいじゃんっていうことですよね。それが前回と今回の2枚の真心のアルバムからは、すごい伝わるから。

YO-KING:楽しいですよ。あんまりスタジオに、いたくないしね。スカッと気持ち良く遊んで、帰りたいから。僕らが帰ると、スタッフもそのぶん早く帰れるから、みんないいんだよ。エンジニアの西川(陽介)くんも、仕事速いよ。

桜井:晩飯前に帰りたいね、これからは。今回けっこう、弁当頼んだからなあ。

YO-KING:リズム録りの時はね。でもリズム録り、4日間しかないんだから。すごいでしょ?

桜井:しかも、曲は倍ぐらい、20曲ぐらい録ってる。

――1日5曲ペース? うひゃあ。とんでもないですよ。

YO-KING:目指せ、ビートルズ(The Beatles)の1枚目(『Please Please Me』)だから。

――あれは、十何時間で10曲録ってますからね。歌も全部。

桜井:でも、昔のロックバンドってそんなもんですよね。ツアーの合間に2、3日で録っちゃうとか。

YO-KING:『ねじれの位置』(1stアルバム/1990年)も、けっこう詰めたよね。

桜井:詰めた詰めた。ビバ(須貝直人)さんに、1日8曲ぐらい叩かせて、7曲目ぐらいから嫌な顔をされたのを憶えてる(笑)。

YO-KING:当時はバブルだったから、もう少し制作費はあったんだけど、ディレクターがけっこう締める人だったよね。でも今思うと、そういう環境も良かったのかな。そこでバブルの、ワッショイワッショイのレコーディングを経験しちゃうと、変なふうになってた気がする。

「より言葉を大事にした作品になった」(桜井)

――桜井さん。前作からここを強化したいとか、そういうポイントは何かあったんですか。

桜井:もっと適当に、というんじゃないけど、失敗をむしろする、ぐらいの感じ? ビビッて中途半端になるんだったら、自分の実力よりちょっと上のことを、えいっ! と飛び込んで、コケた時の間違いのほうが面白いから。たとえば、ボーナストラックに入ってる「ズル」とか。

――あれ、思いっきり笑いながら歌ってますね。何だったんですか。

桜井:YO-KINGさんが、自分のギターソロが面白くて、自分で笑って、そのギターソロを最後にもう一回やるという(笑)。

YO-KING:うけたからね。笑わしにかかってる。

桜井:それで今度は、全員が笑う。

YO-KING:4人で顔を突き合わせてやってるので、4人のリアクションを見ながらできる。終わり方も決めてないから、終わるよ? みたいなタイミングで「よし、終われた」みたいな面白さもあるし。まあ、アウトテイクだからね。

――これはいいテイクですよ。スタジオの空気を、何よりも雄弁に物語る。

YO-KING:やっぱり、アウトテイクのパワーってすごくて、「本チャンはこうあるべき」という、壊す壁がまだあるなと思いましたよ。

桜井:本採用の曲も、ぎりぎりアウトかな? というのもあるからね(笑)。

――面白いといえば、「バンブー」で弾いてる桜井さんのバイオリン。前回もちょろっと弾いてましたけど、今回は大々的に弾きまくってるじゃないですか。

桜井:要所要所だけ、入れるつもりだったんですよ。で、曲を頭から流しながら、練習がてら適当に弾いてたら、「全部入れろ」ということになって。マジか? と。

――いやあ、いい味出してます。

桜井:これも面白いですよね。さすがにダビングだったんですけど、自分のバイオリンを聴いて、自分で笑いました。歌と、バンジョーと、バイオリンと、全部本業じゃないことを三つもやってる(笑)。

――最高です(笑)。こういうものに、何かが宿りますね。

桜井:やっぱり、日本のポップミュージックの主流が、プログラミングのものになっているので。90年代や80年代にこういうことをやっていたのより、今のほうがより面白く聴こえると思うんですよね。だってポップミュージックを、人間が演奏しているものとは思っていない中高生とか、たぶん多いと思うから。バンドものは別として。パンクとかいっても、今聴くとすごいしっかりしてるじゃないですか。なので、今こういうことをここまでやると、突き抜け感があるんだと思います。

真心ブラザーズ「メロディー」MVショート

――YO-KINGさん。リード曲の「メロディー」、どんな動機で書いた曲ですか。

YO-KING:長い曲にしたいとは、ぼんやり思っていて。サビは全部一緒にしちゃって、Aメロだけどんどん転がっていくような歌詞にして、最後は「作ってる俺がわけわかんなくってきたわ」という曲に落ち着いたんですよね。

桜井:落ち着いてないと思う(笑)。

――投げっぱなし?(笑)。斬新ですよ。

YO-KING:これは発明したなと思ったんだけど、まだまだもっと行けたなとは思う。「歌詞をどういうふうに考えようかな?」というところを、歌詞にしたかったんですよね。もうちょっと混沌としてよかったんだけど、結局自分を肯定して終わっちゃってるから。まあでも、俺の中では面白い遊びができたなと思いますね。ちゃぶ台返しじゃないけど、作り上げた設定を最後に壊すというか、ゴダール(ジャン=リュック・ゴダール)のカメラ目線のセリフみたいな。

桜井:ああー。

YO-KING:カメラに向かって、役者がしゃべりだしちゃうから、映画っていう設定が外れちゃうじゃんって。そういう発明があってもいいのかなと思ったんで、わざわざ設定を作っておいて、それを壊す。

――曲調的には、もろにボブ・ディラン。こういうの、得意ですよね。

YO-KING:得意ですね。

桜井:演奏してる側も、4番やって、やっと間奏だから。普通は、同じコーラスを4回繰り返すと、何か違うことをしなきゃいけないような気になってくるんですけど、やっぱり歌詞がぶっ飛んでいて、いろんなところに取っ散らかってくれるんで、こっちもそこが楽しいんですよね。ちゃんと一個ずつ盛り上げなきゃとか、そういうふうに考えるんじゃなくて、一つ一つの言葉に対して、演奏者が何か反応していく。たとえばダイ(伊藤大地)ちゃんが、〈山奥に住む男の家賃は一万六千円〉というフレーズのところに来ると、「なぜか僕、力が出るんです」と言っていて。

――よくわからないです(笑)。

YO-KING:『男の隠れ家』好きだから。毎月買っちゃってるから(笑)。

桜井:というところを、演奏陣が感じながらやるのが、歌ものをやっている歓びと言いますか。それって、ブルースをやってる楽しさなのかな。

――ああ、そうですね。シンプルなフォーマットがあって、それに乗って転がっていって、歌詞で変化をつけていくスタイル。

桜井:『INNER VOICE』というタイトルもそうですけど、より言葉が大事になっているアルバムだと思います。

「200まで生きるつもりだから、退屈なんですよ」(YO-KING)

――桜井さんの「Z」なんて、メロディがワンパターンしかないじゃないですか。ほぼ展開がない。

桜井:盛り上がらない(笑)。

――いやいや! それが盛り上がるんですよ。それがマジックだと思います。素晴らしいです。

桜井:これはね、8小節のパターンをずっとやってるだけだから。「こんな感じ」って途中まで作って、「じゃあやろう」ってすぐ録り始めて、だからゼロテイクですよ。音決めも、やりながら録って、これはもうこれでOK。一瞬で決まりました。

――これ、出だしが、『チューリップ』の歌詞じゃないですか。「咲いた、咲いた」「赤、白、黄色」って。まさかこれで来るとは思わなかった。

桜井:そうそう。僕ね、引用始めって好きなんですよ。

――はい?(笑)。

桜井:こういう実録シリーズの曲で、「あいつが夢所からやってくる」(2014年アルバム『Do Sing』収録)という曲があるんですけど。それも〈ちっちゃな頃からワルだった〉というのがチェッカーズで、〈盗んだバイクで〉というのが尾崎豊で(笑)。80年代の歌だから、その頃の歌を出すという遊びをやっていて。

――これもそのシリーズなんですね。

桜井:そうそう。気づいていただいてありがとうございます。一応スタッフに、著作権は大丈夫か、確認してもらいましたけど(笑)。

――このパターン、何千曲と作れますね(笑)。歌詞で言うと、「メロディー」に戻りますけどね、〈退屈を怖がるな。退屈と共に在れ〉というフレーズ、また出た名言がと思いましたよ。

YO-KING:ふふふ。そうねえ。

――これすごくいいです

YO-KING:俺ね、200まで生きるつもりだから、退屈なんですよ。たぶん。

――あと150年ぐらいある(笑)。

YO-KING:だいぶ退屈なんですよ。そしたら、ホリエモン(堀江貴文)が新作の前書きで、「僕は200まで生きると決めた」と書いてて、「わかってんなー」と思った。やっぱり、200まで生きると言ってる人が、120歳ぐらいまでやっと生きれるんじゃない? だから僕、実年齢を言わないほうがいいというのは、そういうことなんですよ。年齢を聞かれたら、半分ぐらいで言うのがいいよね。「俺は今25です」って、どこまで自分を騙せるか。心と体を。

――いいですねえ。

桜井:セルフ・マインドコントロール。

YO-KING:どこまで騙せるかで、細胞が変わってくると思うんで。そこの勝負ですよね。

――それはきっとある気がする。

YO-KING:なんでそんなに長生きしてるんだ? って言われちゃうだろうけど。500年生きろと言われたら、しんどいけど、200ぐらい生きれたら、楽しいなと思う。

――けっこう、いろんなもの見られますよ。

YO-KING:とはいえ、ですよ。天寿で1週間後に死ぬんだったら、それはそれで受け入れなきゃいけないなとは思ってます。受け入れられるかどうか、わかんないけど。その二つですよ。バランス。それはいつ来るのか、といってもわかんないからね。ただ、長生きの準備はしとかないと。退屈に慣れておいたほうがいいとは思うんですよね。退屈だから哲学って生まれるし、その退屈を、こういうスマホとかで埋めちゃうと、埋めるのは簡単なんですよ。でもそれが本当に楽しいかどうか。

――幸せは退屈にあり。そういう哲学だと受け取りましたね。基本、YO-KINGさんの詞って、全部、幸福論だと思ってるから。

YO-KING:そうですね。そうだと思います。

桜井:なるほど。

――どう生きて、どう幸せを感じるか。それをずっと歌っていると、僕は思ってるので。毎回「おお!」と思いながら聴いております。

YO-KING:ありがとうございます。それは自分にとっても、そうかな。すごい読書家の、外山滋比古さんという人の本を読んだら、いいこと言ってて。「いい歳こいたら、本なんて読むな」って。

――なるほど。

YO-KING::若い頃、ガーっと本を読む時期は絶対あっていいし、僕は死ぬほど本を読んできたけど、いい歳こいたら、空を見てぼーっとしてるほうが絶対幸せだ、みたいなことが書いてあって。

桜井:空だね。空即是色の空。空の域ですな。

桜井秀俊が考える“幸せの定義”

――桜井さんの「バンブー」の歌詞も、なかなかですよ。〈そこそこ〉という言葉がだいぶ沁みる。

桜井:そこですか(笑)。

――「そこそこ」って深い言葉じゃないですか。良いともとれるし、なんか足りないともとれる。

桜井:幸福論の流れで言うと、不幸ではない状態ですね。

――そうそう。でもこれでいいのか? と言われると、何とも言えない。

桜井:たとえばエレキギターも、僕が中学生の頃は、6万円とか出さないと「よし頑張るぞ」と思えるようなギターは買えなかったんですけど、今はもう、3万円代のエピフォンの韓国製とかで、全然楽しく弾けちゃうものがあったりとか。昔のビンテージの、コンプレッサーの音をシミュレーションしたものが安く買えるとか、そういうものがたくさん手に入るようになったんだけど、そのぶん、それを超えるものは絶対にないじゃないですか。シミュレーションである以上は、みたいな悲しみは、実務の上でもあったりして。

――うーん。なるほど。

桜井:だからみんな、喰うに困ってるわけではない。そういう人もいるだろうけど、おしなべて国民の暮らしは上がっていて、おいしいものも食べられる。でもそれを幸せと言い切れるか? みたいなところですね。

――そこですよね。

桜井:こっちは、ものを作る仕事ですから。昔の良いものよりも、もっと良くなりたいんだけど、それがないっていうのは、やっぱり悲しいことですよね。そんなことを、松・竹・梅の竹で、「バンブー」と表現させてもらいました。

――なるほど。何事も中庸な「竹」。

桜井:そう。竹だけど、うな重だからいいじゃん? とも言えるんだけど。

――みなさんぜひ、このアルバムは深読み気味に聴いていただけると。ぐっとくる言葉、多いですよ。しかも、基本明るい感じなので。お説教くささもないし。

YO-KING:そこだけですね、危惧は。説教くさくならないように考えていれば、あとは本能のままにやればいいと思ったので。

桜井:そこは気を付けないとね。年とってくると、ついつい説教くさく聴こえちゃうからね。そんなつもりじゃなくても。

真心ブラザーズとレコード

――ちょっと、おまけの質問いいですか。前回に続いて、今回もアナログ盤が出ますね。普通に聴きます? 家でアナログ盤って。

桜井:うん。

――どうなんですかね、今の若い世代って。いろんなアイテムで楽しんでるのかしら。

桜井:いやー、スマホで聴いてるんじゃないですか。

――桜井さんも?

桜井:使い分けですよね。普通に外ではスマホで聴いてるし、うちで娯楽として聴く時は、ベストな音響で鳴らしてますけど。アナログレコードをかけて、ギターアンプのシミュレーターにギター入れて、ガン! ってやりながら酒を飲むのが最高。受験勉強してる、隣の部屋の娘に怒られますけど(笑)。

――あはは。うるさいお父さん。

桜井:何やってんだ! って。本当にごめんなさい(笑)。

――YO-KINGさんは。

YO-KING:僕もレコードばっかり。9割はレコード。最近は、朝いちはクラシックとか聴くようになりましたね。

桜井:マジか。すごい。

YO-KING:四重奏ぐらいの、隙間があるやつ。人の声を聴きたくない日もあるんですよ。最近好きなのは、「Waltz for Debby」。

――ビル・エヴァンス。

YO-KING:ここ2、3年で、一番聴いてるかもしれない。あれを大音量で聴くと、ゾクゾクするね。よく聴くと、ナイフとかフォークのカチャカチャいう音が入ってる。とんでもない、いい録音ですからね。ハイハットとか、すごいよ。しかも、何本マイクで録ってるのか。

桜井:あれはどういう録音なのか、本当にわからない。

YO-KING:60年代のマイルスとかね。

――そんなに、録音技術が高かったとは思えない。

桜井:相当、適当だと思いますよ。

YO-KING:選択肢がないぶん、太い音で録れるのかもしれない。何も考えてない、と言ったら言い過ぎなのかもしれないけど、その時の状況で、ベストな録り方をする時に、選択肢がなかったんじゃない?

桜井:飲食店にレコーディング機材を持ち込んでるわけだから。ウェイターに「そんなところにマイク立てるな」とか言われるだろうし(笑)。

YO-KING:時々、音楽を聴いてるというよりは、楽器の音を聴きだしちゃう時があるのね。もちろん、トータルでいい演奏してるに越したことはないわけ。でも「このハイハットは何だ!」みたいな感覚で、レコードを聴いてる時はありますよね。その上で、さらいいい演奏してるじゃんみたいな。それは当たり前で、いい演奏してるから聴いてるんだけど、逆転してる時がある。楽器の音を聴くために、再生してる時がある。

――いいですね。贅沢。

YO-KING:アナログだと、大きい音でも嫌にならない気がする。大きい音で聴くのは、だいたい午後帯ですね。午後2時から6時ぐらい。その時間に家でレコード聴いてるのって、最高でしょ?

――最高です。普通のお父さんはそんなことしないですからね(笑)。

YO-KING:その代わり、土日に働いてますから。

「年をとってもミーハーな気持ちを忘れない」(YO-KING)

――一方で、配信とか、否定してるわけではない。

YO-KING:まったく否定はしないですよ。

桜井:サブスク、最高ですよ。

YO-KING:音楽本とか読みながら、聴く時に使ってる。今年、『BRUTUS』で(山下)達郎さん特集があったでしょ。それをさ、誰かがご丁寧に、1ページごとの曲をYouTubeに上げてるの。そこに行くと、読んだ順に聴けるようになってるわけ。この人ありがとう! と思った。

桜井:へええ。あの号、まだちゃんと読んでない。

――そうか。そういう使い方もできる。

YO-KING:うん。サブスクも、確かにいいよね。

桜井:読んでるだけだと、ただの知識だけど、音楽を聴きながらだと、感じることができるからね。

YO-KING:大瀧(詠一)さん関係の本とかもね、読んでる時に、これが大活躍する。「どんな曲だっけ?」って、パッと聴けるじゃない。音楽本を読むことも、増えましたね。

桜井:仕事で必要な音源も、「送ります」「あ、大丈夫です」って、サブスクで済むものは全部聴けちゃうから。

――使い分けですね、要は。

桜井:うん。楽しむ範囲が広がって、かゆいところに手が届くわけで。それがアナログではどう聴こえるの? というものを、本当に体験したければレコードを買う。それでいいんじゃないですかね。裾野が広がるに越したことはないですよ。あと、こういう仕事してると、持ってるレコードに、関わったミュージシャンにサインとかしてもらえる。そういうアイテムって、圧倒的にアナログレコードがいいんですよ。(鈴木)茂さんの3枚目のソロアルバムに、極太のマジックインキを持って行って、目の前でサインしてもらうとか、めっちゃ興奮しましたね。これはCDじゃ物足りない。

YO-KING:俺も、この前、「東京ラッシュ」が入ってる細野(晴臣)さんのアルバムに。

――『はらいそ』。

YO-KING:そう、『はらいそ』にサイン書いてもらった。いろんなつてを頼って、目の前で書いてもらったわけじゃないけど、うれしかったな。けっこうあるよ、うち。サイン入りレコードが。やっぱり、そういうミーハーな気持ちを忘れちゃダメよね、いくら年とっても。

――それはいい言葉だなあ。

YO-KING:子供の頃、アイドルだった人とかね。(忌野)清志郎さんのサインも、三つぐらい持ってる。もらっておいて良かったなと思うよね。本人に書いてもらったんだけど、でも、アナログにはやってもらってないんですよね。なぜか、当時かぶってた野球帽のつばの裏に書いてもらった。

桜井:俺が、衣笠(祥雄)さんに書いてもらったのと同じだ(笑)。

YO-KING:でも、お宝ですよ。うれしいですよね。30年やってて、いろんな人にお会いしてたのに、全員にもらっときゃよかったなって。そういうのはかっこ悪いのかな、とか思った時期もありつつ。でも、意外に、ちゃんとした感じで、ちゃんとした人にサインを求められたら、うれしかったりもするのかなと思うんですよね。言い方、難しいけど。

――いや、だって、ファンが『INNER VOICE』のアナログ盤を持ってきてくれたら、うれしいでしょう。

YO-KING:うれしい。そう、これはね、全部直筆サインを付けるんですよ。

――あ、そうなんですか? 素晴らしい。

YO-KING:ジャケットと同じ大きさの紙にサインして、それを挿入する。それが見えてる状態で売ってると思う。

――うれしいですね。みなさんぜひお買い求めください。

桜井:俺、この間『この世界の片隅に』のDVDに、のんちゃんにサインしてもらった。めちゃくちゃうれしかった(笑)。年下なのに。

YO-KING:でも、そういうことよね。会いたい人がいなくなったら、おしまいでしょ。艶とかハリがなくなっちゃう。上も下も関係なく、ミーハー心って絶対大事だと思う。この業界でなくてもいいし。(リオネル・)メッシのサインとか、ほしいしね。長嶋(茂雄)さんとか。ディランとか。漫画家も。

――ミーハー心を忘れるな。本日の結論ということで。

YO-KING:そう思いますよ。

(取材・文=宮本英夫/写真=三橋優美子)

■リリース情報
真心ブラザーズ『INNER VOICE』

初回盤(CD+DVD)
発売中
価格:¥3,889+税
TKCA-74694

通常盤(CD)
発売中
価格:2,963+税
TKCA-74695

LPアナログ盤
¥3,889+税
9月26日 (水) 発売
品番:TKJA-10101
※全11曲収録

<収録内容>
・CD
1.メロディー
2.トーキングソング
3.木
4.ギター小僧
5.バンブー
6.手ぶら
7.ライダースオンナ
8.一瞬
9.Z
10.バンドワゴン
11.茫洋
・耳(ボーナストラック)
・ズル(ボーナストラック)

・DVD
“メロディー”PV
“紺色”“レコードのブツブツ”“人間はもう終わりだ”“スピード2”ライブ映像
アルバム全曲の弾き語りスタジオライブ映像
※「耳」「ズル」は通常盤に収録、DVDは初回盤に付属

■ライブ情報
『HOLD BACK THE TEARS』
9月30日(日)
水戸 ライトハウス
OPEN17:00 / START17:30
【問】ホットスタッフプロモーション 03-5720-9999(平日12:00〜18:00)

10月7日(日)
熊本 B.9 V2
OPEN17:00 / START17:30
【問】キョードー西日本 092-714-0159

10月23日(火)
東京 マイナビBLITZ赤坂
OPEN18:30 / START19:00
【問】ホットスタッフプロモーション 03-5720-9999(平日12:00〜18:00)

10月28日(日)
梅田 CLUB QUATTRO
OPEN17:15 / START18:00
【問】キョードーインフォメーション 0570-200-888(平日10:00〜18:00)

11月10日(土)
仙台 darwin
OPEN17:30 / START18:00
【問】ニュース・プロモーション 022-266-7555 (平日11:00〜18:00)

11月11日(日)
盛岡 CLUBCHANGE WAVE
OPEN17:00 / START17:30
【問】ニュース・プロモーション 022-266-7555 (平日11:00〜18:00)

11月17日(土)
札幌 cube garden
OPEN18:00 / START18:30
【問】マウントアライブ 011-623-5555(平日11:00〜18:00)

11月23日(祝・金)
岡山 IMAGE
OPEN17:00 / START17:30
【問】夢番地(岡山) 086-231-3531(平日11:00〜19:00)

11月24日(土)
京都 磔磔
OPEN18:00 / START18:30
【問】キョードーインフォメーション 0570-200-888(平日10:00〜18:00)

12月1日(土)
高松 MONSTER
OPEN18:00 / START18:30
【問】DUKE高松 087-822-2520(平日10:00〜18:00)

12月2日(日)
広島 SECOND CRUTCH
OPEN17:00 / START17:30
【問】夢番地(広島) 082-249-3571(平日11:00〜19:00)

12月8日(土)
名古屋 CLUB QUATTRO
OPEN17:30 / START18:00
【問】ジェイルハウス 052-936-6041(平日11:00〜19:00)

12月9日(日)
静岡 UMBER
OPEN17:00 / START17:30
【問】ジェイルハウス 052-936-6041(平日11:00〜19:00)

12月15日(土)
沖縄 桜坂セントラル
OPEN17:30 / START18:00
【問】PMエージェンシー 098-898-1331(平日10:00〜18:00)

12月21日(金)
新潟 GOLDEN PIGS RED STAGE
OPEN18:30 / START19:30
【問】キョードー北陸チケットセンター 025-245-5100

12月22日(土)
金沢 van van V4
OPEN17:30 / START18:00
【問】キョードー北陸チケットセンター 025-245-5100

<2019年>
1月19日(土)
福岡 DRUM Be-1
OPEN18:00 / START18:30
【問】キョードー西日本 092-714-0159

1月20日(日)
鹿児島 SRホール
OPEN17:00 / START17:30
【問】キョードー西日本 092-714-0159

1月26日(土)
横浜 F.A.D YOKOHAMA
OPEN17:00 / START17:30
【問】ホットスタッフプロモーション 03-5720-9999(平日12:00〜18:00)

2月2日(土)
大阪 なんばHatch
OPEN17:45 / START18:30
【問】キョードーインフォメーション 0570-200-888(平日10:00〜18:00)

2月10日(日)
東京 中野サンプラザ
OPEN17:00 / START17:30
【問】ホットスタッフプロモーション 03-5720-9999(平日12:00〜18:00)

<チケット>
スタンディング 前売¥5,500 / 当日¥500up(整理番号付/税込/1D別)
※12月5日 東京・赤坂BLITZ 2F指定 前売¥6,500 / 当日¥500up(税込/1D別) 
※2月2日 大阪・なんばHatch 全指定 前売¥6,000 / 当日¥500up(税込/1D別)
※2月10日 東京・中野サンプラザ 指定・着席指定* 前売¥6,000 / 当日¥500up(税込)
※着席指定: 2階のお座席です。公演中、立ち上がっての観覧は出来ません。必ず座ってご観覧下さい。

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