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矢野顕子×上妻宏光による“やのとあがつま”、異ジャンルの2人が届ける伝統と革新の融合

リアルサウンド

20/2/11(火) 18:00

 シンガーソングライターの矢野顕子、津軽三味線奏者の上妻宏光によるコラボユニット“やのとあがつま”が始動。3月4日に1stアルバム『Asteroid and Butterfly』をリリースする。

(関連:矢野顕子が語る、変化する日常で音楽を奏でる喜び 「私たちは明日をも知れない存在」

 矢野、上妻が出会ったのは、2013年6月。ニューヨークで開催された和太鼓奏者のライブに上妻が出演した際に、その公演を観ていた矢野と言葉を交わした(矢野は上妻に「声がいい。もっともっと歌うべき」と進言した)のがきっかけだ。その後、日本やアメリカで共演を重ね、親交を深めた両者。上妻は矢野のアルバム『ふたりぼっちで行こう』(2018年)にも参加、「Rose Garden」(矢野のアルバム『ただいま。』収録)をピアノ、津軽三味線でセッションしている。

 民謡をモチーフにしながら、ジャズ、エレクトロなどのテイストを融合させ、日本発の新しい音楽を世界に届けるというコンセプトから始まったやのとあがつまの最初の楽曲は、先行配信された「おてもやん」。原曲は、笠置シヅ子、江利チエミ、石川さゆり、氷川きよしなども歌唱した熊本民謡で、肥後娘のことを歌ったお座敷唄という説が強い。

 やのとあがつまによる「おてもやん」は、上妻の津軽三味線、矢野のキーボードを軸にしながら、エレクトロ系のトラック、浮遊感のあるシンセサウンドなどを加えることで、レトロフューチャー的な音像に結び付けている。2番は、矢野によるオリジナルの英語詞。男性を小惑星(Asteroid)、女性を蝶(Butterfly)にたとえ、相容れない関係を描いたこの歌詞は、アルバムのタイトル(『Asteroid and Butterfly』)にも反映されている。昭和初期に書かれた民謡と最新の技術を活かしたトラックを組み合わせ、矢野、上妻の高い演奏技術と独創的なセンスをたっぷりと体感できる「おてもやん」は、このユニットが目指す音楽観を端的に示していると言っていい。

 1月末に公開された「おてもやん」のMVも話題だ。このMVの主人公は、“やのとあがつま”ではなく、2台のロボットアーム。日本家屋のなかで、ごはんやお味噌汁をよそい、三味線を弾き、扇子を持って踊るロボットアームの美しい所作を映すこのMVは、まさに日本の伝統と最新のテクノロジーの融合であり、そのコンセプトは“やのとあがつま”の在り方にも直結している。MVのディレクションはいしいこうたで、撮影は高木孝一。U-zhaan & Ryuichi Sakamoto feat. 環ROY × 鎮座DOPENESSの「エナジー風呂」、長谷川白紙の「毒」のMVなども手がけているクリエイターチーム・HOEDOWNのクリエイターだ。

 また2月1日にオンエアされた『題名のない音楽会』(テレビ朝日系)に、やのとあがつまが出演。「おてもやん」のほか、富山県民謡の「こきりこ節」(竹の打楽器の音をシンセと生楽器で表現)、宮城県民謡の「斎太郎節」(1番、2番を上妻が歌い、3番からは矢野の歌が加わる構成)、さらに「友達に“誰でも歌える曲があってもいいんじゃない?”と言われて作りました」(矢野)というオリジナル曲「いけるかも」を演奏。作曲家/シンセサイザー奏者の深澤秀行も参加し、津軽三味線、ピアノ、エレクトロサウンドが一体となった刺激的なパフォーマンスを繰り広げ、放送中から注目を集めた。

 土地に根差した伝統的な楽曲に斬新な解釈を加え、新しい音楽として再構築するこのユニットのスタイルは、言うまでもなく、矢野、上妻の豊かなキャリアと高い演奏技術、それぞれの音楽的なバックグラウンドによって支えられている。ポイントは、“民謡に対する造詣の深さ”と“ジャンルを超えたコラボレーション、セッションの経験”だろう。

 青森出身の矢野は、1stアルバム『JAPANESE GIRL』(1976年)に、津軽民謡をもとにした「津軽ツアー」、青森民謡をモチーフにした「ふなまち唄PartII」「ふなまち唄PartI」を収録。その後もキャリアを通して、民謡のカバーをたびたび披露している。またコラボレーションについては、いまさら説明するまでもない。rei harakamiとのyanokami、森山良子との やもりをはじめ、大貫妙子、佐野元春、奥田民生、大橋トリオなど、様々なジャンルのアーティストとのコラボの質と量はまさに圧倒的だ。

 幼少の頃から津軽三味線の大会で優勝するなど、長きに渡って純邦楽界を牽引している上妻は、矢野と同じく、国内外のアーティストとのセッションでも有名。マーカス・ミラー、ハービー・ハンコックなど、ジャズ、ロック、ポップスにも積極的にアプローチしてきた上妻の“津軽三味線の伝統と革新”を追求し続ける姿勢は、世界的な評価を獲得している。両者の軌跡を辿ってみれば、矢野と上妻がユニットを組むのは必然であり、自然な流れだと言っていいだろう。

 1stアルバム『Asteroid and Butterfly』には、「こきりこ節」「斎太郎節」などの民謡のリアレンジ楽曲に加え、矢野の『JAPANESE GIRL』収録曲「ふなまち唄 Part I,II」をもとにした「ふなまち唄 Part III」、新曲「会いにゆく」「いけるかも」を含む全9曲を収録。さらに4月末からは初の全国ツアーがスタートする。日本に伝わる楽曲と楽器、最新のテクノロジーを融合させたやのとあがつまの音楽は、海外のリスナーにも強くアピールできるはず。独創性と普遍性を併せ持った二人の音楽と演奏を存分に味わってほしいと思う。(森朋之)

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