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医療崩壊の悲劇がコロナ禍の今だからリアルに迫る 『JIN-仁-』一挙放送は『完結編』も見逃せない!

リアルサウンド

20/4/26(日) 10:00

 江戸の町に伝染病の“コロリ”(コレラ)が広まり、町民たちがバタバタと倒れていく。『JIN-仁-』(TBS系)の序盤で描かれたその場面は、コロナ禍の最中にある私たちにはとても遠い昔のこととは思えない。そして、隔離された場所で治療に当たり、“ギリギリで持ちこたえて”いたが、ついに自身も感染してしまう医師の切迫感も……。『JIN-仁-』が描くのは「医は仁術」と信じ、身を危険にさらしながらも、なんとか人々の命を救おうとする者たちの生き様だ。

参考:コロナ禍の時代に問う、高度医療のパラドックス 一挙再放送『JIN-仁-』を今観る意義

 『JIN-仁-レジェンド』として再放送中の名作ドラマ『JIN-仁-』。4月26日(日)からはシーズン2に当たる『JIN-仁-完結編』が始まる(※一部地域を除く)。これは2011年に放送された続編にして完結編で、東日本大震災の直後にオンエアされたことでも多くの人の記憶に残っているのではないだろうか。

 脳外科医・南方仁(大沢たかお)が2009年の東京からタイムスリップして2年が経過。仁は平成の世に戻れないまま、江戸の町で医師として生きていた。自身の名前を冠した医学所「仁友堂」には、旗本の娘・咲(綾瀬はるか)をはじめ、佐分利(桐谷健太)ら医学の志を持つ者が集まり、仁の持つ高度な医術技術を熱心に学ぶ。しかし、舞台は激動の幕末。仁は西郷隆盛や新選組の面々、皇女和宮、勝海舟ら、歴史を作る人々に出会い、時代の渦に巻き込まれながらも、親友である坂本龍馬(内野聖陽)が史実どおり暗殺されないようにと願い、その悲劇的な運命を変えようと奔走する。

 「完結編」で仁が診る病気は、脚気(かっけ)やレイノー症候群、出産時の帝王切開、虫垂炎など。150年も先の現代医療の知識を用い、当時なかったはずの麻酔や点滴の器具を江戸の職人に作ってもらった仁は、もはや無敵にすら見える。江戸の風土病であった脚気を治すため、仁たちがビタミンを多く含む食品で作った「安道名津(あんドーナッツ)」を商品化するくだりは、怒涛の展開の中でのほっこりパートだ。

 しかし、コロナ禍の今にも通じる悲しい場面も。それは緊急時における医療のリソース不足だ。第1話で仁たちが京都を訪れたとき、蛤御門の変禁門の変が起こり、町が焼けて火傷した人たちが続出。仁たちは抗生物質のペニシリンを限られた量しか持っていなかったが、その最後のひと瓶を虫垂炎で苦しむ西郷隆盛(藤本隆宏)に使ってしまう。それゆえ、町の人々を治療するにはペニシリンが使えず、西郷たちの起こした火事の被害者である町民は次々と命を落としていくのだった。これは今で言う“医療崩壊”。救えるはずの命を救えず、「俺は無力だった」とつぶやく仁の絶望感が、胸に迫る。もっと設備の整った病院だったら、医師や看護師の数が足りていれば、薬や点滴、器具が十分にあれば……。医療崩壊によって医師たちがそんな悔しい思いをするのは、現在進行形で世界のどこかで起こっていることだ。

 そして、最終の2話(5月3日(日)放送分)は2シーズンに渡って展開されたこのドラマのクライマックス。龍馬はある人物に額を斬られ絶体絶命のピンチに陥るが、「南方仁がおれば、坂本龍馬は死なん!」と力強く叫ぶ。仁は頭蓋骨を切開しての大手術を施し、なんとか龍馬を救おうとする。だが、仁もタイムスリップ時からの持病である頭痛が激しくなってしまい、自身が脳腫瘍で余命いくばくもないことを悟る。

 これまで「俺はなんのために、この時代へやってきたのか」と数奇な運命の意味を考え続けてきた仁。そこで彼がたどり着いた答えは、死ぬまでに仁友堂の医師たちに伝えうる限りの正しい知識を教えることだった。仁が咲や佐分利たちにそのことを告げる場面が、とても感動的だ。医術の道に殉じようとする仁に、タイムスリップしたときは自分の背負う使命にも医療の腕にも自信が持てずにいた彼が幾多の試練を経て成長した姿を見ることができる。

 最終回では、タイムスリップの謎解きも展開する。仁が江戸時代へ飛ばされたとき、病院に搬送されてきた脳腫瘍のある男は何者だったのか? 彼の頭の中にあった不気味な胎児様腫瘍とは? 仁の恋人だった未来(中谷美紀)と、彼女にそっくりな遊女・野風(中谷2役)の血縁関係は? そして、仁が現代に戻ってしまうと、咲とはもう二度と会えないのか? そんな数々の謎に答えを出しながら原作漫画とは違う展開にし、結末をエモーショナルに盛り上げた脚本・森下佳子の手腕が光る。

 龍馬の「死んでいった者に報いる方法はひとつしかない。『もういっぺん生まれてきたい』。そう思える国にすること」という言葉が重い。現在、パンデミックによって毎日増え続ける死者に対し、生者である私たちは何ができるのか。そう問いかけられている気がする。(小田慶子)

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