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第2回:各界の著名人が語る『最後の決闘裁判』の“ここ”がすごい!

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映画『最後の決闘裁判』は、巨匠リドリー・スコット監督の最新作であり、実話を基に描く重厚な歴史ミステリーであり、マット・デイモン、アダム・ドライバー、注目の新星ジョディ・カマーら名優たちの演技をじっくり堪能できる“多層的”な作品だ。始まった瞬間から観客を惹きつけ、観れば観るほどに謎のドラマが深まっていき、観終わったあとも考察したくなる……そんな本作の魅力を3人の著名人が解説!

本作が様々な角度から楽しめる、深掘りできる“映画館でじっくり観たい1作”であることがわかるはずだ。

1:押井守(映画監督)
 これだけの画を撮れる【監督】はそうはいない。

2:春日太一(時代劇研究家)
 本作は極めて優れた【歴史劇】といえる。

3:渡辺麻紀(映画ライター)
 R・スコットの演出に応えた【俳優】の演技力

押井守(映画監督)
これだけの画を撮れる【監督】はそうはいない。

マット・デイモンがサー(リドリー・スコット)に監督を頼んだ企画だと聞いているけど、それはとても正しい選択です。今のハリウッドで中世ヨーロッパをちゃんと描ける監督というのは極めて少なく、その最高峰にいるのがサーですから。

『最後の決闘裁判』はジャンルで言うと文芸映画になるので、サーお得意の暴力は控え目。が、それでも、さすがに“最後の決闘”シーンは素晴らしかった。甲冑と甲冑がぶつかり合うアクションでいうと、私が覚えているのはロマン・ポランスキーの『マクベス』だけど、その死闘に迫る迫力だった。

まず、褒めるべきは段取り。ロングソードを選ぶんじゃなく斧を選ぶ。そして、甲冑の継ぎ目になる足の付け根や首元を狙ったり、武器と戦術の選び方がパーフェクト。さらに、馬に蹴られたり、倒れた馬の下敷きになって身動きできなくなったり、甲冑同士のぶつかり合いだけではなく、アクションにもバリエーションを作っている。そういうところに抜かりがないから、リアリティと緊張感が生まれるだけでなく長丁場でもサスペンスが緩まない。

『ブレードランナー』のユニコーンを含め、かねてからサーは馬の使い方が上手いと思っていたんだけど、今回はそれを確信したよね。こういうアクションシーンのみならず、本作では馬をヒロインの奥さん(マルグリット)のメタファーとして使っている。

ル・グリ(アダム・ドライバー)が馬にキスしたり、馬丁に「馬を外に出すな」と言ったり、「繁殖馬だから大切にしろ」と命じたり。一方で奥さんの方は、厩舎に繋がれたままの牝馬を「自由にしてあげて」と頼んだり。つまり、当時の女性がどう扱われていたかが分かるようになっている。女性は子孫を残すために必要不可欠な財産。だから、子供を生めない女に価値はない。あの時代の男にとっての女性や奥さんの存在意義がこれほどリアルに伝わってくる映画も珍しいと思ったよ。

そうなったのも、ヒロインの奥さんにちゃんとスポットが当たっているから。だから、3人の視点の中で、やはり彼女のパートが一番面白い。

女性のパートを女性の脚本家が書いているからか、嫁と姑の関係など、男性には書けないような生々しさがある。おそらくフェミニズム的な要素もあるんだろうけど、サーは女性の権利云々について描こうとはしていない。あの時代の価値観を丁寧に描き、その中で生き残ろうとした女性の強さを描いただけ。強い女性は、(『エイリアン』の)リプリーを始め、サーの専売特許のひとつであって、別に時流に乗ったわけじゃないんだよ。そこがサーっぽくていいよね。

サーにしては、悪意が足らないなど、気になる部分がないわけではないんだけど、それでもこのクオリティ。映画的なスキがまったくない。ここまでちゃんと作り込まれているような映画は年に2、3本あるかないかだよ。

スケール感があって、美術と衣装に手間と時間をかけ、エキストラを惜しみなく動員して、これだけの画を撮れる監督はそうはいない。黒澤(明)のように一幅の絵というんじゃなく、画そのものにパワーがみなぎっている。とても80過ぎのじいさんが撮った映画とは思えない。これだけの画を撮るにはパワフルで攻撃的じゃなきゃできません! そこも、さすがサーなんですよ。

サーの映画を観るといつも「映画作りは大変」と思ってしまうんだけど、それを休むことなく続けているんだから、尊敬するしかない。

もっとディテールを楽しむために、もう一度、劇場に行こうと思っている。サーの映画はその価値があるから。

春日太一(時代劇研究家)
本作は極めて優れた【歴史劇】といえる。

本作は極めて優れた「歴史劇」といえる。

歴史劇とは、ただ過去の出来事や考証を忠実に再現すればいいというものではない。歴史劇を作ることには、大きく二つの意義がある。一つは、現代ではない「異世界」へのロマンを掻き立てる「ファンタジー」。もう一つは、現代的なテーマを遠い過去に起きた事件に仮託する「ジャーナル」。本作が見事なのは、表向きは前者のように思わせておいて、実は後者だった──と徐々に分からせてくる点にある。

舞台は中世のフランス。剛直で武人としての生き方を貫くカルージュ、教養豊かで愛に生きるル・グリ──かつて友人同士だった二人は互いの誇りを賭けた決闘に臨む。──途中まではそういう話なのかと思いきや、これが全くそうではない。実は身勝手な二人に蹂躙される、一人の女性・マルグリットの悲劇なのだ。しかも、その身勝手さはこの二人に特有のことではない。現在に至るまで多くの男性に内包されていることで、そのために今もなお多くの女性を苦しめている。本作で描かれているのは、「いつの時代も変わることのない、女性を取り巻く理不尽」なのである。

巧みなのは、その構成だ。一つの事件を巡り、当事者それぞれの視点から全く違う話が展開される──という本作の手法は、黒澤明監督の『羅生門』での橋本忍の脚本が原点だ。

最初は「誇り」を尊ぶカルージュの視点から、次に「愛」を尊ぶル・グリの視点から、「ある事件」が語られる。そして二人とも、その事件の「被害者」として訴え出たマルグリットへの強い想いが伝わってくる。が、最後に彼女自身の視点から語られることで全てが崩れる。「誇り」も「愛」も彼女を苛む独善的な押しつけでしかなく、彼らの想いはむしろ彼女をただ傷つけ苦しめるだけだった。誰も彼女自身を慮っていないのだ。

この構成がラストの「決闘」に重要な効果をもたらす。当時のフランスでは「決闘裁判」が行われ、勝者の証言が「真実」と認められることになっていた。ここでも彼女の語る「真実」は置き去りにされる──。

決闘は映画史上でも稀にみる激闘だ。が、マルグリットの視点から描かれているため、その激しさは「身勝手で愚かな野獣たちの貪り合い」という冷めた受け止め方ができてしまう。そこからは、誇りのために命がけで騎士道精神そのものを現在に至る父権社会の理不尽の象徴として捉える、作り手側の批判的視点がうかがえる。

それもまた、歴史劇において重要な役割なのである。

渡辺麻紀(映画ライター)
R・スコットの演出に応えた【俳優】の演技力

リドリー・スコットの作品で役者を撮るときは、監督曰く「ほぼ2テイク、多くて3テイク」で終わるという。ということは、それだけの回数でベストの演技ができる役者が好ましいということになる。

スコットが『グラディエーター』で組んで以来、ご贔屓にしていたラッセル・クロウもその実力を持っていたし、続くお気に入り『プロメテウス』からの3本でメインキャラクターを演じたマイケル・ファスベンダーも同じくオスカーレースの常連で、演技力は折り紙付きだった。

では、最新作の『最後の決闘裁判』はどうだろうか。スコットとは『オデッセイ』に続く二度目のコラボレーションになるマット・デイモンからオファーされ引き受けたこの企画で、スコットと初仕事になるのは、『スター・ウォーズ』シリーズのカイロ・レンことアダム・ドライバー、そしてTVシリーズ『キリング・イヴ/Killing Eve』でプライムタイム・エミー賞を受賞し、ハリウッドから熱い注目を集めている28歳の英国女優ジョディ・カマーのふたりである。

ドライバーは、デイモンと“最後の決闘”をする、処世術に長けた小賢しい男、そしてカマーは、強さを内に秘めたデイモンの妻をそれぞれ演じている。

本作の大きな特徴は、3人の言い分を描く“羅生門”形式であるため、役者は似たシチュエーションを3回演じ分けなくてはいけないし、三人三様の言い分を体現しなくてはいけない。つまり、演技力が試される瞬間が何度もあるわけなのだ。が、ふたりはそれをきっちりクリアしたのみならず、どうやらスコットのお眼鏡にもかなったようなのだ。

というのも、ドライバーは来春1月14日公開予定のスコットの作品『ハウス・オブ・グッチ』で、キーパーソンのひとりマウリツィオ・グッチを演じ、カマーはその後に撮る予定のナポレオンと妻ジョセフィーヌの関係性を描く『Kitbag』で、そのジョセフィーヌ役に抜擢されたからだ。

これは何を意味しているかと言うと、ふたりが『最後の決闘裁判』で素晴らしい演技を見せたということ。違う言い方をすれば「2テイクか3テイクでOKを出せる演技」を披露したということに、(おそらく)なる。どんどん実力をつけているドライバーは納得できるとしても、まだ映画出演経験が浅いにもかかわらず、ふたりの実力派を相手にしなければいけなかったカマーが、「3テイクでOK」だった(に違いない)、というのは驚きである。

しかも、本作の彼女は凛としてとても美しい。『キリング・イヴ』と同じ女優とは思えないくらいにフォトジェニック。スコットが女優をここまで美しく撮ったことは珍しく、演技力のみならず、その美貌でも監督の心をも奪ったのかもしれないのだ。恐るべし、ジョディ・カマー!

『最後の決闘裁判』は、スコットの演出力と、デイモン、ドライバー、そしてカマーの演技力。それらを満たすことでしか成り立たない映画だ。その難しい作品に、初めて組む役者がふたりもいるのはスコットにとっては大きな賭けだったと思うが、100パーセント成功したと言っていい。私たちが映画に魅入られてしまったことはもちろん、スコットの次回作のキャスティングが、それを見事に証明しているからだ。

『最後の決闘裁判』
公開中

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