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SATOちが始まりの地で迎えた勇退の日、涙のラストステージで「マジでMUCCに入れてよかった」

ナタリー

「MUCC TOUR 202X 惡-The brightness world」ザ・ヒロサワ・シティ会館公演の様子。(Photo by Susie)

MUCCが現体制最後となる全国ツアー「MUCC TOUR 202X 惡-The brightness world」の最終公演を、10月3日に茨城・ザ・ヒロサワ・シティ会館にて開催。この公演をもってSATOち(Dr)が脱退し、音楽活動を引退した。

1997年にメンバー4人の地元である茨城県にて結成されたMUCC。その中でオリジナルメンバーのSATOちはバンドの屋台骨を支えるとともに、ムードメーカーとして夢烏(MUCCファンの呼称)から長年愛されてきた。昨年末に脱退を発表した際には、夢烏の間で衝撃が走る一方で、新たな人生を踏み出すことを決意した彼に多くのエールが寄せられた。なお、本来はこの日の公演は5月に行われる予定だったが、新型コロナウイルス感染拡大による影響で再三延期に。先行きの見えない、ままならない状況ではあったが、その間にMUCCは配信ライブや新曲の制作などを行い、リスナーに音楽を届け続けた。

そしていよいよ迎えたツアーファイナル当日。静かに緞帳が上がると「夢」「愛」「神」「虫」「偽」「生」「死」「壊」「独」「光」などMUCCを象徴する文字を刻んだオブジェが光り、それを背にメンバーがステージへ。逹瑯(Vo)の深みのある歌声と、ミヤ(G)の爪弾くギターを合図にライブは「惡 -JUSTICE-」で厳かに幕を開けた。レーザー光線でステージに「惡」の文字が描かれる中、SATOちが刻むリズムを軸にしたバンドのアンサンブルがホールにこだまする。オーディエンスは声を発することなく、それぞれ持参した打楽器類を手に飛び跳ね、SATOちのラストステージを盛り上げた。「CRACK」「神風 Over Drive」「娼婦」「G.G.」とSATOちの特徴である激しくパワフルなドラミングが映えるナンバーが続き、ホール内のボルテージはぐんぐんと上昇。逹瑯、ミヤ、YUKKE(B)は、どっしりとしたグルーヴを背に受けながら、ステージを縦横無尽に動き回り、序盤から手加減なしのパフォーマンスを展開した。

サポートの吉田トオル(Key)が弾く躍動的な音色と、逹瑯の哀愁と妖艶さを滲ませたボーカルが魅力の「海月」、インダストリアルなサウンドが不気味な世界を描き出す「アイリス」の2曲で会場と配信を見守る視聴者を圧倒したMUCC。一瞬の間を置き、逹瑯が「ああ……」と感慨深そうに漏らすとファンは歓声代わりに手にした楽器を軽やかに鳴らした。逹瑯は深々とお辞儀をすると「危ない。なんか、ド頭2曲くらい気合いが入りすぎちゃって、自分の中で鬼気迫りすぎちゃって。今日はそういうベクトルじゃなくて楽しもうと思っていたんだった」と笑い、「今日はSATOちを泣かして帰ろうかと思います」と宣言した。その言葉にSATOちは口元をグッと引き締め、スティックを持った手を勢いよく振り下ろした。

「スイミン」で始まったブロックで、ステージ上の5人はバラエティに富んだ新旧のナンバーを惜しみなくパフォーマンス。陽気なサウンドにMUCCらしい背徳的な歌詞が乗った「Friday the 13th」、攻撃性を全開にした「SANDMAN」に続いた「パノラマ」では、SATOちがこらえきれず涙を流す。YUKKEとミヤは唇を噛み締めながら楽器を操り、逹瑯は優しい歌声で会場全体を包み込んだ。その流れを汲むように始まった「落陽」を経て、「アルファ」では星空のような美しい景色が舞台に広がる。この曲では逹瑯が歌う「一人じゃないよ 泣かないで このはじまりが今の涙を拭うから」というフレーズがしみじみと場内に響きわたった。

「すごくSATOちの人柄がにじみ出ているようなライブになってる気がしますね」。逹瑯はそう口にすると、「MUCCのメンバーは不器用なもんで。付き合いは長いですけど、思っているところはなかなか言えなかったりします。でも、ステージの上で音を出しているときはぶつかり合って、素直なもんだなと。今日は不器用な人間の素直な様を最後まで楽しんでください。(目に)焼き付けてちょうだいよ」と客席に語りかけ、「スーパーヒーロー」を朗々と歌い上げる。最新アルバム「惡」に収録されているこの曲は、逹瑯が他界した父親に向けて作ったナンバーだが、この日ばかりはSATOちに向けての餞のように響く。逹瑯が「会いたくなったらいつ来てもいんだぜ」とSATOちに呼びかけるように歌うと、SATOちは再び涙をこぼした。

「DEAD or ALIVE」を機に再び攻めのモードに突入したメンバーは「目眩」でシャウトを繰り出し、パンキッシュなドラム、ドライブ感あふれるギターとベース、朗らかなボーカルが絡み合う「前へ」をプレイ。「終わらない俺たちの世界へ行こうぜ」という逹瑯の言葉に続いた「My WORLD」では、逹瑯がSATOちの頭をマレットで優しく叩き、サビではその耳元に顔を寄せ、歌声を聞かせる。SATOちはうれし泣きのような表情を浮かべながら、その手を止めることなくリズムを刻み続けた。本編のラストを飾ったのは、繊細で優しいドラムの音で始まる「スピカ」。メンバーは穏やかな余韻を場内に残しつつ、ステージから退場した。

その後、鳴り止まない拍手に応えてSATOちと逹瑯の2人が姿を見せ、トークを開始。逹瑯は「いいライブだね。発表になってから、だいぶ時間が経って、俺含め来てるみんなも心の整理ついてる人もいるのかなと思うけど、いざライブやってみると関係ないね。こみ上げるものがあるな」と心境を吐露しながら、SATOちに「泣いたら、シッペね。1エーン、1シッペな」と冗談めかしながら宣告。一方のSATOちは「ライブ中にメンバーを見て、(音を)合わせるのが最後だなと思うとこみ上げるものがありますね。メンバーを見なくちゃいけないのに、メンバーを見れない。アイコンタクトって大事なのに、アイコンタクトをするといろんなことを思い出す」と言葉を選びながら口にする。また「今日ところどころいいポイントがいっぱいあったよ」と逹瑯が評すると、当のSATOちは「力が抜けて叩けないところとかいっぱいあったからね」と謙遜しつつ「でもヘッポコでいいんだ! もともとヘッポコだし!」と破顔した。

そのままトークが続くか思われたとき、逹瑯がステージの袖でロウソクの火が灯ったケーキを抱えるYUKKEを見つけ、「この流れでそれやるんか!」と笑いながら抗議。YUKKEが逹瑯に向けて「Happy Birthday to You」を歌いながらバースデーケーキを手に登場すると、今度はミヤがSATOちの24年間の活動を労うように巨大なデコレーションケーキをワゴンで運び込み、場内はアットホームなムードに。4人は運び込まれたケーキに舌鼓を打ちつつ、その流れでケーキを囲んでの記念撮影へ。YUKKEは「思ったより楽しくやれてますよ。1音1音噛み締めている感じです」と語り、ミヤは「打ち合わせとかしてないけど、(今日は)いいポイントあったよね。全員SATOちのほうを向いてるとか。普段はそっち(客席)に向けて表現してることを、こっち(SATOち)に向けて表現してたよね」とライブ本編を振り返った。逹瑯の「SATOち、やるか?」のひと言でアンコールが始まり、MUCCは別れを切々と歌ったメランコリックな「九日」、タイトル通り郷愁を感じさせる「家路」と懐かしい曲を続けて披露。「優しい歌」で観客がシンガロングの代わりに、SATOちの刻むリズムに合わせて手拍子や打楽器を鳴らし、メンバーの演奏に寄り添う。曲のクライマックスで逹瑯が「SATOち 聴かせておくれ 君だけのうたを」と呼びかけると、SATOちを中心に「ラララ」のコーラスが大きくなる。その声に夢烏はスマホのライトを揺らし、飛沫を防ぎながら美しいハミングで応えた。逹瑯は「バンドなんて楽しいことばっかりじゃなくてつらいことがたくさんです。つらいことがある中、SATOちを『最後のライブはすっげえ楽しかったな』という記憶で送り出したいと思います。うちらは、もうちょっとつらいの続くね」とミヤとYUKKEに視線を送る。その言葉にSATOちは大粒の涙を流しながら「マジでMUCCに入れて本当によかったです。本当にありがとう!」と叫び、力強い歌声をホール中に精一杯響かせた。

ダイナミックなバンドサウンドとカラフルなレーザーが飛び交った「ハイデ」をもってアンコールは締めくくられるが、SATOちのラストステージはまだ終わらない。最近では昨年の日本武道館公演以来となる、MUCCのライブではおなじみのSE「ホムラウタ」に乗せて再登場したメンバーは、SATOちを囲みアイコンタクトを取ると「1997」を爆音で叩き込んだ。結成年である1997年を冠したこのナンバーは、SATOちの破壊力抜群のプレイが冴えるハードロックチューン。曲が終わったと思われたそのとき、ミヤが「今のスピードじゃ終われねえよな?」とSATOちを挑発し演奏が再開される。SATOちはすさまじい勢いでドラムを叩き、ミヤの言葉に全力で応えた。

「終わりは終わりだけじゃないんだよ、始まりでもあるんだよ。受け入れて、俺たちを次に行かせてくれよ!」というミヤの絶叫に続いたのはライブの鉄板曲である「蘭鋳」。観客を巻き込んでジャンプをする恒例のパートでSATOちは「みんなが見える」と客席を見渡す。「最後の死刑宣告……俺、夢烏好きだからな……だけど、未来につなげるために、お前らを1回殺します。とりあえず最後の死刑宣告です。お前ら、未来に向かって羽ばたくぞ!」と叫び、「お前ら全員死刑! スリー、トゥー、ワン!」とカウントし、夢烏とメンバーを一斉にジャンプさせ会場を大きく揺らした。ステージと客席の垣根がなくなり、熱気が渾然一体となる中で奏でられたのは、「誰だって夢の終わりに泣いて 立ち止まって未来さえも見失って それでも僕等の旅路はずっと きっと」「さよならだけが答えではないと 幼き日々を映す明星が 僕等の未来を照らす」というフレーズが聴く者の胸に迫る「明星」。曲の途中で逹瑯、ミヤ、YUKKEの3人は優しい視線をSATOちに向けてそのプレイを見守り、ラストでは言葉に魂を込めるように「歌え 笑え」と絶唱した。

SATOちが何度もお辞儀を繰り返し、ステージを去ったあとも拍手が止まず緞帳が上がる。すると観客の前に現れたのは、ボウリングのピンに扮したSATOち、ジャージ姿の逹瑯、ミヤ、YUKKEのほか、ラヴィアンローズのkyohsuke(Dr)、Ke2(G)、YUTA(Vo)、メリーのガラ(Vo)、Psycho le Cémuのseek(B)、元girugameshの左迅(Vo)、vistlipの海(G)、umbrellaの柊(G)と春(B)、DEZERTのSORA(Dr)、the god and death starsのaie(Vo, G)と大嵩潤(Dr)、元真空ホロウの村田智史(B)というMUCCの旧知の仲間たち。ここで、会場を巻き込んでの「MUCC体操特別版」が始まり、「SATOち、24年間お疲れ様でした」というアナウンスをもってライブは終幕する。しかし、SATOちだけが緞帳の前に残され、1人スポットライトを浴びることに。彼は笑いながら夢烏と向かい合い、「皆さん、ありがとうございました。なんか……MUCCらしいね。『明星』やったあとに体操って、どう気持ちを変えればいいのかわからなくて。でもこれがMUCCの優しさだと受け入れてやったら……」とYUKKEに緞帳の外に追い出されたことをぼやく。「でもいいや! 俺も前に進もうと思うし、これからもMUCCが負けないバンドでいてほしいと心から思ってます。MUCCを一生応援し続けましょう」「俺も、MUCCも温かい目でずっと見てください。(今日はこの景色を)目に焼き付けたから一生忘れません」と伝えた。そして「こんな姿でごめんね」と謝罪しながら去るという、なんともSATOちらしい形で24年間におよぶMUCCとしての活動に幕を下ろした。

SATOちのラストステージの模様は、10月10日いっぱいまでアーカイブ配信中。ニコニコ生放送およびイープラスでは同日20:00まで国内向けの視聴チケットを販売している。

MUCC「MUCC TOUR 202X 惡-The brightness world」2021年10月3日 ザ・ヒロサワ・シティ会館公演 セットリスト

01. 惡 -JUSTICE-
02. CRACK
03. 神風 Over Drive
04. 娼婦
05. G.G.
06. 海月
07. アイリス
08. スイミン
09. Friday the 13th
10. SANDMAN
11. パノラマ
12. 落陽
13. アルファ
14. スーパーヒーロー
15. DEAD or ALIVE
16. 目眩
17. 前へ
18. My WORLD
19. スピカ
<アンコール>
20. 九日
21. 家路
22. 優しい歌
23. ハイデ
<ダブルアンコール>
24. 1997
25. 蘭鋳
26. 明星
<トリプルアンコール>
27. MUCC体操特別版

※記事初出時、本文に一部誤記がありました。お詫びして訂正いたします。

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