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『ワイルド・スピード/ジェットブレイク』でまさかの復活! シリーズの立役者ハンの軌跡をたどる

リアルサウンド

20/3/13(金) 12:00

 ハン、事実上2回目の蘇生である。なんの話かといえば、もちろん『ワイルド・スピード/ジェットブレイク』(2020年)だ。スピンオフ(『ワイルド・スピード/スーパーコンボ』)含めシリーズ通算10作目、原題だとタイトルに「サーガ」=「伝説」とつくようになりました。思えば遠くへきたもんだ。私が高校生の頃にはDVDプレイヤーを盗むアメリカのヤンキーの話だったのに、今や『ワイスピ』といえば世界的な大ヒットシリーズ、当然ここ日本でも大人気だ(まさか「週刊ダッジ・チャージャーを作ろう」が始まるなんて、1作目の時点で誰が予想できただろう?)。そしてハンの復活だけで世界が沸くようになってしまった。今回は最新作の公開を控えた今、シリーズの歴史を振り返りつつ、なぜにハンの復活でこんなに世界中のファンが騒いでいるのか、そもそもハンって誰なんだ、っていうか『ワイスピ』って何なんだ、という話をしていきたい。

参考:死んだはずのハン復活!? シリーズ最新作『ワイルド・スピード/ジェットブレイク』5月29日公開へ

 すべては約20年前、『ワイルド・スピード』(2001年)から始まった。本作はストリートレースに青春をささげるアウトローたちの友情と青春のカー・アクションとして、世界中でスマッシュヒット。しかし、2作目の『ワイルド・スピードX2』(2003年)は作品の看板だったヴィン・ディーゼルが降板し、3作目の『ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT』(2006年)に至っては、もう1人の看板だったポール・ウォーカーも離脱。公開当時、シリーズとしては手詰まり感があったように思う。しかし今になって思えば、この『3』が一つの転換点となった。シリーズを通じてのキーパーソンになるハン(サン・カン)が登場したのも『3』である。

 『3』は東京に留学してきたアメリカ人青年のショーン(ルーカス・ブラック)が、アウトローの世界で「ドリフト」を叩き込まれて成長していく姿を描く作品だ。日本からも柴田理恵、北川景子、妻夫木聡、千葉真一などが出演しているが、ここで主人公の師匠/兄貴役として登場するのがハンである。『ワイスピ』といえばチャラチャラのド派手な世界観と、ゴリゴリのマッスルが名物だが、ハンはちょっと違う。常にスナック菓子をつまんで、ひょうひょうとした態度で、時にやさしく、時に厳しく、主人公を的確に導いてゆく。そして自分の車を主人公の完全な失態でグチャグチャにされても、「金ならある。お前の人間性が知れたし、車一台くらい安いもんさ」と余裕を崩さないが、ふとした瞬間に「オレは……西部劇みたいなもんだ。東京は俺にとってのメキシコさ(※メキシコはアメリカの犯罪者が逃げる定番の国)」と、重い過去を匂わせる。それまでの『ワイスピ』には見ないタイプの男だった。ただし、兄貴分の宿命として、ハンは悪党たちとのカーチェイスの末、東京のド真ん中でクラッシュ。車は彼を乗せたまま爆破炎上してしまう。そして『3』のラスト。ドリフトキングとして大成したショーンのもとへ、『ワイスピ』の主人公・ドム(ヴィン・ディーゼル)がやってくる。彼は「ハンとはファミリーだった」と語るのだが……。

 ここからの『ワイスピ』シリーズの説明は、ちょっと難しい。時系列がバラバラだからである。『4』で邦題から数字が消えたのは、思うにこの辺の事情もあるだろう。具体的にいうと、『ワイスピ』の時系列は以下のようになっている。なお()内は邦題だ。

 『1』→『2』→『4(MAX)』→『5(MEGA MAX)』→『6(EURO MISSION)』→『3(TOKYO DRIFT)』→『7(SKY MISSION)』→『8(ICE BREAK)』→『外伝(スーパーコンボ)』『9(ジェットブレイク)』

 つまり『4』『5』『6』は『3』の前日譚になる。この前日譚として語られるのが、ドムとハンがファミリーだった時期の話だ。もちろん現在進行形の話でもよかったはずだが、過去を遡る形式になったのは、恐らく監督の続投も影響があったのだろう。『4』『5』『6』はすべてジャスティン・リンという監督が撮っていて、そのすべてにハンは登場している。リン監督とサン・カンは『ワイスピ』以前のインディーズ映画時代から組んで仕事をしていた。同じアジア系という意識から、2人の間には強い絆があることは想像に難くない。かくしてハンは将来的に死ぬという条件付きだが、時空の歪みによって物語的には生き返った。

 ここからシリーズは急速に方向性を変えていく。簡単に言うと「レース」要素が抜けて、「車でいかに無茶ができるか?」と意識が変化し、アクションとキャラクターの濃度がドンドン濃くなっていったのだ。『4』で兆候は見えていたが、ロック様ことドウェイン・ジョンソンが参戦した『5』で、この方針は決定的なものになる。100億円が詰まった金庫を車で引きずりながら、リオの街を破壊するカーチェイス。景気の良すぎるエンディング。私は劇場で観たとき景気の良さに泣いてしまった。まさに完璧なエンターテインメント。そしてド熱血ド武闘派のロック様、男気の塊ヴィン・ディーゼル、ひょうきんなタイリースに、スマートなリュダクリス……などなど、前に出るタイプのキャラが多い中、常に一歩引いてひょうひょうとしているハンは逆に目立った。『5』は世界中で大ヒットし、いちやく『ワイスピ』は世界が注目する大人気シリーズとなる。ハンがいたから『4』の話はできたのだし、それに続く『5』もできた。いわばハンはシリーズの立役者でもあったのだ。

 映画的には『5』で物凄く綺麗に終わったのだが、ここまで大ヒットすると続編を欲しがるのがハリウッド。そして期待に応えるのが監督である。『6』では、『4』で死んだドムの恋人レティ(ミシェル・ロドリゲス)が、「銃で頭を撃ち抜かれたかと思いきや、実は車の爆発に巻き込まれただけで生きていた」という禁断の秘技・歴史修正で復活。頭を撃たれたらアウト、爆発に巻き込まれたらセーフという疑惑の判定はさておき、人気キャラの帰還によって再び大ヒットになった。しかし、シリーズとして順調に人気を拡大していく中で、大きな問題も浮上する。時系列的に、いつかハンが死なないといけない点だ。『4』『5』と、ハンは毎回「これが終わったら東京へ行くよ」と、『3』へ繋がる発言をして誤魔化していたが、それも限界が来てしまった。『6』のラスト、ついに物語は『3』へ繋がるのだが、ここでもワイスピは再び伝家の宝刀・歴史修正を行ってしまった。これが事態を複雑化させる。「ハンは事故ったのではなく、ドムを恨む最強の男デッカード・ショウに殺された」ということになったのだ。そしてショウ役は、まさかのジェイソン・ステイサム。「えっ、ヴィン・ディーゼルとロック様がいる中に、ステイサムまで来るの!?」ファンは衝撃に包まれた。紅白で長渕剛と桑田佳祐が歌っていたら、中島みゆきが乱入してきたようなものだろうか。

 全世界が注目する中『7』が公開された。ハンの死によって、ようやく物語は前日譚から「現在」へ戻る。かくしてドムたちと、ハンを殺したショウとの戦いが描かれる……と思った矢先、悲劇が起きた。本シリーズの看板だったポール・ウォーカーが、現実の自動車事故で他界してしまったのだ。もちろん撮影はストップ、ストーリーも大幅な見直しを余儀なくされた。一時期は公開も危ぶまれたが、この逆境に対して、監督のジェームズ・ワンは最大限の技術と誠意をもって応じる。ロック様、ステイサム、ヴィン・ディーゼルのアクションシーンをテンコ盛りにしつつ、名曲「See You Again」が流れるエンディングで世界中の涙を誘ったのだ。映画は大ヒットして、「See You Again」もメチャクチャ売れた。しかし、元からそうだったのか、あるいはどこか別のタイミングでそうなったのか。憎むべき悪役のステイサムについては、刑務所拘留エンドという灰色決着になる。ポール・ウォーカーという柱を失った以上、ステイサムのようなスターを退場させてしまうのは惜しい……そんな作り手の判断が垣間見えた。

 そして問題作『8』である。ここではショウがドムの仲間として本格参戦してしまう。つまり、愛すべきハンを殺した悪党が、主人公一行に加わってしまったのだ。おまけにステイサム演じるショウが魅力的だった点もイイ意味で厄介だった。メチャクチャ強くて悪いのだが、お母さん(ヘレン・ミレン!)には頭が上がらないし、赤ん坊にはやさしい。愛嬌の塊である。ステイサムを切るには惜しいが、切らないと道理が通らない……そんなアイロニーが全編を通して漂っていたのは事実だ。とはいえ最後に『ワイスピ』恒例、みんなそろってのバーベキュー大会にショウが普通にいたのは、さすがにファンを困惑させた。私自身も一ファンとして「ステイサムはカッコいいけど、そいつはハンを殺したやつやぞ」という矛盾する気持ちがあった。世界中のファンも賛否両論。作り手の中でも意見が割れた。ショウとホブスを主人公にした外伝『スーパーコンボ』がヒットする一方、SNSでは#justiceforhan(ハンに正義を)というハッシュタグが流行したのは、そうした混乱の何よりの証だろう。こうした混乱の中――。

 ハン、おまえ生きとったんか~~!? である。たしかに『3』で車ごと爆破炎上していたが、最新作の予告編では確かにハンが出てきた。今のところ助かった理由は不明だが、監督はちゃんとした説明があると語っている。伝家の宝刀・歴史修正なのか、あるいは『スーパーコンボ』で明かされたハイテクパワーの産物なのか、今はまだ謎のままだ。ただ、あのハンが復活し、監督のジャスティン・リンも復帰したのは間違いないのである。シリーズが低迷した頃に登場し、監督と共にシリーズを盛り上げた男・ハン。彼が今後いったいどうなっていくのか? というかなぜに助かったのか? 気になって仕方がない。何かと不安になる話題が多い昨今、いろんな不安をブッちぎる『ワイスピ』が必要だ。残念ながら公開は延期になってしまったが、とりあえず今は手洗い、うがい、そしてシリーズ名物のコロナビールを片手に、できる限り1番デカい肉を焼きながら、『ジェットブレイク』を楽しみに待ちたい。(加藤よしき)

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