Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

ピノキオピー特別対談②:クリプトン佐々木渉氏と考える“初音ミク”と“ボカロシーン”

リアルサウンド

21/3/25(木) 19:00

 ピノキオピー初のベストアルバム『PINOCCHIOP BEST ALBUM 2009-2020 寿』のリリースを記念した対談企画。初音ミクの開発者であるクリプトン・フューチャー・メディアの佐々木渉氏とのクロストークが実現した。

 エレクトロニカや電子音楽のコアなリスナーでもあり、ピノキオピーの音楽についてはVOCALOID「初音ミク」の開発者としての立場を超え「ファンとして聴いてきた」という佐々木氏と共に、ピノキオピーの、そして初音ミクのこれまでとこれからについて語り合ってもらった。(柴 那典)

流行りに背を向けず、時代にとけ込もうとはしていた(ピノキオピー)

ーー今回はピノキオピーさんから佐々木渉さんと改めて対談の形で話してみたいということだったんですよね。

ピノキオピー:そうですね。お会いしたことは何度かあったんですけれど、ちゃんと対談形式で喋ったことはなかったので、今回の機会に改めてお話をしたいな、と。

ーー佐々木さんはそのお話を受けて、どういう第一印象でしたか。

佐々木渉(以下、佐々木):特に個性的というか……異端な作家さんとして、ピノキオピーさんの曲は2009年から聴いていましたね。シリアス系から楽しいポップなものまで色とりどりの楽曲に、ブレイクコアから影響を受けたような、エッジの効いたビートが組み合さっていることに驚きました。

 クリプトン・フューチャー・メディアは、今となっては「初音ミクの会社」と言われることが多いんですけれど、そもそもヒップホップなどで使わるサンプリングの音素材を販売するところから始まった会社でして。90年代は、The Chemical Brothersのようなビッグビートと呼ばれていた音楽や、幻想的なトリップホップ、攻撃的なブレイクコアもしくは、Daft Punkや電気グルーヴなどのキャッチーなテクノ/エレクトロとか。そういうジャンルのテクニックに影響を受けたサンプリングCDを沢山売っていたんですね。そのようなサンプリングを使ったダンスミュージックの流れと、ネット時代のボカロを化学反応させている印象が常にピノキオピーさんにはあるんです。

ピノキオピー:そんなニュアンスを感じてくださってたんですね!意識したことなかったので面白いです。僕、活動初期の頃はDAW(音楽制作ソフト)のことがあんまりわかってない状態だったんですよ。それこそオーディオサンプルを貼り付けること自体も2009年に初めて知ったんです。ブレイクコアやエレクトロニカのようなジャンルも好きで聴いてたんですけど、僕が昔作っていた音楽はパンクやメロコアだったので。初音ミクを使ってニコニコ動画に曲を投稿するにあたって、なんとかして目立ってやろう、派手なことを盛り込んでやろうという気持ちがあってブレイクコア的なことを盛り込んだんです。それが佐々木さんの目に留まったんだと思います。

佐々木:今日の対談の前にもベストアルバムに収録される曲を聴いてきたんですけれど、「eight hundred」が、エモーショナル過ぎて、頭がくらくらしています。初音ミクがしっとりと嘘を唱えていく感じが、今、聴いても…いや10年以上経った、今だからこその発見もある(笑)。この曲に限りませんが、目線や切り口が独特ですよね。

ピノキオピー:嬉しいです。これは2009年の4月に投稿した曲なので、ベストアルバムに入ってる曲の中では一番古いですし、歴史を感じますね。

ピノキオピー – eight hundred feat. 初音ミク

ーーブレイクコアというキーワードもありましたが、佐々木さんとピノキオピーさんの共有するルーツはどのあたりでしょうか?

ピノキオピー:Aphex TwinとかSquarepusherは当時すごく好きでしたね。今も好きなんですけど、当時はやたらと傾倒してました。あとはμ-Ziqも。

佐々木:そうなんですね。僕もこういうお仕事をしながら、昔から好きだったAphex TwinとかSquarepusherのライナーノーツを書かせていただいたりもしていて。μ-ZiqのPlanet Muや、Touched Musicなど向こうは捻くれた最先端音響で実験で万人受けはしない印象。VOCALOIDの音楽は、歌詞や歌の最先端で聴きやすい曲も多いという印象があります。今は90年代と違って、どちらもネット上にあって、多様な音楽を聞けるのが楽しい。ボカロらしいロックやポップスを極めようとしてる曲も勿論好きですが、特にピノキオピーさんのように、多様が混ざっていると「オッ!」っとなり興奮しますね。

ーーピノキオピーさんが2009年に初音ミクを使って投稿を始めたきっかけはどういう感じだったんでしょうか?

ピノキオピー:何も飾らずにいうと「流行ってるからやってみよう」というくらいのものだったんですよね。軽い気持ちで始めたんですが、初めて不特定多数に褒められるという経験が衝撃的でした。それまで趣味で個人的に音楽を作っていただけだったのが、そこから「どうやったら面白がってもらえるか」「こういうことをすると反応が良いな」とか、受け手の目線を想像しながら作るようになったんですよね。そのきっかけが、ボーカロイドであり、初音ミクだったんです。僕はもともと漫画を描いていたんですけど、友達に見せても反応も良くないし、何を作ってもうまく行かない状態だったので、描くのをやめてしまいました。でも、ボーカロイドで曲を作って投稿したら、ネットを通して好意的な反応をもらえた。その嬉しさでモチベーションが保てましたし、創作を続けられるきっかけになりましたね。

ーー佐々木さんがピノキオピーさんの存在を知ったのは?

佐々木: 2009年当時は出てくるボカロ曲を全部聴きたいってくらいの気持ちでいたので、その頃からですね。ピノキオピーさんの曲は8割以上聴いていて、かつ6割はリアルタイムで聴いています。たとえばウチで初音ミクの最初の企画開発期から携わっている目黒というスタッフが画面に食い入るように「アイマイナ」を聴いていたことがあって。他にも「好き好き好き好き好き好き好き好き好き」中毒になって口ずさむスタッフとか、曲のインパクトに焼かれた人達の光景が記憶に残ってます。

 あとは「マッシュルームマザー」が出てきた時に「思いっきりサイケデリックな方向に行ったんだ」とか、その後、「m/es」の冷ややかな音で「これピノキオピーさんっぽいけど、ピノキオピーさんじゃないよな?」と思ったり。「ひとりぼっちのユーエフオー」で「やっぱりブレイクビーツ好きなんだな」と感じたり、いろんな思い出がありますね。ピノキオピーさんの音楽を聴いていたリスナーならではの体験をいくつもさせてもらってます。あとは、高速ロックが流行り始めた時に、それっぽい雰囲気が入ったブレイクコアをさも高速ロック風に聴こえるように組み立てていたのも傑作でした。

ピノキオピー:それは、流行りの高速ロックを、ぼくが技術不足でうまく模倣できなかったからなんですよね。ギターも軽くしか弾けないですし、バンド出身の人と比べるとその武器では勝負できない。けれどオーディオサンプルを組み合わせて作ると違ったニュアンスになるし、かつ、僕の好きな音になる。たまたま差別化が図れたようなものですね、意図的ではなく、自分の出来る範囲で挑戦したらこういうスタイルになった、というイメージです。

佐々木:それが結果としてすごいエモく感じたんでしょうね。「腐れ外道とチョコレゐト」を聴いた時も、グリッジ感のあるビートと、間奏のシンセリードの強さなども相まって、周りの人たちがざわざわしてる雰囲気もありましたし、こういう曲を何曲か出していくのかなと思ったら、全然違う方向に振ってきたりもして。その感じもあっけにとられましたね。

ピノキオピー:「腐れ外道とチョコレゐト」はありがたいことに沢山聴いてもらえたんですけど、「一度ウケたからもういいや」って。また同じことをやるのが嫌だったんですよね(笑)。

ピノキオピー – マッシュルームマザー feat. 初音ミク / Mushroom Mother

ーー「腐れ外道とチョコレゐト」を発表した2011年から2012年くらいはボーカロイドシーンがどんどんメジャーになっていく時期だと思います。ボカロPが商業的に成功してメジャーデビューしていく潮流については、ピノキオピーさんご自身としてはどんなふうに考えていらっしゃったんでしょうか?

ピノキオピー:ボーカロイドシーンの渦中にはいるんですけど、他人事みたいなイメージで見てましたね。盛り上がってはいたし、聴きながら参考にしていた曲もありましたけど、心の芯から震えるほど面白いと思うことはあまりなかったですね。淡々と現象として見ていた気がします。それでも、流行りに背を向けずに、時代にとけ込もうとはしていました。だけど、ずっとそれにどっぷり浸かるのも違うと思っていましたし、自分の好きなものと照らし合わせて、シーンの中でどうカードを出せば、聞いてくれる人のニーズとうまいこと調和できるかを考え続けていました。

ピノキオピー – 腐れ外道とチョコレゐト feat. 初音ミク / Kusare-gedou and Chocolate

ーーピノキオピーさんにとってターニングポイントになったと思える曲はどれでしょうか?

ピノキオピー:色々あるんですけど、最初のきっかけで言うと2009年の「eight hundred」ですね。あの曲で初めてニコニコ動画のマイリスト登録数が4桁に到達しました。それまで2桁だったので、「これは多くの人に受け入れられたんだ」という実感がありました。「eight hundred」がなかったらピノキオピーとしての活動は続いてなかったと思います。明らかに見てくれる人が増えたのは、2011年の「腐れ外道とチョコレゐト」ですね。そこから外側へ向けてどんなアプローチをするかをより考えるようになりました。

 そのあとのターニングポイントは2014年の「すろぉもぉしょん」ですね。「腐れ外道〜」って、僕の中ではあまり本意ではないというか、半分くらい自分なんですけど、半分くらいは流行りを考えて作った曲だったんです。でも、「すろぉもぉしょん」は自分が100%入っている曲で、それが「腐れ外道〜」の再生数を抜いた。そこからピノキオピーの核となる部分を皆にやっと知ってもらえたというイメージでした。なので、その3曲ですね。「eight hundred」で知られて、「腐れ外道〜」でより一層マスに見られるようになった。でも自分のイメージとのギャップがあったところ、「すろぉもぉしょん」でそのギャップが埋まったっていう感じです。

ーー「すろぉもぉしょん」の自分らしさというのは、どういうポイントが大きかったんでしょうか?

ピノキオピー:フォークっぽい、人生のことを歌いながら軽く聴けるような歌詞も、牧歌的な、ちょっと懐かしさを感じるメロディラインも自分の好きなものの凝縮なんですよね。「すろぉもぉしょん」はその2つの好きがバランス良く詰まっています。2014年当時のボカロシーンって「こういう曲がウケる」みたいなセオリーが飽和してきた谷間の時期だったんですよ。そんな時、「すろぉもぉしょん」が出来て沢山聴いてもらえた。ということは、シーンの流れとかあまり関係なく、僕自身が受け入れられたという印象が強かったですね。

ピノキオピー – すろぉもぉしょん feat. 初音ミク / SLoWMoTIoN

ーーその当時のシーンとピノキオピーさんの曲を振り返っていただいて、佐々木さんとしてはどうでしょう? 

佐々木:その頃って、「千本桜」とか「カゲロウプロジェクト」のような山があった後で。わかりやすいひとつのスタイルでは注目度の持続も難しくなり、シーンの多様化が進んでいった頃だと思うんです。そういう中で僕としては、ピノキオピーさんの曲は毎回アイディアを変えてきていて、勇敢というか果敢と言うかゲリラ戦法と言うか(笑)、ピノキオピーさんの粘り強さを改めて感じてました。

ピノキオピー:そんな見方をしていただけてたんですね(笑)。

佐々木:「毎回いろんなアイディアを取り入れる」行為が、僕には励みだったところはありますね。あと今回のベストアルバムのラインナップには入っていなかったんですけど、「こどものしくみ」(2013年)も入れてほしかったなって……(笑)。

ピノキオピー:.……実は入れるかすごく迷ったんですよね。

佐々木:そうなんですね(笑)。プリミティブな感じだとか、エモーショナルな感じって、どの曲にも大小様々に入っていると思うんですけど、「こどものしくみ」はピノキオピーさんの描くイラストの目ヂカラも印象的で。子供の目線や夏の夜というストレートなテーマが、自分の中の子供っぽさや、記憶もフラッシュバックしました。自分は子供の頃からひねくれてたり、長いこと夢遊病/夜驚症(※主に幼少期に、無意識で歩きだしたり叫びだしたりする病気)だったので、修学旅行とか怖くて(苦笑)、ありがちな青春アニメとかでは全く追憶できなかった部分があるのですが、「こどものしくみ」は曲名通り、子供独特のロジカルな部分も残忍さもありって感じで、自分はありがたく聴けました。

ピノキオピー:「こどものしくみ」は2013年に書いたんですけど、あの頃は僕自身成熟してなかったと思ってます。子供の気持ちが残った状態だったんですよね。だから、当時は素で書いている感じでした。初期は「おもちゃ箱をひっくり返したような曲」と形容されることが多かったんですが、無意識に童心で作っていたことが影響している気がします。

ピノキオピー – こどものしくみ feat. 初音ミク / Kodomo no Shikumi

2009年のボカロシーンと今は明らかに違うシーンになっている(佐々木)

ーーピノキオピーさんがご自身の声で歌ってライブをするようになったのは2014年の後半から2015年の頃ですよね。このあたりの転機は?

ピノキオピー:最初は、ライブをやりたい気持ちはあるのに、自分は目立たず引っ込んでる状態がベストだと考えていたんです。なので、最初にやったライブでは僕は前に出ず、黙って機材をずっといじってて、知人に全身タイツの変なコスプレを着せて、前に立たせて踊らせていたんですね。でも、これだと手応えもなくて、お客さんからしても意味がわからないから盛り上がらなくて(笑)。本人がいることにちゃんと意味があるようにしたくて、ある時、ボカロとユニゾンで歌ってライブをしてみようと思いたったんですね。そうしたら、現場で作者本人が歌うからか、ちゃんと盛り上がって、手応えを感じたんです。それが現在のライブスタイルの雛形になっています。

 あとは、同時期にBUMP OF CHICKENさんや安室奈美恵さんが初音ミクとコラボしていて。あの、人間とボカロが共存している形式が面白かったんですよね。でも、ボカロシーンの内部から第一線でそれをやってる人がいなかった。そういう状況も踏まえてボカロとデュエットするスタイルを突き詰めるようになっていきました。

ーー安室奈美恵やBUMP OF CHICKENの初音ミクとのコラボも2014年〜2015年頃のことだったと思います。特に安室奈美恵さんの「B Who I Want 2 B feat. HATSUNE MIKU」はSOPHIEとのコラボということも含めてすごく大きな意味もあったと思いますが、このあたりは佐々木さんとしてはどう振り返っていますか。

佐々木:実は「初音ミク面白いよね。一緒にやろうよ」って声をかけてくださった海外の方はもっと沢山いたんです。でも実際に初音ミクのソフトを送ってみると、使い方とかハメ込み方が難しくて。SOPHIEと安室奈美恵さんの時も、実はもっと大御所の方が1年くらい前にやったものがあったんですけれど、それは僭越ながらお断りして。それでも安室さんサイドから「SOPHIEとも連絡を取っています」と話を聞いて、たまたま僕もSOPHIEが大好きだったので「それだったら何としてもやりたいです」と言ったのを覚えています。それでも大変だったんで、Mitchie Mさんに協力をお願いしました。かたやBUMP OF CHICKENの時はkzさんがすごく初音ミクらしい感じで歌わせてくれた。良い意味で両方とも賛否両論あったと思います。

 人と並んだ時の違和感みたいなものって、初音ミクの声の大元のロジックを知っている人間として最初はすごく怖いことだったんです。でも、その違和感を若い世代の人たちが案外受け入れてくれる雰囲気もあった。そういうところで一歩を踏み出す勇気が重要なんだなと思っていたら、ピノキオピーさんがガンガン歌うようになって「やっぱり、そうだよな」って思いました。あとは「祭りだヘイカモン」とか「頓珍漢の宴」みたいな民謡やファンクが混じったような曲が出てきたことも、身体性が増したという意味で、ご自身で歌われるようになったことに近い傾向なのかなと思います。

ピノキオピー:まさにそうですね。その2曲辺りからライブを想定して曲を作ることが増えました。それまではインターネットの世界で完結していたので、ここで曲展開を引っ張ると現場でお客さんが盛り上がってくれるとか、身体的な想定までできてなかったんですよね。ネット上のコメントだけではわからないニュアンス。実際にそこにいるお客さんのレスポンスを含めた高揚感を意識するようになりました。自分の声を入れることになってだいぶ変化はあったと思いますし、ボーカロイドの人間的ではないところと身体性とのギャップの面白さをより感じるようになったと思います。

ーーボーカロイドと一緒に歌うようになって、曲調や方向性もどんどん変わっていった。

ピノキオピー:そうですね。変わっていきました。ライブをし始めた頃はちょうど悩んでいて、やりたいことを見失っていた時期だったんですけど、ボカロと歌うことで息がつながったというか、音楽的にやりたいことが増えたんです。本来の意味でのダンスミュージックへの理解がより深まったというか。それまでは曖昧に感じていたボディミュージック、ベースミュージックとしての魅力をより強固に感じるようになりましたね。

ーーここ数年で発表したものからピノキオピーさんにとって思い入れの深い曲、大きな意味合いを持ったと感じている曲は?

ピノキオピー:音楽的な意味合いで言うと、「アップルドットコム」(2017年)ですね。3カ月に1回は楽曲を投稿をしないと「間が空きすぎかな?」と焦っちゃうんですけど、この時期は仕事のスケジュールの都合で4ヶ月間新曲を投稿できない状況になってしまったんです。それは避けたかったので、突貫工事で1曲あげることに決めました。ナンセンスな歌詞と省エネな音で構成すれば間に合うかなと思い、制限のある中で制作したら、その力の抜け具合が思いのほか良かった。ニコニコ動画とYouTubeのユーザー数が入れ替わりつつある時期だったのと、音数の少なさも手伝って、この曲をきっかけに海外のファンが増え始めたのを覚えています。その後もガチャガチャした曲も書いてるんですけど、「アップルドットコム」は楽曲の情報を削ぎ落とすことの良さに気づいた大事な曲だったと思います。

ピノキオピー – アップルドットコム feat. 初音ミク / Apple dot com

ーー初音ミクの10周年記念コンピ『Re:Start』に収録された「君が生きてなくてよかった」(2017年)や、2020年の『マジカルミライ』のテーマソング「愛されなくても君がいる」など、ここ最近は初音ミクやボーカロイドをテーマにした楽曲もありますね。

佐々木:ピノキオピーさんに書いていただいた『マジカルミライ 2020』のテーマソングの「愛されなくても君がいる」って、歌詞の世界観やメロディにしても「こんなに心が軽くなる感じに、聴きやすかったっけ?」っていうようなニュアンスがあって。僕は最初ピノキオピーさんが書いてくださったテーマ曲だとは知らない状態で聴いて「これ、すごく良いメロディだけど誰の曲?」ってスタッフに聞いたら「ピノキオピーさんの曲に決まってるじゃないですか」と、半ば怒られたのを覚えていますね(苦笑)。「君がいる/〇〇でなくてよかった」という楽曲は自分の脳内でシリーズっぽく認識してしまっていて……どれも大きな優しさを感じるんですが、やっぱり天の邪鬼で(笑)、でもだからネットのリスナーが信頼する、臭くない優しさなんだと思います。

ピノキオピー – 愛されなくても君がいる feat. 初音ミク / Because You’re Here

ーー改めてピノキオピーさんにご自身の歩みを振り返っていただいて、どんな思いがありますか?

ピノキオピー:僕が今日までやってこれたのは、2009年頃、ボカロで音楽を作ることが職業になるとは全く思ってなかった時期に、遊びで始められたのが大きかったと思います。ボカロを使うことが生活に繋がるような機運は全くなかったので、友達に「それ将来に繋がるのか?」って言われながら「でも楽しいからやってるんだよね」みたいな感じで。最初に、みんなに見てもらえたという純粋な嬉しさが根底にあったから、その気持ちを糧にして12年続けてこれた。

 あとは、ブームに飲まれない核みたいなものを持ったかっこいいアーティストに憧れるので、核そういう自分が聴いてきたもの、好きなもののおかげで、あまりブレずにやってこれたのかなと思いますね。そこをブレずにやった結果として聴かれなくなっていく怖さもあるとは思うんですけど、いまだに続けられてること自体が本当に嬉しいし、応援してくれてる人たち、僕の作品を良いって言ってくれてる人たちには感謝しかないです。こんなに長く続けられたこと自体が本当に奇跡だと思ってます。

ーーベスト盤には「10年後のボーカロイドのうた」も収録されていますが、初音ミクとボーカロイドシーンのこれまでについてはどう考えていますか?

ピノキオピー:2009年当時のボカロシーンと今は明らかに違うシーンになっていますよね。 その中でも、純粋に自分の音楽が良いと思ってボカロを始める人達はいると思います。独創的で面白い人がもっと報われる場所になって欲しいですね。ボカロに限らず、今はSNSの時代になって、クリエイティブが負けてしまうんじゃないかみたいな焦燥感がすごくあるんですよね。仕掛け方とか見せ方とか、それも大事なことだけど、そういう部分のみで目立つものが台頭してきている。クリエイティブの力をもっと信じられる世界になってほしいです。

佐々木:初音ミクのファンって、いろんなタイプの人がいると思うんですよね。ボカロを音楽として捉えて追いかけているファンもいれば、初音ミクそのもののキャラ……存在感というか、臨場感が好きな人もいる。みんながミクについて少しずつ違う意味でイメージを寄せている。そういう状況が好きな人も沢山いる。人それぞれの違いが認められていると思うんです。違いが認められる「しくみ」があると信じてるし信じたい。ピノキオピーさん達の曲が後押ししてくれているとも感じます。正直、今日のピノキオピーさんとの対談みたいに、自分が率直に1人のボカロPさんとこういう話をするのはなかなかないことで、ちょっとタブーなんです(笑)。

 ただ、「10年後のボーカロイドのうた」や「すきなことだけでいいです」、「ぼくらはみんな意味不明」などの世界観を考えると、ピノキオピーさんはボカロのファンにとっての代弁者というか「私が思っていたボカロや初音ミク、ネットや現代社会に対するイメージってこうなのかも」みたいなところを鋭く風刺している強さも含めて支持がある。僕が面倒くさい感じの音楽ファンだから言えるんですけど、ピノキオピーさんの音楽は現代における、ネット時代ならではの、DTMとジプシーの方々のハイブリッド音楽というか。

ピノキオピー:そうですかね(笑)?

佐々木:すいません、少し強引ですね(笑)。ただ、昔のジプシーの方々って、音楽をしながら旅や共同生活している人たちも多かったりしましたが…今でいうと、ネットサーフィンを通じた小旅行の先に、ピノキオピーさん達の、おもちゃ箱をひっくり返したような曲や、天真爛漫な音楽観がある。「とにかく楽しく音楽をやろう」とか「みんなおいでよ」って言ってくれている感じがある。こういう風にハードルが低くて、子供っぽい感覚でも素直に楽しめる音楽って、意外とあるようでないんですよね。そういう音楽があって、なんとなーく「自分ももっと聴いてみよう」「何かやってみよう」「音や声で遊んでみよう」と思えるようなキッカケになって、その先にふわっとした初音ミク達もいたりする。(自分の妄想ですが)そういう小さな幸せと、ピノキオピーの世界観は、いつも混ざり合っているように見えて、いつもとってもありがたいと思うんです。

合わせて読みたい

・ピノキオピー特別対談①:DECO*27と語り合う“ボカロの過去・現在・未来”

■リリース情報
ピノキオピー
『PINOCCHIOP BEST ALBUM 2009-2020 寿』
発売日:2021年3月3日(水)
価格:¥3,800+税
品番:UMA-9139-41
仕様:初回仕様限定盤三方背BOX付き3CD+P.32ブックレット

<Disc1>
01. 愛されなくても君がいる
02. すきなことだけでいいです
03. おばけのウケねらい
04. ニナ
05. すろぉもぉしょん
06. アップルドットコム
07. からっぽのまにまに
08. モチベーションが死んでる
09. 頓珍漢の宴 – MV edit –
10. マッシュルームマザー
11. きみも悪い人でよかった
12. ぼくらはみんな意味不明
13. 10年後のボーカロイドのうた

<Disc2>
01. セカイはまだ始まってすらいない
02. はじめまして地球人さん
03. ありふれたせかいせいふく
04. 腐れ外道とチョコレゐト
05. 空想しょうもない日々 – MV edit –
06. 内臓ありますか
07. ボカロはダサい
08. 祭りだヘイカモン – MV edit –
09. ゴージャスビッグ対談
10. アンテナ – re-rec –
11. ラブソングを殺さないで
12. eight hundred
13. 君が生きてなくてよかった

<Disc3>
01. マッシュルームマザー – ZANIO & PinocchioP live remix – / ZANIO & ピノキオピー
02. ニナ – Jumping remix – / ピノキオピー
03. ラブソングを殺さないで – JAPAN EXPO remix – / ピノキオピー
04. すきなことだけでいいです – DECO*27 & TeddyLoid remix – / DECO*27 & TeddyLoid
05. ぼくらはみんな意味不明 – nu metal remix – / 鬱P
06. アップルドットコム – Sickness remix – / ARuFa
07. ヨヅリナ – doze off remix – / ササノマリイ
08. 祭りだヘイカモン – 姦し remix – / 梨本うい
09. はじめまして地球人さん – nakatagai remix – / 椎名もた
10. 内臓ありますか – ATOLS remix – / ATOLS
11. すろぉもぉしょん – sasakure.UK remix – / sasakure.UK

『PINOCCHIOP BEST ALBUM 2009-2020 寿』特設サイト

■関連リンク
ピノキオピーオフィシャルHP

アプリで読む