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一路真輝 × 愛加あゆ『エニシング・ゴーズ』母娘対談 ハーコート夫人&ホープは「すごくポテンシャルの高い親子」

ぴあ

左から 一路真輝 愛加あゆ  撮影:川野結李歌

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1934年にブロードウェイで初演されたミュージカル『エニシング・ゴーズ』。豪華客船を舞台に、ナイトクラブのスター歌手リノ、指名手配中のギャング・ムーンフェイスら個性的な登場人物が繰り広げる、恋ありスリルありドタバタありの楽しい物語を、アメリカで最も偉大な作曲家とも称される巨匠コール・ポーターの名曲が彩る人気ミュージカルだ。日本でも何度も上演を重ねる人気作だが、今回は宝塚歌劇団の原田諒が演出・潤色を担当、主役のリノを元宝塚歌劇団星組トップスターの紅ゆずるが演じるニューバージョン。これぞブロードウェイ・ミュージカル! のゴージャスさ、明るさがある作品にふさわしく、製作発表もクルーズ客船「にっぽん丸」で開催する豪華さだったが、その会見後同じく客船内にて、ハーコート夫人を演じる一路真輝、その娘ホープを演じる愛加あゆに本作の見どころや意気込みを訊いた。

宝塚歌劇団の先輩・後輩の共演

――船の上での製作発表、豪華でしたね。

一路 本当に、作品にぴったりで。私、自分の車でここまで来たのですが、ずっと『エニシング・ゴーズ』を流しながら運転していて。この曲を聴きながら船に向かっているというシチュエーションがとてもワクワクしました。

愛加 私も、この埠頭をお散歩したりすることはあったのですが、まさか乗船できるとは。こんな機会はめったにないので嬉しいし、何より、お稽古が始まる前に、客船の雰囲気を知ることができて良かったです。

一路 今は旅行もあまり行けないからね。疑似体験じゃないけれど、船に乗って旅行をする気分を味わえて、このまま稽古に突入できるというのはありがたいですよね。

――おふたりは宝塚歌劇団の先輩・後輩ですが、共演は初めてですか?

愛加 はい! 私は宝塚を知ったきっかけが、姉(夢咲ねね)が音楽の先生に借りてきたビデオなのですが、その中の一つが一路さん主演の『エリザベート』(1996年雪組)。それはそれはハマりまして、親友とずーっと学校で『エリザベート』について語った思い出があります。そんな一路さんとご一緒させていただけるなんて……!

一路 (笑)。私はもう辞めて約25年もたちますし、愛加さんも、紅さんも宝塚時代は存じ上げないんです。先ほど聞いて驚いたんですが、もう退団して6年なんですって?

愛加 今年の8月で、7年になります。

一路 それを聞いてびっくりしちゃって。そう思えないくらい初々しいですよね。でも、ということはもう、ミュージカルも何本も出ているのね。

愛加 そうですね。ただ、今回のホープのような令嬢役は久しぶりで……。

一路 娘役の経験が活きる役ね!

愛加 はい、昔を思い出して頑張らないと(笑)。

一路 ……という事情も知らないくらいで恐縮なのですが(笑)。でも、私は人見知りで、どの現場に行ってもいまだに緊張するのですが、宝塚の後輩がいる現場は、宝塚の生徒だったというだけで共通の話題があるし、先輩として敬ってくれるし(笑)、心が落ち着くんです。だから私の方がありがたいなと思っています。

愛加 やめてください、そんな……。今回、稽古初日にご挨拶させていただいた時に「何て呼ばれているの」とまず聞いてくださって、そのあとに「私のことはお母さんって呼んでいいよ」とおっしゃってくださって。なんてお優しい……! と、感動しきりでした。

一路 いやいや(笑)。実際に母親ですし、こないだまでやっていた『舞台「刀剣乱舞」无伝 夕紅の士 -大坂夏の陣-』では40人近い男の子たちのお母ちゃんになっていましたので。楽屋では「母上」「おふくろさま」と呼ばれていたのでそれに慣れちゃった(笑)。だからあゆちゃんにも「お母さんでいいよ」って。

――愛加さん、実際にはなんとお呼びしているんですか?

愛加 まだそんな、一路さんとしかお呼びできないです(笑)! でも、大先輩でいらっしゃるのに、こんなに歩み寄ってくださって、本当に嬉しかったです。ありがとうございます。私、『あかねさす紫の花』も大好きで。

私自身、和物をさせていただく機会が多かったのですが、やはり一路さんたちが作られたものをすごくたくさん拝見して、勉強して、憧れていました。……すみません、昔の話、嫌ですよね……?

一路 ぜんぜん大丈夫よ。私はもう女優生活の方が長くなっていて、わりと昔の記憶が消えていることが多いんですが、宝塚の方とご一緒して昔の作品のお話をしたりすると、細胞がちょっとずつ思い出していく。そして「とってもいいところにいたんだな」とか、「宝塚の先輩・後輩の関係って素敵だな」とか再確認できることが嬉しくて。でもあゆちゃんの方が「お母さま」と呼びながら、私の横にトートの顔が見えたりするとやりづらいかなと思って「お母さんと呼んで!」と言ったんだけど、トートの顔してと言われたら全然出すよ(笑)? ……でも原田先生に怒られちゃうね!

愛加 わあ(笑)。……私、一路さんのエリザベート(2000年~東宝版)も大好きで……!!

一路 ありがとう(笑)。

――話は尽きませんね(笑)。

ホープの一途なところはきっと、リノに負けない(愛加)

――そんなおふたりは今回、親子役を演じますね。一路さんがハーコート夫人、愛加さんがその娘のホープ。現時点で、それぞれの役をどういう人物だと考えていらっしゃいますか。

一路 ハーコート夫人は、娘をお金のために政略結婚させる、欲の塊のような女性なのですが、あまり細かく描かれていないのでその分作りやすいかなと思っています。原田先生からは「もっと貪欲に、物欲に溢れたおばちゃんにしてください!」とオーダーされました(笑)。これからもう少し研究しようかなと思っているところです。

――ハーコート夫人の飼っている犬も、ポイントになってきますよね。犬は実際に登場するんでしょうか?

一路 本物のワンちゃんを使うんです! シングルキャストです(笑)。

愛加 昨日初めて稽古場に来ていましたね。

一路 可愛かった~。私も犬好きで、実家では犬を飼っていました。でも中型犬なのでそんなに抱っこをしていないんです。今回はずっと抱っこしているような小型犬なので、抱っこの練習をしなきゃと思っているところです。あゆちゃんは、犬は?

愛加 私も飼ってます! チワワと、チワワとチンのミックスの、2匹。

一路 わぁ。じゃあ、抱っこのしかた、教えて? きっと、どこか押さえたら安心する、とかあるよね?

愛加 でも一路さん、お子さんがいらっしゃるのだから……。

一路 赤ちゃんとはちょっと違ったわ~。やっぱりワンちゃんは、抱きなれている人にはおとなしいみたい。私はまだまだだったから頑張らないと!

――愛加さんが演じるのは、社交界の華、ホープ。

愛加 いわゆるデビュタント、社交界デビューしたばかりの娘です。でもすでにお母さまに、結婚への道を作られてしまっている。時代的にはそういう娘さんはたくさんいたと思うのですが、ホープはそこから自分の意思で、自分の進みたい道を模索している状態の子です。私も最初は、言われるがままに生きている娘なのかなと少し思っていたのですが、原田先生ともお話させていただいて、そうではなくもともと強い芯がある女性で、自由に生きているお母さまの背中をみつつ、でも自分はこうしたいというものを持っている。単なるお嬢様として作らないように、私も模索しながらやっていきたいと思っています。

一路 このミュージカルはたった4日間の話。4日で人間が大きく変わるわけないもんね。だから乗船するシーンからそのキャラクターを作っておかないと。あゆちゃんの役は、すごく個性的な登場人物の中で一番まともな人だから、逆に悩んじゃうよね。

愛加 そうなんですよね。皆さんが強いから。

一路 でもだからこそ、どうとでも作れる。私たち、すごくポテンシャルの高い親子よね!

――紅さん演じるリノはビリーが好きで、でもそのビリーはリノじゃなくてホープが好き、という関係性です。愛加さん、ホープがリノに勝っているところはどこだと思いますか?

愛加 えーっ(笑)。でも原田先生に言われてハッとしたのは、強さを持っているところ、です。お金持ちのお嬢様というところにビリーは惹かれたのではなく、彼女の信念、自分の進みたい道がきちんとあるところから醸し出る何かに惹かれたんでしょうね。それと、たぶん彼女はきっとひとりの人しか愛さない。そういう一途なところはきっと、リノに負けないところじゃないかなと思います!

――そして何と言っても音楽がコール・ポーターというのも、この作品の大きな魅力ですね。おふたりとも、コール・ポーターの音楽がお好きだそうですが……。

一路 私は同じくコール・ポーターの『キス・ミー・ケイト』なども出演しています。彼の音楽はポピュラーすぎるくらいポピュラーなものと「こんな曲、このミュージカルにあったんだ」という意外性がある。曲調もジャージーなものからクラシカルなものまで幅広く、そういうところも魅力です。

愛加 私はコール・ポーターで特に好きなのは『ナイト・アンド・デイ』。『風と共に去りぬ』のデュエットダンスのナンバーなのですが、この曲がコール・ポーターだと知った時に「私、知らないあいだにコール・ポーター大好きだった!」と思いました(笑)。

『エニシング・ゴーズ』も、独特の旋律がありますね。半音で行ったり来たりするところはすごく難しいのですが、それが複雑な恋愛模様を表現していたりして、おしゃれ。素敵だなと思って、頑張って曲と向き合っています。

一路 難しい曲、なかなか入り込めない曲ほど、身体に入ったときに何とも言えない快感があって、大好きな曲に変わるわよね。私、まさに『エリザベート』がそうだった。今回もそうなるんじゃないかな。

愛加 がんばります!

“すべての人が主役”という作品になりそう(一路)

――演出は、宝塚歌劇団の原田諒さん。ただ、製作発表の場で、「宝塚的なものを求められているかもしれませんが、あえてそうではないものを」と仰っていましたね。

一路 原田さん、最初の本読みの時点で「一人ひとりの個性をしっかり立たせてほしい、ただのコメディにしたくない」と仰っていました。この作品はお気楽なアメリカン・ミュージカルと思われがちなのですが、時代的には大恐慌の直後、それぞれの人が様々な思いで生きてきて、乗船してくるというバックボーンをしっかり持って欲しいと。

私の役も、なぜそこまでお金に執着し、娘を政略結婚させたいかというと、それはつまり、娘の生活を考えてのことなんですよね。もちろん自分が楽をしたいという面があるにしても(笑)。ただの賑やかしのキャラクターにしてはいけないというのは強く思いました。

愛加 原田先生、アンサンブルに至るまで、それぞれのキャラクターの思いに時間をかけて言及していらっしゃいましたね。

一路 振りがすでについている場面に関しても、キャラクターがはっきりした後で、振りを変えてもかまわないとまで仰っていて。こういう作り方、ステキだなって思った。

愛加 みんなの士気が高まりましたよね。

一路 “すべての人が主役”という作品になりそうよね。様々なタイプの演出家の方がいらっしゃって、こちらに全て委ねてくださる時もありますが、原田先生の中のビジョンがきちんと決まっていて、まず最初にそれを提示してくださると、私たちもそれを起点に広げていくことができる。心強いですよね。

――ちなみに紅さんはどんな座長になりそうですか?

一路 自然体でいらっしゃるんじゃないでしょうか。市川猿弥さんや陣内孝則さんが個性的でいらっしゃるから (笑)。とても楽しく盛り上げてくださる中で、みんながそちらに巻き込まれつつ、でもヘンな方向に行ったら(笑)紅さんが一喝してくれそう……というのはどうでしょう?

愛加 そんな図が見えますね、まだわかりませんが(笑)。

一路 今やっぱりマスクをして、会話も極力減らして……という状況ですが、さすがに2か月も公演があるから。心通じるものが生まれると、いいわよね。きっとそうなると思う!

――最後に、見どころがたくさんある『エニシング・ゴーズ』ですが、あえて「ここ!」というポイントを挙げるとしたら、どういうところが魅力でしょう?

一路 先ほど時代背景が……とも申しましたが、でも題名(エニシング・ゴーズ=なんでもあり)のとおり、何もかも忘れて、色々なことを吹き飛ばしてくれるパワーのある作品です。曲調も、登場するキャラクターたちも、ダンスナンバーも、今の時代のうっぷんを吹き飛ばしてくれる。そんな魅力のある作品です! 演出の原田さんが、おしゃれな作品にしてくれます!

愛加 セットもすごく豪華。楽しみにしていてください。

一路 ……あゆちゃんはタップ(ダンス)するの?

愛加 ないと思うのですが……台本に「全員タップ」と書いてあるところがあって……どうなるんですかね(笑)。全員!? と思って……。

一路 でもこの作品の大ナンバーはすごいよね、私も今までの公演を観ていて圧巻でした。それをみんながやるのを見るのが、楽しみ! 台本には大ナンバーになるとちゃんと「ハーコート、引っ込む」と書いてあるから(笑)。袖から観ーよう! と思ってます。一緒に観に行こうね!

愛加 はい! 特等席で観ましょう!



取材・文:平野祥恵 撮影:川野結李歌



ブロードウェイ・ミュージカル『エニシング・ゴーズ』
2021年8月1日(日)~2021年8月29日(日)
会場:東京・明治座
ほか、愛知・大阪・福岡公演あり
※新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、8月1日(日)~9日(月・祝)全ステージと11日(水)・17日(火)・19日(木)18:00開演、14日(土)・21日(土)17:00開演公演中止(7/30追記)

チケット情報
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2170935

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