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『やまとなでしこ』松嶋菜々子演じる桜子は自ら幸せを掴み取る 究極のハッピーエンドが伝えるもの

リアルサウンド

20/7/14(火) 6:00

 20年前の名作、ラブコメ最高傑作と名高い『やまとなでしこ』(フジテレビ系)の再放送第2夜は、少々ヘビーな事件が立て続けに起きると同時に、ファンにとって嬉しいシーンの連続だった。と言うよりも、神野桜子(松嶋菜々子)がひたすらに中原欧介(堤真一)に対して、「本当にこの期に及んで、お金よりも心だなんて言えるんですか?」を試し続ける展開だった。

参考:『やまとなでしこ』はなぜレジェンドとなったのか 松嶋菜々子と堤真一の間に生まれた化学反応

 そもそもこんなにも「大事なのはお金か、心か?」という分かりやすい二項対立をダイレクトに問う恋愛ドラマは、当時も、また20年たった今までもなかっただろう。「お金では買えないかけがえのないもの」「お金では買えないたった一つのもの」なんて言葉が信じられないくらい多用される。

 また、「因果応報」というか、第1夜でのとある人物の行動が、第2夜でのまた別の人の行動の種明かし、答え合わせになるような流れが見られた。

 第1夜でも、夜の庭園で、閉め切られた扉を桜子と欧介が2人してよじ登るシーンがある。あの時は、婚約の申し出を受けていた東十条司(東幹久)を上回るさらなる優良物件に出会えた歓喜から喜び勇んでの駆け出しだった(この後、ほどなくして欧介の実際の職業を知ることになるわけだが)。

 第2夜でも、バッティングセンターの看板にボールをぶつけて壊してしまった桜子が、欧介に「逃げちゃおう」といたずらっぽく言って駆け出すシーンがある。桜子自身の東十条との婚約話に対する消し去れない違和感、迷いをいっそ手放してしまいたい、全部やめにしてしまいたいという思いの表れだったようにも思える。

 MISIAの主題歌「Everything」でも歌われる「優しい嘘」も巡り巡る。逃避行の末に桜子の自宅前に待ち受けていたのは東十条。桜子が自宅を偽っていたことに対して不信感を抱いているようだ。「騙したのか」と問い詰める東十条に対して、欧介が答える。

「本当のことを言おう言おうと思ってるのに、どんどん嘘が大きくなって。騙そうと思って言ってるわけじゃないんです。相手に嫌われたくないから。もっと好きになってほしいから」

 この回答を聞いたときに、桜子ははっきり自覚したはずだ。欧介が自分に対して嘘をついてしまった(と言うよりも本当のことをなかなか言い出せなかった)理由と、自分が東十条の前で取り繕ってばかりいる理由が全く違うことに。そして自身の本心に。また、この窮地でも欧介は桜子を守るために東十条に対して優しい嘘をつき続けていることも。ただその中に彼の本心、真実が紛れていることも。

 その後、桜子自身も東十条家との縁談を進めるために、父親(小野武彦)にまで身分を偽らせる。別れ際には「父ちゃん、嘘つかせてごめん」と涙を堪えながら謝る感動的なシーン。これも、前述の東十条と欧介の応酬を見ていたからこそ、出てきた言葉だったのではないかと思う。「優しい嘘」と「そうでない嘘」、たくさんの嘘に泣かされる。

 そして、このやり取りを見ていた欧介も感化され、彼の中での変化を促す。頑固そうな海の男が、娘の滅茶苦茶な要望を飲み込み、「父親だって洋服みたいにTPOに合わせて取り替えられたらいいのに」とまで言い放った娘に対して「安心しろ。もうお前の前にのこのこ現れたりしないから。父ちゃん、海に落ちて死んじまったってことにでもしとけ」と言うのだ。これまで頑なに、父親が残してくれた魚屋を切り盛りするのが自身の宿命だと、数学者の道を諦め続けてきた欧介。親が子の幸せを想う気持ちの大きさを目の当たりにし、知らないうちに自分ももう一度夢に手を伸ばす後押しを得たのではないだろうか。親の愛情を侮ってはいけないのだ。

 結婚式を抜け出した桜子が東十条に伝えた「1番の嘘」、「あなたのことをこれっぽっちも愛していなかった」。彼女が東十条に対して見せた最初で最後の誠実さであり、唯一の真実であった。

 桜子と欧介2人の間でひたすらナイスアシストをしてくれた佐久間真理子(森口瑤子)の「あなたたちはまだ何も始まっていないじゃない」「欧介くんを優しい殻から引きずり出せるのは桜子さんだけ」という言葉も印象的だった(自身の本音に気づいた瞬間、及び腰になってしまう恋する全アラサー女性に届けたい言葉だ)。

 ニューヨークでの再会シーンは、究極のハッピーエンド。桜子が初めて見せる100%の打算なしの好意。これまで相手の気持ちばかり先回りして考え、優先してきた欧介の「僕はあなたのことが好きです。たとえ明日、あなたの気が変わってしまっても」。欧介が初めて自分の気持ちを何よりも優先し、優しい殻を打ち破った瞬間だった。

 今回観直してみてはっきりわかったのは、桜子は単に金持ち男性のトロフィーワイフとして収まるタイプの女性ではないことだ。自分で幸せを掴み取っていく力をあれだけ備えているのだ。鳥かごの中は安全に違いないけれど、その鳥かごがどんなに綺麗に、快適に整った環境だろうと、所詮はかごの中。彼女にとってそんなものはすぐに窮屈で退屈な場所と化してしまう。どこまでも果てしなく広がる大空にはどうしたって敵わないのだ。

■楳田 佳香
元出版社勤務。現在都内OL時々ライター業。三度の飯より映画・ドラマが好きで劇場鑑賞映画本数は年間約100本。

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