Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

『MIU404』、絶望の淵から最終章へ 『アンナチュラル』に続いて究極のテーマを描く

リアルサウンド

20/8/17(月) 8:00

 油断した。こんなにしんどい結末になるなんて。『MIU404』(TBS系)第8話は、機動捜査隊404号の刑事・伊吹(綾野剛)にとって恩人である元刑事“ガマさん”が、愛する妻を殺した男を手にかけていたというバッドエンドに。しかし、キャスティングから考えれば、そもそもガマさんを演じるのが小日向文世という時点で、ただ居酒屋で伊吹の愚痴を聞いてあげるだけのいい人で終わるはずもなかったのだ。小日向は、ボランティアもする善き退官刑事が復讐心を抑えられず私刑を実行し、犯人を自宅でメッタ刺にしするという変化とも闇落ちとも言える様をさすがのリアリティあふれる演技で見せた。大ヒット公開中の映画『コンフィスマンJP プリンセス編』で演じる詐欺師リチャードとのギャップが大きすぎる!

 第8話のストーリーには5つの絶望があった。「愛する人が殺されてしまった」という絶望。「前科者である犯人は更生しなかった」という絶望。「その犯人を許すことができなかった」という絶望。「復讐を実行した男は元刑事(警察官)だった」という絶望。「元刑事を慕う現役の刑事は恩人を救えなかった」という絶望。どこをどう見ても救いがない。不良少年だった頃、ガマさんに救われて警察官になった伊吹がラストシーン、打ちひしがれて動けなかったのも無理はない。

「最愛の人を殺されたとき、犯人を許すことができるのか?」という究極のテーマは、同じ野木亜紀子脚本の『アンナチュラル』(TBS系)でも描かれた。主人公ミコト(石原さとみ)の同僚であるUDIラボの法医学者・中堂(井浦新)は、かつて恋人を無残に死なせた連続殺人犯をひそかに探していた。第5話では内縁の妻を殺された青年(泉澤祐希)がその犯人の女性を公衆の面前で刺すというショッキングな事件が起き、それには中堂も関わっていた。そして、終盤は中堂が犯人やその協力者を手にかけるのかどうかということが焦点に。最終回、薬物を使って復讐しようとする中堂をミコトがが「戦うなら法医学者として戦ってください」と説得するシーンが印象的だった。「不条理な事件に巻き込まれた人間が、自分の人生を手放して同じように不条理なことをしてしまったら、負けなんじゃないですか」と続けたミコトのセリフは、『MIU404』の伊吹がガマさんにかけたかった言葉でもあるだろう。しかし伊吹は「語彙力がない」ので、相棒の志摩(星野源)が代わりに言った。「ガマさん、なにがあってもあなたは人を殺しちゃいけなかった。全警察官と伊吹のために」。

 『アンナチュラル』のUDIラボは不自然死究明研究所という架空の機関で、日本では不自然死の遺体の多くが解剖されない中、ミコトたちは少しでも正しい死因を明らかにするため働いていた。その使命感に突き動かされた仕事ぶりが、『MIU404』でも真犯人へたどり着く大きなヒントとなり、ガマさんの代わりに誰かが逮捕されるという冤罪を防いだわけだ。警察のドラマである『MIU404』でもUDIラボが機能していることがちゃんと描かれ、さすがの野木脚本、構成のうまさが光った。こういったコラボは『科捜研の女』(テレビ朝日系)×『警視庁・捜査一課長』(テレビ朝日系)という前例があるとはいえ、やっぱり楽しいものだ。

 では、『MIU404』の第4機動捜査隊にはどんな使命があるのか? キソウ(機動捜査隊)の任務は夜勤もありの「重点密行」で、いち早く事件現場に駆けつけるのは捜査をスムーズに始めるため。第4キソウは臨時の応援部隊で、警察官の働き方改革のためという説明は最初にあったが、それだけではなく、その機動力ゆえに伊吹が言った「誰かが最悪の事態になる前に止められる」という効果も。「最悪の事態になる前」とは、被害者が殺されたり傷つけられたりする前であると同時に、加害者が罪を犯す前ということにもなる。

 妻を殺された被害者でありながら最終的に加害者となってしまったガマさんは「俺はいつならガマさんを止められた?」と涙ながらに聞いた伊吹に、志摩を通じて「お前にできることは何もなかった」と答えた。そして、第9話からは、「ガマさんを止められなかった」という絶望の淵から這い上がっていく伊吹と志摩が描かれるようだ。予告で流れた「間に合う(間に合わせたい)」という2人の言葉が、これまでより切実感をもって響く。伊吹にとって「愛する人」に近い存在である麦(黒川智花)は裏社会の人間に狙われており、彼女の「居場所が突き止められたかもしれない」という展開も気になる。

 死因不明の遺体が多いこの日本社会において「あったらいいな」という存在である『アンナチュラル』のUDIラボ。それと同じように、事前に被害者からの相談などで警察がリスクを知っていたにも関わらず殺人や虐待死が起こってしまうという問題がある中、『MIU404』の機動捜査隊404号はやはり架空の存在ではあるけれど、最悪の事態を回避するためいち早く動くリアルヒーロー。無敵ではないし、今回のように被害者も加害者も救えないケースもあるけれど、絶望した伊吹が志摩の手を取り、バディ成立以来、結束は最も強くなっている。真の相棒となった2人のリスタートに期待したい。

■小田慶子
ライター/編集。「週刊ザテレビジョン」などの編集部を経てフリーランスに。雑誌で日本のドラマ、映画を中心にインタビュー記事などを担当。映画のオフィシャルライターを務めることも。女性の生き方やジェンダーに関する記事も執筆。

■放送情報
金曜ドラマ『MIU404』
TBS系にて、毎週金曜22:00~22:54放送
出演:綾野剛、星野源、岡田健史、橋本じゅん、黒川智花、渡邊圭祐、金井勇太、生瀬勝久、麻生久美子、黒川智花
脚本:野木亜紀子
演出:塚原あゆ子、竹村謙太郎、加藤尚樹
プロデュース:新井順子
音楽:得田真裕
製作:TBSスパークル、TBS
(c)TBS

新着エッセイ

新着クリエイター人生

水先案内

アプリで読む