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『妖怪シェアハウス』の“ハッピーエンド”はどんな形に? 澪の“角”に込められた女性の生き様

リアルサウンド

20/8/29(土) 8:00

 近年、ドラマの世界には、フェミニズムを意識して作られているものが思ったよりも存在している。ただ、初期の段階では、第1話で問題提起をしたのはいいものの、最終的にはヒロインが元の場所に収まり、結局、幸せはその人の考え方ひとつで良くも悪くもなるのだ、と思わせる結末で終わる作品なども見られた。

 そんな結末になってしまうのは、そのほうが従来の「めでたしめでたし」の型にはまっていて視聴者が安心しやすいと、チーム全体で判断したのかもしれないし、結局は、#MeToo運動の表側にだけ触発され、フェミニズムの雰囲気だけを取り入れただけだったのかもしれない。

 しかし、8月から始まった『妖怪シェアハウス』(テレビ朝日系)には、今のところ、そんなモヤモヤは見られない。

 ヒロインの澪(小芝風花)は、彼氏に多額の金を貸したために自分の家の家賃も払えなくなり、頼れるのは彼氏だけと、家を訪れるが、あっけなく振られて行く当てがなくなってしまう。そんな澪がたどり着いたのは、妖怪ばかりが住むシェアハウスだった。澪は、最初のうちは彼ら彼女らが妖怪とは知らずに、お岩さん(松本まりか)、酒呑童子(毎熊克哉)、ぬらりひょん(大倉孝二)、座敷童子(池谷のぶえ)の4人と共同生活をスタートさせるのだった。

 澪自身の性格は、頼まれると嫌と言えないし、自尊心も低い。だから、お岩から「男に騙されたんじゃない?」と聞かれてもそんなことはないとあれこれ理由をつけて彼氏をかばうし、お金を貢がされていたことにも怒ることができない。そんな澪をみて、ぬらりひょんは「完全にブレーンウォッシュされておる」「ミソジニーに振り回される運命だ」と告げるのだ。

 そんなとき、澪に一番親身になってくれるのがお岩だ。第1話で澪の酷い身の上を聞いて「大丈夫、あたしがついてる」とお岩が言って、澪が「私が我慢すればなんとかなるのかなと思って。でも、ほんとはつらかったんです」と、初めて本音を見せたシーンにはぐっときた。隣でもらい泣きをする座敷童子との3人のシスターフッドが見えた。

 お岩はもちろん、四谷怪談のあのお岩さんである。お岩さんというと、父親が半ば強引に連れてきた伊右衛門と結婚したものの、夫は浮気相手との間に子供が出来、お岩が邪魔になり酷い仕打ちを重ねられ、自ら家を出ていったという経緯がある。いわば、フェミニズムのなかった時代に、幽霊になるしか手立てがなかった彼女が、男に騙された澪を黙ってみていられないのは当然のことだとも思える。

 ちなみに、第2話には番町皿屋敷のお菊さん(佐津川愛美)が登場し、これまた就職先でセクハラ、パワハラにあってしまった澪のことを黙ってみていられない展開になるのだが、お岩さんとお菊さんが大親友というのも、納得がいく話である。

 文章で書くとヘビーな感じのする話を、コミカルに描き、誰にでも気軽に観られるように仕上げているバランスもさすがだし、妖怪の4人も、変り者であったり、ちょっとつっけんどんであったりもするのに、根底には、優しさ……というか、人を尊重する倫理観があることが見えるので、安心して観ていられる。

 この原稿を書いてるいる時点では、第4話の放送が終わったところであるが、気にかかるのが、シェアハウスの大家で、陰陽師の末裔でもあり、神主をしている水岡(味方良介)の存在である。彼は、澪にお守りを渡し、妖気と貧乏神に取り込まれるぞと告げるが、実際、彼が割れた鏡を通して見ている澪には、鬼の角が生えている。

 今までの物語であれば、人間の女の子に鬼の角が生え、人間以外のものに取り込まれてしまうことは決していいことではない。だから、神主である水岡が鬼に取り込まれないように澪を救ってめでたしめでたしとなることも多かっただろう。

 しかし、神主は澪をさし「この女が災いをもたらした」と澪を邪悪なもの扱いもするし、澪をシェアハウスから追い出し、ひいては妖怪たちも追い出そうとしているから信頼ならない。

 和式の婚礼の儀においても、女性は頭を布で覆い「角隠し」をする風習がある。だから、女性に「角」があるということは、女性が意思をもってよからぬ方向に行っているということの象徴でもあり、それは隠さねばならないものとされてきた。

 澪の「角」は、果たしてこのような旧来的な意味を持つものなのか、また「角」がなくなればめでたしめでたしなのだろうか。「角」を問題視する神主は、澪にとってはたしてどんな存在なのだろうか。しかし、澪は人間なのだから、「角」を持つ鬼となり、妖怪とこの先もずっと生きていくことが果たして幸せなのだろうか。この澪と「角」との関係がどうなるのかが、このドラマで最も気になるところである。

■西森路代
ライター。1972年生まれ。大学卒業後、地方テレビ局のOLを経て上京。派遣、編集プロダクション、ラジオディレクターを経てフリーランスライターに。アジアのエンターテイメントと女子、人気について主に執筆。共著に「女子会2.0」がある。また、TBS RADIO 文化系トークラジオ Lifeにも出演している。

■放送情報
『妖怪シェアハウス』
テレビ朝日系にて、毎週土曜23:15~24:05放送
出演:小芝風花、松本まりか、毎熊克哉、池谷のぶえ、内藤理沙、大東駿介、味方良介、柾木玲弥、宮本茉由、大倉孝二
脚本:西荻弓絵、ブラジリィー・アン・山田、綿種アヤ
演出:豊島圭介、山本大輔
エグゼクティブプロデューサー:内山聖子(テレビ朝日)
プロデューサー:飯田サヤカ(テレビ朝日)、宮内貴子(角川大映スタジオ)
制作:テレビ朝日
制作協力:角川大映スタジオ
(c)テレビ朝日
公式Twitter:https://twitter.com/youkaihouse5
公式Instagram:https://www.instagram.com/youkaihouse5/

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