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ロバート・ロドリゲスによる“ヒーロー集結作品” 『ヒーローキッズ』の痛烈なメッセージ

リアルサウンド

21/2/11(木) 10:00

 近年、怒涛の勢いを見せているスーパーヒーローたちが集合するアクション大作映画『アベンジャーズ』シリーズ。2021年は、その展開を引き継ぐヒーロー単独作品『ワンダヴィジョン』が配信されたり、一方で対抗馬となるDCコミックス原作の『ジャスティス・リーグ』も、ザック・スナイダー監督によるディレクターズカット版の配信が決定しているなど、今後もヒーロー集結映画は話題に事欠かなそうだ。

 このようなブームのなか、M・ナイト・シャマラン監督のように、『ミスター・ガラス』など一連の作品によって、一人の監督がヒーロー映画のユニバースを作ってしまったケースも出てきた。そのような単独監督でのヒーロー映画ユニバース、しかもヒーロー集結作品というジャンルに、新しく名前を刻むことになったのが、ロバート・ロドリゲス監督である。

 しかし、今回の主人公は子どもたちのヒーローだ。様々な能力と個性を持ったヒーローキッズの冒険は、子どもたちのキュートな姿と、わくわくするようなアクションが展開する楽しい作品だが、同時にかなり痛烈なメッセージをわれわれ大人に投げかける映画でもある。ここでは、昨年末からNetflixで配信中の『ヒーローキッズ』が描いているテーマを、掘り下げて考えてみたい。

 『エル・マリアッチ』(1992年)や『デスペラード』(1995年)、『マチェーテ』(2010年)などでは、キレのある荒唐無稽なガンアクションを手がけ、近年では日本の漫画作品を原作としたSF大作『アリータ:バトル・エンジェル』(2019年)や『スター・ウォーズ』シリーズ初のTVドラマ『マンダロリアン』のエピソード監督を務めるなど、多様な分野で活躍しているロバート・ロドリゲス監督は、『スパイ・キッズ』シリーズなど、子どもを主人公にした娯楽作品を手がけているという一面もある。暴力映画と子ども向け映画を撮ることができるという点では、日本の三池崇史監督に近いといえよう。

 そのなかで生まれたのが、子どもたちをキャスティングした『シャークボーイ&マグマガール 3-D』(2005年)だった。ロドリゲス監督にはコミックヒーロー映画のイメージは薄いが、90年代にニコラス・ケイジ主演のスーパーマン映画の監督を、プロジェクトを企画した盟友ケヴィン・スミスからオファーされたり、2010年には『デッドプール』の監督を打診されたりなど、ロドリゲス監督作としては実現されなかったものの、ヒーロー映画といくつもの関わりがあったのはたしかだ。

 そして、『シン・シティ』(2005年)に代表されるように、ジョージ・ルーカスとの出会いから、『スター・ウォーズ』新3部作同様にCGなどで製作した背景をデジタル合成することで自由な表現を手に入れたロドリゲス監督は、空想的な演出が喜ばれる子ども向け娯楽作品で、その方法を駆使しながら映画を製作し続けることができた。そして本作『ヒーローキッズ』も、CGをふんだんにとり入れたつくりになっている。

 さて、本作では『アベンジャーズ』シリーズのように、「ザ・ヒロイック」といわれる、強大な力を持つヒーローたちの組織が登場し、日々地球の平和を乱す悪と戦っているという、『アベンジャーズ』や『ジャスティス・リーグ』を想起させる世界観が踏襲される。ある日、スーパーマンのようなヒーロー、ミラクル・ガイ(ボイド・ホルブルック)と、自身の発明によるガジェットで戦うアイアンマンのようなヒーロー、テクノ(クリスチャン・スレーター)がいつものように出動すると、その先には、これまでにないほどの数と力を持ったエイリアンの敵が待っていた。

 ミラクル・ガイとテクノはあっさりと敵に破れ、世界の危機を感じた「ザ・ヒロイック」は全ヒーローを招集することに。だが、ザ・フラッシュのように素早いヒーロー、ブラインディング・ファスト(サン・カン)や、ブラック・キャナリーのように超音波を発するヒーロー、ミセス・ヴォイス(ヘイリー・ラインハート)、そしてシャークボーイ(オリジナルと違いJ ・J・ダシュノーが演じる)&マグマガール(テイラー・ドゥーリー)ら「ザ・ヒロイック」たちも次々に破れ、敵に捕らわれていく。本作の主人公である少女ミッシー(ヤヤ・ゴセリン)の父親であるマーカス・モレノ(ペドロ・パスカル)も、ホークアイのような姿で敵に挑むが、まったく歯が立たなかった。

 頼みの綱のヒーローたちが姿を消してしまったいま、世界の存亡はヒーローの子どもたちに委ねられた。ミッシーはじめ、ヌードルズ、ホイールズ、アカペラ、スローモー、リワインド&フォワード、フェイスメーカー、オホ、ワイルドカード、そして最年少にして最強のちびっ子グッピーと、多様な人種によって構成されるヒーローキッズは、それぞれのパワーを活かして政府の施設を抜け出し、エイリアンから世界を救うために行動する。

 親の才能を受け継ぐ子どもたちが、親の危機に際して状況を打開していくという物語は、『スパイキッズ』同様だ。異なるのは、とくにスーパーパワーを持っているわけではないミッシーが、頭脳を活かし勇気を振り絞ることでリーダーとして認められ、ヒーローキッズを統率するようになっていくという点である。そしてヒーローキッズは力を正しく効率的に使うことで、世界の秩序を取り戻していく。

 そんな子どもたちの勇姿に比べ、問題のある存在として表現されるのが、大人たちで構成される政府の人々である。本作が描くのは、そんな世界に生きる子どもたちが、自分の考えや、自分の力を発揮していく姿なのだ。このように、地球にピンチが訪れている状況で、しっかりした少女と大統領が対峙するという構図に、2018年に国連で異例の演説を行った、当時15歳の環境活動家グレタ・トゥーンベリ氏の騒動を重ねているのは明らかだろう。

 地球温暖化による人類の危機を訴えるトゥーンベリ氏について、大統領だったドナルド・トランプ氏は「落ち着けグレタ。落ち着け!」と揶揄し、ウラジミール・プーチン大統領は「いまの世界が複雑だということを誰もグレタに教えてない」と批判した。しかし、大国のトップたちが活動家の少女に文句を言っている間、着実に地球温暖化は進み、気候変動や環境の変化についての報道では、深刻な状況がいまも伝えられ続けている。たしかに、大人の世界は複雑なのかもしれない。しかし、結局このままでは環境が悪化し続けるだけなのではないか。

 日本で2019年に公開されたドキュメンタリー映画『気候戦士 〜クライメート・ウォーリアーズ〜』では、世界各地の子どもたちが、気候変動について警鐘を鳴らす姿が映し出される。もちろん、子どもたちは経済活動によって豊かな生活を送っているし、親に養われている気楽な存在だからこそ環境問題に熱を入れられるというのもたしかだろう。だが、子どもという存在だからこそ、様々な事情に縛られずに正しいことが言えるのではないか。そして、大人たちが“複雑な事情”の結果として積み上げていく“負債”を返済させられることになるのも、いまの子ども世代なのである。

 本作の原題は、「We Can Be Heroes(私たちはヒーローになれる)」。それこそが、ロバート・ロドリゲス監督が子どものための映画を撮るなかで、たどり着いた一つの結論なのではないか。子どもに大人の“複雑な事情”を押し付けたり、頭から批判して力を見せつけるのではなく、子ども自身の子どもらしいまっすぐな発想を伸ばしてあげること。そして次の大人となる新しい世代が、屈折することなく、この世の中を良い方向に変えてほしい……。本作は、そんなメッセージを子どもたちに届け、大人たちには釘を刺しているのだ。

 このように優れたテーマによって、ヒーロー映画はただの空想や娯楽では終わらず、現実に接続する強靭な価値を獲得することになる。それは『アベンジャーズ』シリーズも同様である。

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter映画批評サイト

■配信情報
『ヒーローキッズ』
Netflixにて配信中

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