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『エール』窪田正孝、戦争に揺れ動く裕一の心境を体現 “みんなが頑張っているから”の危うさ

リアルサウンド

20/10/9(金) 12:10

「裕一さんの曲は気持ちを沸き立たせる力がある」

 福島三羽ガラスの「暁に祈る」に背中を押され、戦地へと旅立った藤堂先生(森山直太朗)、映画『決戦の大空へ』の主題歌「若鷲の歌」に心を打たれ、海軍航空隊の予科練習生に志願した弘哉(山時聡真)。裕一の曲が力となり、人を励ましている。音楽家としてこれほどまでに嬉しいことはない。

 ただ、戦時歌謡は生きようとする人ではなく、命を懸けて国のために尽くそうとする人々のもの。NHK連続テレビ小説『エール』第17週「歌の力」では、国から求められる役割を全うする裕一と、時代に迎合しない周囲の人間との軋轢が描かれた。

 かつて弟子だった五郎(岡部大)の「人を幸せにする音楽を作ってほしい」という切なる願いを聞いてもなお、薄れない裕一の使命感。そんな彼の元に報告音楽協会を通じて軍から慰問の依頼が。自分よりも若い人たちが死を覚悟し、訓練に励む姿を目の当たりにしてから安全な場所で音楽を続けることに後ろめたさを感じている裕一は、複雑な感情を抱きながらも戦地に赴く決意を固めていた。記者を務めている鉄男(中村蒼)は、日本が劣勢であることを知っているが故に必死で裕一を止めようとする。しかし、裕一は「戦況が悪いならより一層慰問が必要」と鉄男の差し伸べた手を跳ね除けた。

 振り返ってみると、裕一はいつもそうだった。家のためを思い銀行員になったときも、音楽や音との結婚も諦めて権藤家の養子になろうとしたときも、一度覚悟を決めたら周囲の言葉に耳を傾けようとはしない。鉄男が言うように、裕一の優しさは時として仇となってしまうのだ。

 そして1カ月後、裕一が戦地に旅立つ日が告げられる。音(二階堂ふみ)や娘の華(根本真陽)と共に過ごせるのは残り5日。慰問先も期間も不明、二度と会えなくなる可能性を秘めた依頼に音も動揺を隠せなかった。そんな時、裕一の実家にいる浩二(佐久本宝)から母・まさ(菊池桃子)が倒れたと連絡が入る。何とか出発の日を遅らせることはできないかと軍に掛け合うが、まさの容体は急を要さないため予定通り出発することに。

 残された時間を、裕一は保(野間口徹)の入れたコーヒーを飲みながら喫茶「竹」で過ごす。保は人間が戦争を繰り返してきた歴史を語り、「早く戦争が終わって美味しいコーヒーを淹れたい。それだけが僕の望み」と裕一に投げかけた。何気ない会話だが、保も戦争へと前のめりになっている裕一を引き止めたかったのではないだろうか。出発当日、裕一は音と華に見送られながら住み慣れた家を後にする。色々と思うところはあるのだろうが、音は「あなたの音楽で兵隊さんたちを勇気づけてきてください」とだけ告げ、涙を流さず裕一の背中を見送った。

 全員が違和感を持ちながら見守った裕一が音に遺した手紙には、これまで音楽の道を応援してくれた音への感謝や、西洋音楽の知識が戦時歌謡に活かされたことへの複雑な感情、そして「一日も早く戦争が終わるように」と願う本当の気持ちがしたためられていた。戦下の日本で、国のために自由と日常を投げ打った人々。コロナ禍の現在もそうだが、どんな理不尽を強いられても“みんなが頑張っている”という状況で違和感を唱えることは難しい。本音を隠すうちに、犠牲を払う自分自身を正当化してしまう。そんな複雑な心境をこの一週間、窪田正孝は確かな演技力で表現した。

 第18週「戦場の歌」では、裕一が激戦地・ビルマを訪れる。そこは日本軍が惨敗したインーパル作戦が決行された場所だ。日本が負け続け、多くの兵士が命を落としていく姿を目の当たりにした裕一は、今まで以上に戦時歌謡を通して国民を鼓舞した自分自身に悩まされていくだろう。より一層シリアスな展開に覚悟しつつ、窪田の鬼気迫った演技に期待したい。

■苫とり子
フリーライター/1995年、岡山県出身。中学・高校と芸能事務所で演劇・歌のレッスンを受けていた。現在はエンタメ全般のコラムやイベントのレポートやインタビュー記事を執筆している。Twitter

■放送情報
連続テレビ小説『エール』
2020年3月30日(月)〜11月28日(土)予定(全120回)
※9月14日(月)より放送再開
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45
※土曜は1週間を振り返り
出演:窪田正孝、二階堂ふみ、薬師丸ひろ子、菊池桃子、中村蒼、山崎育三郎、森山直太朗、佐久本宝、松井玲奈、森七菜ほか
制作統括:土屋勝裕
プロデューサー:小西千栄子、小林泰子、土居美希
演出:吉田照幸、松園武大ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/yell/

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