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孤独と不安が癒されていく…タニノクロウ作・演出「笑顔の砦 '20帰郷」開幕

ナタリー

20/12/3(木) 16:12

AUBADE HALL Produce タニノクロウ×オール富山「笑顔の砦 '20帰郷」より。(撮影:六渡達郎)

AUBADE HALL Produce タニノクロウ×オール富山「笑顔の砦 '20帰郷」が、昨日12月2日に開幕した。

本公演は、昨年3月に上演された「ダークマスター 2019 TOYAMA」に続き、富山のオーバード・ホールとタニノクロウがオーディションで選出した富山の俳優たちと舞台を創作するシリーズ第2弾。今回は2006年に初演された「笑顔の砦」を“'20帰郷”版として立ち上げる。入り口から客席までの通路にはいくつもの大漁旗が飾られ、開演前の場内にはかもめの声と海鳴りの音が響く。正面には平屋アパートの2部屋、さらにその左右にカーテンが閉まった部屋がそれぞれ見えている。上手の部屋は空き部屋、下手の部屋にはこたつやテレビ、冷蔵庫などの家電が置かれ、生活感のある空間が広がっている。やがて、冷蔵庫の上の炊飯器から蒸気が上がり、部屋にドヤドヤと3人の男たちが入ってきて……。

その部屋に暮らすのは、漁船の船長・蘆田剛史(緒方晋)。ひと仕事を終え、弟分である沖本良太(山崎広介)と安田健二(谷屋桃威)を連れて部屋に戻った剛史は、こたつに当たりながら3人で遅めの朝飯をかっこむ。彼らは、それぞれに事情があって富山に流れ着き、誰かに拾われて漁師になったのだった。ある日、隣の部屋に認知症の母を抱えた藤田家が引っ越してきた。バツイチで職もない勉(坂井宏彰)は、娘のさくら(和田彩花)に文句を言われつつも、なんとか自力で母・瀧子(森良子)を介護しようとしているのだった。

流れ者たちの集まりながら、常に笑いが絶えない剛史の部屋と、家族だからこそ笑い合うことができない藤田家の部屋。2つの部屋では同じように生活が重ねられつつも、短期バイトが入ったり、田舎に戻る者がいたり、病気が悪化したりと、常に変化を余儀なくされる。「笑顔の砦 '20帰郷」では、そんな2つの部屋のコントラストがより鮮明に描かれると共に、ふとした瞬間、孤独と不安に苛まれる53歳の男たち──剛史と勉が、周囲の人たちによって癒されていく様が温かな目線で描かれる。良太が、恩義を感じている剛史のもとを離れ、折り合いの悪い父のもとへ帰る決心を明かすシーンでは、良太が話を切り出すまでのためらいの時間も含め真に迫るものがあり、強く胸を打った。

また、公募で集められた舞台美術スタッフたちによる、精緻な舞台美術にも注目だ。生活感が漂ってくるようなリアルな舞台美術の背景には、立山連峰が映し出され、この物語の舞台が富山であること、そして物語の中で季節が動き続けていることをたびたび思い出させる。

初日のカーテンコールにはタニノも登場。タニノが「……面白かったですか?」と小声で客席に問いかけると、観客からは大きな拍手が起こった。公演は12月6日まで、富山のオーバード・ホール 舞台上特設シアターにて。

なお関連企画として、親爺、魚どん亭、ごんべい舎、順風満帆といった富山の人気店が、作品にちなんだ“漁師めし”を12月下旬まで期間限定で販売中。さらに作品のオリジナルマスクが劇場にて販売されている。

AUBADE HALL Produce タニノクロウ×オール富山「笑顔の砦 '20帰郷」

2020年12月2日(水)~6日(日)
富山県 オーバード・ホール 舞台上特設シアター

作・演出:タニノクロウ
出演:緒方晋(特別出演) / 山崎広介、谷屋桃威、中尾槙一、坂井宏彰、和田彩花、森良子、柿本弘一、石川雄士、仲悟志

※山崎広介の「崎」は立つ崎(たつさき)が正式表記。

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