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片桐仁の アートっかかり!

あれもこれも一世を風靡したデザインばかり!日本を代表するクリエイティブディレクターの世界を体感!『佐藤可士和展』

毎月連載

第27回

今回、片桐さんが訪れたのは国立新美術館で開催中の『佐藤可士和展』(5月10日(月)まで)。誰もが知る会社やブランドのブランディングを手掛けるクリエイティブディレクターの佐藤可士和さんが自らキュレーションをした展覧会です。佐藤さんご自身に展覧会を解説していただきました。

子どもの頃からひと味違う!

片桐 大学の大先輩の可士和さん、お久しぶりです。それにしても、国立新美術館で個展なんてすごいですね。

佐藤 今回の展覧会は、タイトルから展示構成、チラシに解説ガイドなどすべてを僕自身が手掛けています。とても大変でしたが、おもしろい展覧会になりましたよ。

片桐 それにしても、冒頭から子どものころに描いた絵が展示されているのがすごい。この頃から才能の片鱗を覗かせていますね。

手前《アリ》、奥《宇宙》

佐藤 小学校5年生のころの絵ですね、偶然見つかったのですが、この頃から今に通じるものがあるので、冒頭に展示しました。直線や円を使った抽象画やアリの行列の絵です。

片桐 この丸と線だけで描かれた抽象画、色使いが渋いですね〜。そしてアリの絵、すごい迫力です。構図も凝っているし。

佐藤 どうしてこんな絵を描いたのか、理由は全く覚えていないのですが、絵を描いていたときのことははっきり思い出せるんです。面白いですよね。

《アリ》

片桐 そして、社会人になって数々の広告を手掛けるようになっていく、と。ここのセクションは見たことがあるものばかりですね。懐かしいな〜。あ、ミスチルのアルバム「シフクノオト」もある。これは買って聞いてました! 可士和さんのデザインだったんだ。

佐藤 ここは1990年代後半から2000年代に制作したものを展示した「ADVERTISING AND BEYOND」のセクションです。当時はいわゆるテレビ、雑誌、ラジオなどのマス広告が主流で、まだインターネットは黎明期。メディアとしては普及していませんでした。そして同じ頃に携帯電話の普及が爆発的になっていました。そうなると、人々は通話しながら街を歩くようになる。

そういう状況だと、コミュニケーションの舞台として街が大切になっていくと考えたんです。そこで、街をメディアにしてみたいと思い始めます。LOFTやPARCOのショッパー(買い物袋)、ユニクロの工事中の看板などもその流れで制作したものなんですね。

片桐 そして、この『Smap』(エスマップ)! よく覚えています。自動販売機とか、クルマとか、街をジャックしてすごかったなー。

佐藤 ドリンクのパッケージや、ビルボード(屋外広告看板)、駅貼りポスター、街頭広告やポケットティッシュなどすべてをメディアとして捉えてビジュアルを展開しました。SMAPのプロモーションは博報堂から独立して、クリエイティブスタジオ「SAMURAI」を設立して最初の仕事だったので、とても印象が強いです。

片桐 ドリンクも出してたんすか!

佐藤 このドリンク、実はそんなに美味しくない(笑)。あえてクセのある味で話題になるようにしました。SMAP側からはなにか新しいことをやってほしいという希望でした。いまではエイジレス化が進んでいますが、2000年前後はまだアイドルも若さが求められるような時代でした。そんななか、SMAPは未知の領域へ切り込んでいこうとしていた。そこで、新しい手法として街をまるごとSMAPについて発信するメディアとしてみようと思ったんです。

片桐 その発想もすごいし、それに乗ったSMAPもすごい。しかもSMAPのプロモーションなのに、メンバーの写真が1枚もがないのがさらにすごいですね。

佐藤 このキリンの極生も、実はテレビCMを一切行っていないんです。ビルボードや駅貼りポスターを中心にアピールしていったんですよ。

片桐 本当だ。この極生の広告、商品写真やタレントさんの写真がまったくない。パッケージをそのまま写真を撮ったかのような状態。140円という値札まで写っちゃってるし。でも、飲んでみたくなってくるから不思議です。

巨大なロゴに囲まれて

佐藤 そして、「THE LOGO」のセクションです。これまでに手掛けた主要なロゴを超巨大化して展示してみました。

片桐 うわあ、大きいっ。しかも、ほぼ全部知っているロゴ!

佐藤 この展覧会のために300坪くらいのアトリエを借りたんですよ。そこに展示室と同じ5メートルの壁を立てて、そこにこれらの作品と原寸大の紙を出力してシミュレーションしました。この空間の構成を考えてから、他のセクションの構成を考えたので、展覧会のキーとなる場所ですね。

ただ大きいだけではなく、そのロゴにちなんだ素材や質感に仕上げています。たとえば、今治タオルのロゴはタオル地でできている。今治にある最大の織機を使って今治で作ってもらいました。

片桐 遠くからでもフカフカした感じが伝わってきますね。展示作品じゃなければ絶対触ってた。

佐藤 ユニクロは世界のいろいろな美術館とコラボレーションしたTシャツを展開していたりと、アートに近いイメージがあります。ですから、このロゴは油絵にしました。LDHのロゴはステージをイメージしています。

片桐 本当だ。近づいて見て初めてわかることも多い。しかし、ロゴが巨大になっても間延びしないのもすごいですね。

佐藤 ロゴはスマホで見るときもあれば、外で看板として見るときもあります。どんなときでも、イメージがブレることがないように「強度」を持たせることを意識しています。ロゴを完成させるときは、斜め線の角度や先の太さ、面の割合など徹底的に計算し、仕上げます。設計図も用意しているんですよ。

片桐 そこまで細かく仕様を指定しているんですね。だからどんな大きさで見ても印象が変わらないんだ。「強度」って考え方は非常に参考になります。ちなみに、ここまで作り込むのに、だいたいどれくらいの時間がかかるんですか?

佐藤 約1年ですね。最初の3ヶ月くらいでクライアントである企業のお話、課題、やりたいことなどを徹底的に伺い、その後3ヶ月くらいで設計する。そしてその後6ヶ月くらいで、ロゴを使ったユニフォームや商品、webサイトなどを作っていく。

片桐 長丁場ですね。でも、そこまでしっかり作り込んだものだから、長く付き合えるんだ。

佐藤 ロゴは企業とお客様との最初のコミュニケーションの接点です。ロゴが決まれば、これから進むべき企業の方向性も見えてくると言ってもいいくらい、企業の本質を凝縮した大切なものなんです。

さらに発展し続ける可士和さん

佐藤 「ICONIC BRANDING PROJECTS」のセクションは、2000年代半ばからのブランディングで携わった仕事を紹介しています。ここはセブン-イレブンのリブランディングプロジェクトのコーナー。

片桐 見たことある商品がたっぷり並んでいます。

佐藤 ここでは約4000あるPB(プライベートブランド)商品が並んでいます。といっても、僕が全部デザインをしたのではなく、デザインの「ルール」を作りました。「商品名は面積の5分の1くらいにする」、「使用するフォントは○○にする」、「商品の写真はこんな感じで照明を当てて…」など、パッケージをデザインするにあたっての取り決めを細かく設定していったんです。PB商品は多くのメーカーさんが携わっていくのですが、このルールに基づいてパッケージデザインを行えば、各デザインに統一感が出てくる。

片桐 4000もの商品があれば、確かにデザインがバラバラになってしまいますものね。

佐藤 セブン-イレブンからは、パッケージデザインを変えてほしいというオーダーを頂いたわけではなく、「セブン-イレブンをもっとよくしてほしい」という依頼だったんです。

片桐 ある意味、一番面倒くさいオーダーですね。

佐藤 各商品のデザインを「点」のデザインだとしたら、ここでは「面」をデザインしていくイメージですね。お菓子売り場の棚全体を面だと考え、そこをどのようにしていくかを考えていく。飲料コーナーの面、冷凍食品の面などいろいろな面を考え、セブン-イレブン全体の環境を作っていくようにしています。商品をメディアとして捉えて、ブランド戦略をしていきましょうという提案しました。

片桐 セブン-イレブンって入るとワクワクするんですが、そこにはこんな仕組みがあったのか!

佐藤 そして最後のセクション「LINES / FLOW」です。この展覧会のキービジュアルにもなっている直線だけで構成している「LINES」と、青の岩絵の具を含ませた大筆一振りで生まれた「FLOW」の2つのシリーズを中心に自分自身のアートワークを展示しています。

片桐 ご自分で創作をされるようになったのはなぜなのでしょう?

佐藤 もともとは2016年に有田焼創業400年というプロジェクトがあって、ゲストアーティストとして招かれてグローバルに発信する有田焼の制作を依頼されたのですが、普段の仕事よりもアーティスティックなものを求められていました。これがとてもおもしろかった。自分はもともとは絵を描くことが好きでクリエイターの道に進んだのですが、今まではそういった自己発信的なことはずっと封印してクライアントワークに徹していたんです。けれども、いろいろ作り始めたら楽しいし、学ぶこと、気づくことがたくさんある。もっと先の未来のことや、美しさとはなにかということと考えられるようになった。そのことがクライアントの仕事に結びついていく。なので、自分のなかでは、あまり区別をつけていないんですよ。

片桐 なるほど、すべてが一つになっているんですね。そして、最新作を見たとき、最初にみた小学生のときに描いた作品と同じ印象を受けました。

佐藤 そうなんです。自分は子どものときから直線と曲線の組み合わせが好きなんだって気づきまして。それで、最初と最後の展示がつながっているように配置したんです。

片桐 子どもの頃から変わらないってすごいな、さすがです。そして…、展覧会が終わって、ここからはミュージアムショップですね。

佐藤 国立新美術館バージョンのUT STOREを作りました。パッケージも展覧会用に特別にデザインしたんです。自分が好きだったバカボンやデビルマン、ガラモンや、ウォーホル、バスキア、そして東京土産用のTシャツなどいろいろ用意しました。ブランドを認知してから買う体験までが僕の作品でもあるのでこのショップを作りました。

片桐 すごいな、どれにしようか迷うな〜。自分で手に入れられるって選択肢が増えると、また見え方が違ってくるからおもしろいです。いやあ、今日は懐かしかったり、興奮したり、勉強になったりと、いろいろな体験ができました。またじっくり見に伺いたいと思います!

構成・文:浦島茂世 撮影:星野洋介

プロフィール

片桐仁 

1973年生まれ。多摩美術大学卒業。舞台を中心にテレビ・ラジオで活躍。TBS日曜劇場「99.9 刑事事件専門弁護士」、BSプレミアムドラマ「捜査会議はリビングで!」、TBSラジオ「JUNKサタデー エレ片のコント太郎」、NHK Eテレ「シャキーン!」などに出演。講談社『フライデー』での連載をきっかけに粘土彫刻家としても活動。粘土を盛る粘土作品の展覧会「ギリ展」を全国各地で開催。

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