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山本益博の ずばり、この落語!

第二十回『春風亭一之輔』 令和の落語家ライブ、昭和の落語家アーカイブ

毎月連載

第20回

20/1/30(木)

春風亭一之輔(写真:キッチンミノル)

私は2014年10月に日本橋室町の三井ホールを拠点に「COREDO落語会」を立ち上げたのだが、席亭役としてレギュラー制度を敷こうと考え、2011年ころからレギュラー3人の落語家を誰にしようか、寄席やホールを廻っていた。

古参格の真打、中堅の真打、新鋭の真打3人を選ぶのに、基準はひとつ「高座の品格」だった。

一人目はすぐに決まった、同世代でもある柳家権太楼師匠。中堅どころは、伸びしろがあることも含めて柳家花緑師匠、そして、若手は勢いがあって、落語がまっすぐで、なにより高座に清潔感が漂う春風亭一之輔師匠。真打になりたてだった。

2014年10月28日の「第1回COREDO落語会」のプログラムは次のように組んだ。

  • 番 組
  • 開口一番
  • 柳家花ん謝
  • 代書屋
  • 柳家権太楼
  • 二階ぞめき
  • 柳家花緑
  • 仲入り
  • 百川
  • 春風亭一之輔
  • 富久
  • 柳家権太楼
「第1回COREDO落語会」(2014年10月28日)ポスター

トリを取った権太楼師匠に2席お願いしたのは、ホール落語と寄席の落語の両方の良さを醸し出せないかと思案した結果だった。

そして、このときの一之輔の『百川』が、録音に残しておきたいほどの出来栄えだった。

じつは『百川』は、日本橋室町のホールがあるあたり、かつての「浮世小路」が噺の舞台で、どうしても第1回にはだれかに演っていただこうと考えていた演目だったのである。

「COREDO落語会」以前から、並行して開いていた落語会が、神楽坂「赤城神社」での「はじめての落語」だった。

「春風亭一之輔師匠と、はじめての落語。」(2015年10月22日)案内はがき
「春風亭一之輔師匠と、はじめての落語。」プログラム

今日初めてライヴの落語を目の当たりにするお客様の視点を大切に考え、一席高座でしゃべっていただく前に、私と前振りのトークをしてもらう。そうすることによって、出演する落語家の地の声や資質が伝わってきて、本題の落語に難なく入っていけると考えたからである。

「森羅万象」「老若男女」を扇子と手拭いのみを使い分けて描き分け、座布団に着物姿で座っただけで演じてみせる話芸の面白さ、懐の深さが、落語家自身の手ぶり、身ぶりを交えての話によって、とても面白く興味深く、また、勉強にもなった。

「COREDO落語会」の前に、一之輔師匠にこの「はじめての落語」の高座で『百川』をかけてもらった。

『百川』と言えば、六代目三遊亭圓生の十八番。圓生以後では、柳家小三治の『百川』が印象に残っているくらいである。

一之輔の『百川』の主人公百兵衛の言動が、圓生でもない、小三治でもなく、ユニークだった。田舎者の素朴さ、実直さを出すだけでなく、威勢の良い江戸っ子に翻弄されながら、ついには切れてしまう百兵衛が新鮮だった。

春風亭一之輔は1978年1月28日生まれ、41歳。千葉県野田市出身。
2001年 日本大学芸術学部放送学科を卒業し、同年5月春風亭一朝に入門、 前座名「朝佐久」を名乗った。
2004年11月 二つ目昇進 「一之輔」に改名し、頭角を現していった。
2008年 第4回東西若手落語家コンペティション優勝
2010年 NHK新人演芸大賞落語部門大賞受賞
2010年 文化庁芸術祭大衆芸能部門新人賞
2012年3月 当時の落語協会会長柳家小三治の後押しがあって、21人抜きの抜擢で真打に昇進した。

私が初めて聴いたのは『くしゃみ講釈』だが、『百川』のほか、『初天神』『雛鍔』『子は鎹』など子供が出てくる噺は子供からの視線が生きていて出色、『青菜』『あくび指南』などには江戸の風情に現代のくすぐりが生きて新しい。『粗忽の釘』に至っては、主人公がそそっかしい性格ばかりか、江戸以来の愛くるしくて憎めない「東男」の伝統が生きている。いま、いちばんの「男前」の落語家ではないかしらん。

豆知識 『落語に出てくるたべもの:もりそば』

(イラストレーション:高松啓二)

落語には「そば」がしばしば登場するが、一番よく知られている『時そば』は、どんぶりに入った温かい「かけ」で、冷たい「もり」ではない。「もりそば」となると、『そば清』が面白い。

『そば清』は屋台ではなく、そば屋が舞台。「せいろ」に盛られたそばを何枚平らげられるかの賭けをする噺で、十代目金原亭馬生の、「そば屋」へ相好を崩しながら「どうも」と言って入ってくる清兵衛さんが、とても印象に残っている。

「そばっ喰い」と言うが、そばは「喰う」とか「すする」とは言わない。「手繰る(たぐる)」という。箸と猪口を互い違いに上下させて、猪口にそばを落とさずに手繰る。汁が多くては、猪口を上下に動かせない。したがって、徳利から汁を継ぎ足し継ぎ足ししてそばを手繰る。

ちなみに、もりそばは、せいろに盛るところから「せいろ」そばの上に刻んだ海苔を散らしたものを通称「ざる」と言う。

プロフィール

山本益博(やまもと・ますひろ)

1948年、東京都生まれ。落語評論家、料理評論家。早稲田大学第ニ文学部卒業。卒論『桂文楽の世界』がそのまま出版され、評論家としての仕事がスタート。近著に『立川談志を聴け』(小学館刊)、『東京とんかつ会議』(ぴあ刊)など。

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