Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

『ジョジョの奇妙な冒険』岸辺露伴はなぜ人気キャラに? 唯一無二の“不気味な魅力”を考察

リアルサウンド

20/12/7(月) 16:36

 荒木飛呂彦による短編漫画『岸辺露伴は動かない』が、高橋一生を主演に12月28日から30日にかけて3夜連続でNHKにて実写ドラマ化される。

 本作は『ジョジョの奇妙な冒険』から派生したスピンオフシリーズ。第4部に登場する漫画家・岸辺露伴を中心にエピソードが展開していく作品である。1997年に『週刊少年ジャンプ』に掲載された「懺悔室」を初回として、2018年の「ザ・ラン」までの9話を集めた単行本2冊、さらには各著者が寄稿した『岸辺露伴は叫ばない』『岸辺露伴は戯れない』の2作が短編小説集として刊行されている。今回、実写化されるのは「富豪村」と「D・N・A」、北國ばらっどによる小説「くしゃがら」の3エピソード。生粋のジョジョファンとして知られて、インタビューでは敬意を込めて“露伴ちゃん”と呼ぶ高橋一生を主演に、脚本はアニメシリーズのシリーズ構成を手がけてきた小林靖子という豪華布陣だ。

 ほかにもノベライズ作品として描かれているキャラクターはいるものの、ここまで長年にわたって幾度もエピソードが紡がれている人物は露伴しかいないだろう。それも、空条承太郎や東方仗助のような主人公でないにも関わらずである。それでは露伴が愛される魅力とは一体どこにあるのだろうか。

※以下、ネタバレあり

「岸辺露伴は、その不気味さとか、不穏さの表れみたいなものですね」(『JOJOmenon』荒木飛呂彦インタビューより)

 第4部は荒木の地元である宮城県仙台市をモデルに、架空の町・杜王町を舞台としている。荒木が描きたかったのが、どこから来た人がここに住んでいるだろうという、地方都市ならではの不気味な感覚。それは第4部のボスとして登場する吉良吉影にも通底しており、露伴で言うならば彼が初登場する「漫画家のうちへ遊びに行こう」のエピソードが最も分かりやすいだろう。

 16歳で漫画家デビューした、20歳(初登場時)の露伴。杜王町に越してきて3カ月という彼は、家に訪ねてきた広瀬康一と間田敏和に「東京は便利だけど、ごちゃごちゃしてるよね。とても杜王町のような清々しい環境では仕事ができないよ」と話している。

 アシスタントも付けず、たった一人で人気作「ピンクダークの少年」を連載している露伴は、人間関係が嫌で漫画家という職業を選んだ。康一曰く、その作風はサスペンスホラーで生理的に気色の悪い描写も存在するが、迫ってくるようなスリルと本当にいるような登場人物が魅力とのこと。

「『リアリティ』だよ! リアリティこそが作品に生命を吹き込むエネルギーであり『リアリティ』こそがエンターテインメントなのさ。『マンガ』とは想像や空想で描かれていると思われがちだが実は違う! 自分の見た事や体験した事、感動した事を描いてこそおもしろくなるんだ!」

 面白い漫画に不可欠な要素を2人に説く露伴はリアリティのためにと、捕まえた蜘蛛の腹部をペン先でグリグリとほじくり返し、じっくりと観察した後にペチャリペチャリと味見をする。後の第5部で登場するブローノ・ブチャラティが汗の味を確かめるのが1度きりだったように、初回の設定が少々オーバーなのは、ジョジョでは恒例のことであるが、いわゆる彼の持つ不気味さを象徴的に描いたのがこのシーンだった。その証拠に34巻に収録されている第53話は露伴が蜘蛛を舐め、間田がそれを見てゲロを吐き、康一が汗を流すコマで幕を降ろす。

 露伴のスタンド「ヘブンズ・ドアー」は、相手を本にすることで、人生の経験をページを捲るように覗いたり、未来の行動を書き込める能力。考えようによっては無敵の、彼の知的欲求からくる好奇心を具現化したようなスタンドだ。杉本鈴美との出会いや仗助から挑まれるチンチロリン、ジャンケン小僧との勝負、乙雅三とのチープ・トリック戦など、露伴が主役となるエピソードは、どれも漫画のネタになるならば、というような好奇心が根底にある。今回、実写ドラマ化となる第1話「富豪村」も、リアリティを追い求め取材先で奇妙な出来事に遭遇するエピソードだ。

 露伴には自宅が半焼になったり、イタリアで盗難にあったり(『岸辺露伴 グッチへ行く』より)と何かと波瀾万丈でお茶目な一面もある。一方で、ジャンケン小僧に対して大人気ない態度を取るような底意地の悪さも。「だが断る」は露伴のみならず、『ジョジョ』における屈指の名ゼリフであるが、その後に続くセリフまではあまり知られていない。

「この岸辺露伴が最も好きな事のひとつは自分で強いと思ってるやつに「NO」と断ってやる事だ」

 相手の噴上裕也に勝るほどの自信家で、まさに唯我独尊な露伴を印象付けた一言だ。

 露伴が長年愛される魅力は、荒木作品の大きなテーマである不気味さを背負いながらも、漫画のためなら犠牲も厭わない好奇心、さらに仗助たちと同じ揺るがなきハートフルな「黄金の精神」を持つところにある。

■渡辺彰浩
1988年生まれ。ライター/編集。2017年1月より、リアルサウンド編集部を経て独立。パンが好き。Twitter

新着エッセイ

新着クリエイター人生

水先案内

アプリで読む