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遠山正道×鈴木芳雄「今日もアートの話をしよう」

カルティエ、時の結晶

月2回連載

第29回

19/11/2(土)

鈴木 今回は、国立新美術館(東京・六本木)で開催中の「カルティエ、時の結晶」(12月16日まで)をご紹介します。

遠山 カルティエって、いろんなところで展覧会をやっているイメージ。日本でも何回かやっていますよね?

鈴木 そうですね。カルティエは、1847年にフランス・パリでルイ=フランソワ・カルティエが創業した宝石商。1970年代にメゾンの歴史と創作の記録のため、過去に制作されたピースの収集を開始して、1983年、「カルティエ コレクション」を創設します。そして1989年のパリ市立プティ・パレ美術館での回顧展以降、世界各地で展覧会を開催し、この東京の国立新美術館の展覧会が35回目。日本では1995年の東京都庭園美術館、2004年、京都の醍醐寺、2009年の東京国立博物館に続いて4回目です。

遠山 やっぱりけっこうやってますね。カルティエの展覧会といえば、いつもは、カルティエの歴史を見せるというイメージ。今回はなんだかいつもと趣が違う気がするのですが……

鈴木 そう、これまではカルティエ自身が収蔵するコレクションで展覧会が構成されてきましたが、今回はそれ以外に、個人所蔵作品を世界中から集め、展示するという、カルティエにとって初の試みとなる展覧会になっている。だから、これまでには決して見ることができなかったり、簡単に見ることができないものが多数展示されています。

遠山 確かに。個人蔵のものが多数を占めていますよね。

鈴木 約330点が展示されていて、その半数近くが個人蔵。1970年代以降の現代作品に焦点を当てていることも大きな特徴ですね。

遠山 個人蔵がこんなにも展示されるというのは、確かに画期的なこと。でも借りてくるの、すごく大変だっただろうな(笑)。

芳雄さんはこの展覧会にも関わっているんですよね?

鈴木 はい、公式図録編集や、一部コピーライティングなんかを担当しました。

遠山 この図録がめちゃくちゃカッコいいんですが、それは最後に教えていただくとして、展覧会の特徴なんかを教えてください。

鈴木 今回は展覧会タイトルにもあるように、「時間(とき)」がテーマ。そして「色と素材のトランスフォーメーション」「フォルムとデザイン」「ユニヴァーサルな好奇心」という3つの視点からジュエリーを紹介しています。

そしてもう一つ特筆すべき点は、杉本博司さんと榊田倫之さんの建築設計事務所「新素材研究所」が会場構成を担当していること。

杉本博司《逆行時計》2018年 ミクストメディア(作家本人により逆行化され修復された1908年製造の時計[製造:フォンタナ・チェーザレ、ミラノ])個人蔵 ©Hiroshi Sugimoto / Courtesy of N. M. R. L. photo:Yuji Ono

遠山 ちょっとびっくりするような会場構成。新素材研究所のこだわりがこれでもか、と詰まっていて、ジュエリーと一緒に空間そのものが作品になっていますね。ちょっといままでにはない展覧会だなと思いました。

ではそのあたりも芳雄さんに会場を案内してもらいながら、教えてもらいたいと思います。

会場入ってすぐの杉本さんの作品にまずは驚かされました。暗い中に巨大な時計。

鈴木 《逆行時計》ですね。

遠山 これはカルティエの時計に杉本さんが手を加えたものですか?

鈴木 いえ、これは杉本さんがスイスで見つけたものだそうです。1908年にイタリア、ミラノで作られた塔時計で、その機構を改造して、針を逆回転させています。動力は、重錘式で、錘(おもり)の重さで歯車を動かす。で、向かって右の錘で鐘を鳴らして、左側で時計を動かしているそうです。しかも、錘が床につく前に手動で巻き上げる機械式時計。

遠山 え? 手動? しかもこれ、こんな剥き出しで使用されてたのかな?(笑)。 いったいもとはどういった形だったんだろう。なんかいまいち想像できないですね。

鈴木 でも杉本さんらしい、一筋縄ではいかない「逆行」する時計(笑)。ちなみに会場内にいると、鐘の音が時々聞こえて、なんだか荘厳な雰囲気も感じることができます。ちょっと急な音にびっくりもさせられますが(笑)。

そしてここから我々は、時間を遡る旅に誘われるわけです。

展示風景 序章「時の間」新素材研究所 © N. M. R. L./ Hiroshi Sugimoto + Tomoyuki Sakakida photo: Yuji Ono

遠山 序章に進むと、美術館の天井高をこれでもかと見せつけるように、白い布が。これもすごいですね。あと、展示空間が思った以上に暗くてびっくり。

鈴木 全体を通してだけど、会場が暗くてびっくりしたっていうのは、よく言われるみたい(笑)。

で、この布も新素材研究所の選定だけど、川島織物セルコンに特別発注して作ってもらった8mもある布。ちょっと写真ではわかりづらいかもしれませんが、これは通常の織り方ではなく、「風通織(ふうつうおり/二重織)」という織り方。表生地と裏生地の間の糸を減らすことで、美しいグラデーションを生み出している。やわらかな光が差し込むように考えられていて、幻想的な光の空間を生み出しているわけです。

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