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伊藤沙莉、作品のトーンを変える役割に 『ひよっこ』『この世界の片隅に』に見る人物造形の豊かさ

リアルサウンド

18/9/2(日) 6:00

 現在放送中のTBS日曜劇場『この世界の片隅に』で、松坂桃李扮する北条周作の隣家に住む幼なじみ・刈谷幸子を演じている女優・伊藤沙莉。子役として9歳から活動を開始するなど15年のキャリアを持つ彼女だが、その演技力は各方面から絶賛されている。

 太平洋戦争真っ只中の広島県・呉の人々の生活を描いた本作。どんな状況になっても、日常の大切さを誠実に切り取っていく作風は、多くの人々の心に染み入ってくるが、第6話のラストでは、ついに戦火が主人公のすず(松本穂香)たちにも襲い掛かるさまが描写された。

 今後、物語はさらに緊張感を増し、よりシビアな展開になっていくことは容易に想像できる。そんななか、さらに存在感を増してきそうなのが、幸子だ。

【写真】『この世界の片隅に』での伊藤沙莉

 幸子は、すずが嫁いだ呉の北条家の隣に住む女性で、松坂桃李演じる周作の幼なじみであり、恋心を抱く役柄。最初の登場から幸子は、すずに対して“分かりやすい敵対意識”を表しつつも、根っこの部分はとても優しく、すずにとって大いなる心の支えとなる女性だ。

 日常を描くことがテーマでありつつも、戦時中というシビアな状況下、物語は一定の緊張感を保っている。そんななか、幸子は劇中、緩急の“緩い”雰囲気を一手に担う。本作の脚本を務めるのは、NHKの連続テレビ小説『ひよっこ』で脚本を担当した岡田惠和だが、『ひよっこ』で伊藤が演じた米屋の娘・安倍さおり(通称:米子)も、物語のペースを変える、異質な役割を果たした。

 作品のなかで、登場するだけでトーンを変える役割に、伊藤自身は以前、筆者が行ったインタビューで「面白くしてください的なオーダーはキツイ。『意外とつまんねーな』と思われるかもしれないという恐怖やプレッシャーと常に戦っているんです」と胸の内を明かしていたが、一方で「一番自由な権利をもらったような感じでやりがいもある」と意気に感じている部分もあるという。

 『ひよっこ』での米子、『この世界の片隅に』での幸子ともに直接的に“面白くする”という役割ではないが、確実に伊藤が画面に登場すると、視聴者はホッコリとした気分になる。しかも、それは飛び道具的に雰囲気を変えるのではなく、しっかりキャラクターに感情移入し、物語に破たんがないなかで弛緩を与えているのは、伊藤の演技力に他ならないだろう。

 子役として9歳から演じることをはじめ、24歳ながら15年というキャリアがあるが、悔しい思いもたくさんしてきたという。そんななか「いまにみていろ!」という思いが彼女の原動力となった。与えられたキャラクターへは徹底的に向き合う。「キャラクターをキャラクターとしてしか表現しない」ことが嫌だというのだ。

 優しい人にも、きっとドロドロとした部分がある。同じく意地悪な人間にも、必ず良い部分がある。単純に「○○な人」と表面的な部分を捉えて演じることをしたくないという伊藤。本作の幸子も、人物相関図的にみれば、小さいころから好意を持っている周作の妻となったすずに対して、嫉妬を含んだ感情を持つことは、視聴者も想像できるが、嫌味を言いつつもすずを温かく包み込むようなキャラクターに落とし込んでいるのは、伊藤ならではの人物造形だろう。

 これまで、映画『獣道』のようなやや癖のある役柄が多かったが、前クールの『いつまでも白い羽根』(東海テレビ、フジテレビ系)では、看護師を目指す真面目でまっすぐな学生・千夏を好演。ピュアでキラキラした前向きな女の子でありながらも「いい人は“どうでもいい人”になりがち」と意識して、しっかりと色をつけて演じた。

 2018年は、本作をはじめ3クール続けて連続ドラマへの出演のほか、映画での活躍も続く伊藤。出演時間の長短関係なく、画面やスクリーンに登場すると、自然と目を追ってしまうような存在感ある演技をみせる。いよいよ佳境に入る『この世界の片隅に』でも、物語にどんな救いを与えてくれるのか。今後の幸子から目が離せない。

(磯部正和)

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