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UPLINK・浅井隆が考えるコロナ禍以降の映画館 「オンライン上映と共存するために」

リアルサウンド

20/5/20(水) 12:00

 東京渋谷と吉祥寺、今年オープン予定の京都と3つの映画館を運営する「UPLINK」。自社配給のアート系作品から、シネコンなどでの上映が終わった準新作まで、多様な映画を上映する映画館としてはもちろん、ギャラリー、カフェレストラン、DVD・書籍などを販売するマーケットも備えた“カルチャー”の発信地として、多くのファンに愛されている。

 しかし、アップリンク渋谷・吉祥寺は、5月19日現在、新型コロナウイルス禍による都知事の要請により、休館を余儀なくされている。そんな中でもミニシアターの存続のために、2016年末からスタートしたオンライン映画館「UPLINK Cloud」やそのプラットフォームを用いたオンライン先行上映など、新たな形の収入源を模索している。リアルサウンド映画部では、UPLINK代表の浅井隆氏にインタビュー。コロナウイルス禍の影響、今後に向けた施策、新たな映画館の形まで話を聞いた。

●映画館のビジネスモデルを考え直さないといけない

ーーアップリンク渋谷・吉祥寺は4月8日より休館を余儀なくされています。「ミニシアター・エイド」のクラウドファンディングが3億円(5月14日時点)を越え、政府からの休業補償などもありますが、今後の運営の目処としてはいかがでしょうか?

浅井隆(以下、浅井):単刀直入に申し上げると、アップリンクの規模が渋谷に加え、吉祥寺、京都と大きくなったこともあって非常に厳しいです。渋谷と吉祥寺の家賃だけで月間500万円以上、さらに借金の返済、リース代、社会保険料、税金なども加われば相当な額になります。もちろん、「ミニシアター・エイド」の支援は本当に有り難いですし、休業補償で一部補える部分はありますが、それだけでは休業が維持できるのも数カ月というのが実情です。緊急事態宣言の解除、および、これからの映画館運営にどんな条件が求められるのか、注視しているところです。

ーーアップリンクをはじめ、全国のミニシアターが大きな危機に直面していると。

浅井:ミニシアターという文化を感傷的に語るか、ビジネスとして語るかでも変わってくると思うんです。もちろん、ミニシアターが担ってきた文化的貢献は間違いなくありますが、“思い”だけではどうにもならない。「助成金でなんとか来月まで維持できる」という状態ならば、持続可能な文化活動とは言えない。映画ビジネスで一番最初にお金が入るのは映画館であり、そこから映画監督や制作会社、配給会社にお金が回っていく。文化活動を維持するためにも、映画館がビジネスとして成り立たなければ始まらないわけです。アップリンクは劇場運営とともに、配給業務、およびカフェや書籍などの販売も含めて、さまざまビジネスを展開してきましたが、今回の事態を受け、映画館のビジネスモデルを改めて考え直さないといけないと思っています。

ーー映画館で映画を上映することができないいま、新作映画が配信で公開されるなど、オンラインもひとつの収益場所となっています。アップリンクは、2017年の時点でクラウドサービス「UPLINK Cloud」をスタートさせていました。

浅井:クラウドサービスが展開できるのも、アップリンクが配給会社として自社の作品があるからです。コロナウイルス禍の影響を受けて、今回、2,980円で3カ月60本以上見放題プランも取り入れましたが、その成果もあって見放題の売上げとしては成功しています。新作映画の配信レンタルは大体200円から400円。アップリンクの場合は、全部観るとすれば1本あたり約50円であり、4、5本観れば元が取れる。加えて配信レンタルの期間は48時間が多いですが、アップリンクの場合は3カ月のゆとりもある。その点で試しに入ってみようと思ってくださる方が多かったのかと思います。加えて、5,000円コース、10,000円コースの寄付込みプランにも多くの方が申し込んでくださっており、大変感謝しております。アップリンクが制作、権利を持っている作品全てなので、ある意味過去の作品に助けられているとも言えます。

 ただ、これは配給会社だからできる試みであり、多くのミニシアターでは同じようにはできません。その点では、東風さんが中心となってはじまった【仮設の映画館】がひとつの救いになるかもしれません。オンライン上に映画館を設置し劇場も実際と同じように収益を得られる仕組みであり、形だけで言えば実際の上映と同じ形になる。その成果に注目したいと思います。

ーー今後、劇場上映よりもオンライン上映がメインになる可能性も、業界全体では考えられますか?

浅井:そうですね。オンライン鑑賞の敷居は、コロナウイルス禍による外出自粛の影響で大きく下がりました。新作がオンラインでも観ることができるのであれば、劇場より自宅を選ぶ観客も増えるように思います。そもそも映画上映の料金は、コンテンツの制作費をどう回収できるか、というのが前提にあるわけです。だから、ビジネスの視点でみれば、製作者側が映画館ではなくオンラインで回収できると判断すればそちらに移行する。1本1,900円という料金形態も変化するかもしれません。

●カルチャースポットとしての映画館
ーーコロナウイルスの感染拡大が収束し通常営業ができるようになったとしても、オンライン上映が中心になる可能性もあると。

浅井: 7月から日本大学芸術学部で映画ビジネスの授業を担当することになったのですが、授業は最初からオンラインで実施します。もし、オンライン授業でなんの支障も生じないなら、大学の建物の構造自体が必要じゃない可能性が出てきますよね。何百人も生徒が入ることのできる大講堂は作らず、実験やゼミなどで一定数の人数が討論できるサイズの教室だけあればいい。オンラインであれば全国どこでも、世界中の大学の授業も受けることもできます。そうなってくると、質の低い授業は淘汰されていく。自ずと競争に敗れる大学も出てくるのではないでしょうか。もちろん、これからオンラインによる弊害なども色々出てくると思いますが、今回を機にインフラが整い移行することの障壁がなくなるのは大きい。

ーーなるほど。

浅井: この考えは映画館にも用いられるように感じております。コロナウイルス禍以前から、地方のミニシアターに若いお客さんがたくさん来ていたかというと、決してそうではない。ビジネスとして成立させるのであれば、アップリンクのように30~40人規模のサイズを基本として、映画館である以上にひとつのカルチャースポットの拠点にする。シネコンでは上映されない映画を観ることができる環境は必要です。でも、首都圏と比較すれば地方ではそういった作品に関心を持つ人はどうしても少なくなってしまう。だったら、その人数にあわせる劇場サイズにすればいいんです。ミニシアターよりさらに規模の小さい「マイクロミニシアター」。カルチャースポットとなる役割も兼ねることができれば、オンライン上映とも共存できるように思います。

●映画の多様性を担保しているのは配給会社
ーー配給会社にはどんな影響がありますか?

浅井:「ミニシアターがなくなることにより映画の多様性が失われる」という意見があります。その通りではあるのですが、映画の多様性を担保しているのは、ミニシアターと同時に小規模の配給会社たちです。製作者が直接、配信サイトや、映画館と交渉するケースも増えていくと思いますが、国内外の良作を見つけて買い付けることは、仮にオンライン主体になったとしても変わらずに必要です。現在はミニシアターの危機であると同時に、収益が確保できない配給会社の危機でもあるので、映画の多様性のためにもサポートは必要不可欠です。

ーー配信サイトでの視聴やパッケージの購入も、配給会社へのサポートに繋がるのでしょうか?

浅井:そうですね。現在、UPLINK Cloudのプラットフォームを使って、「Help! The 映画配給会社」と名付けた各配給会社ごとの見放題パックの配信も始まりました。今までもそうした配給会社の作品は、Netflixなど配信系のプラットフォームにもあるのですが、なかなか見つけづらい。配給会社ごとのカラーがあり、まとめることで支援にも繋がりやすいですし、新たな発見もあると思います。

ーー緊急事態宣言の解除の兆しが見えてはきましたが、先行きは不透明な状況です。オンライン上映も今後増えていくと思われる中で、それでも映画館にはどんな役割があるでしょうか?

浅井:映画館の暗闇、そして音響施設は自宅での再現は難しいものです。また、映画館までの道のりも含めて、言葉通り“体験”できることが映画館での鑑賞の醍醐味だと思います。映画館が元に戻るためには、映画ファンが映画館に来てくれることですが、安心できないと、誰も映画館に行けませんし、僕たちも来てくださいとは言えません。緊急事態宣言が終了しても、映画館の運営は座席を1席開けるなど間引く必要があるでしょう。満員でも半分の入りとなれば、はたしてアップリンクのように40席前後の映画館が成り立つのかどうかといえば、その状態がさらに3カ月も続けば絶対に無理です。希望があるとは全く言えない状況で、再び映画館が必要とされる日まで耐えられるのかどうかの今は瀬戸際です。

(取材:石井達也/構成:島田怜於)

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