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NYの映画館再開、マーベルの新スケジュール確定 遂にハリウッドはトンネルを抜ける?

リアルサウンド

21/2/26(金) 14:00

 先週末の動員ランキングは、『花束みたいな恋をした』が動員13万4000人、興収1億8800万円をあげて連続1位記録を4週に伸ばした。今週のウィークデイも2位以下の作品の2倍以上のペースで数字を積み上げていて、本日公開の新作も小規模公開作品が中心。1月末の公開時に初登場1位となった時点で配給体制やスクリーン数などをふまえると大快挙だったわけだが、興収20億円突破は確実、まさかの2月1カ月間通じての首位独走の可能性も高まってきた。

 『花束みたいな恋をした』のここまでの大ヒットはすべての映画関係者にとっても想定外であったはず。振り返ってみれば、昨年10月から『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』が15週連続1位、そこにきて今回の『花束みたいな恋をした』の4週連続1位と、約5カ月の間たったの2作品に興収1位が独占(動員では『銀魂 THE FINAL』が1月第二週に1週のみ1位に立っている)されているというこの状況は、やはり異常事態だ。さらに異常なのは、これで4週連続でトップ10すべての作品が日本映画であること。そんなことは前代未聞の事態だ。

 もちろん、外国映画の新作が公開されていないわけではない。しかし、そのほとんどの作品は小規模公開のアートハウス系作品や、本国では2020年3月以前に公開されていた非メジャーのお蔵出し的な作品。熱心な映画ファンの中にはそれでもそれなりに充実した映画館ライフを送っている人もいるかもしれないが、ただでさえ年に1、2本しか映画館で映画を観ない一般層(それでも全然マシで、日本の人口で最も多くの比率を占めているのは年に1本も映画館で映画を観ない層)と映画ファンの間にある溝は大きかったわけだが、このままの状況が続くとさらに広がっていくばかりだ(付け加えるなら、実質的に現在その溝をなんとか埋めているものがあるとしたら、NetflixやAmazonなどのストリーミングサービスだろう)。

 しかし、アメリカの映画界にもようやく大きな動きが出てきた。昨年3月以来ずっと映画館が閉鎖されてきたニューヨーク市が、3月5日から映画館の再開を許可すると発表したのだ。ガイドラインはキャパ25%、1スクリーン当たり50人までというもの。現在、米国最大のシネコンチェーンAMCはそのキャパを50%に増やすように求めている(参考:NY Gov. Andrew Cuomo Gives Greenlight To New York City Cinema Reopening March 5 At Reduced Capacity|Deadline)。

 一方、パンデミックによる映画館の閉鎖という状況も追い風にして、米国内で想定を大きく上回るペースでディズニープラスの契約数を伸ばしているディズニーは、現在新エピソード毎週配信中の『ワンダヴィジョン』、3月19日から配信開始される『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』に続く、マーベル・シネマティック・ユニバース3作目のテレビシリーズ『ロキ』の配信開始日が6月11日になると正式に発表した。さらに、12月17日全米公開予定の『スパイダーマン』3作目の正式タイトル(『Spider-Man: No Way Home(原題)』)と劇中シーンの写真も発表。「なんだ、ディズニープラスや12月公開作品の話か」と思う人もいるかもしれないが、この1年間「延期」ばかりがアナウンスされてきた中、このタイミングでそれらの発表があったことの意味は大きい。

 『ワンダヴィジョン』、『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』、『ロキ』、『Spider-Man: No Way Home(原題)』の他にも、映画では『ブラック・ウィドウ』(4月29日、日本公開予定)、『Shang-Chi and the Legend of the Ten Rings(原題)』(7月9日、全米公開予定)、『Eternals(原題)』(11月5日、全米公開予定)の公開、テレビシリーズでは『 What If…?(原題)』、『Ms. Marvel(原題)』、『Hawkeye(原題)』の配信を控えている2021年のマーベル・シネマティック・ユニバース。パンデミック下における撮影環境や撮影スケジュールの問題もあるので、配信作品に関しては2022年に先送りになる作品も出てくるかもしれないが、特に映画作品に関しては4つ先の作品である『Spider-Man: No Way Home(原題)』の「12月17日」という公開日がリコンファームされたことで、それまでに『ブラック・ウィドウ』と『Shang-Chi and the Legend of the Ten Rings』と『Eternals』の3作品はなんとしてでも公開しないと、綿密に構築されたユニバース全体が崩壊してしまうかもしれない。

 『ワンダヴィジョン』の視聴者なら身に沁みて感じているはずだが、マーベル・シネマティック・ユニバースに「スピンオフ」という概念はない。ここからのさらなるスケジュール変更は、作品の内容にも大きく関わってくる問題となる。『ロキ』は、『ブラック・ウィドウ』が劇場公開された後に配信されなくてはいけないのだ。また、『ムーラン』や『ソウルフル・ワールド』の急転直下でのディズニープラス独占公開によってすっかり世界中の興行関係者からの信頼を失ってしまったディズニーだが、マーベル・スタジオを統括しているケヴィン・ファイギは、マーベル・シネマティック・ユニバースの映画作品に関しては、ディズニープラスではなく映画館での公開を死守することを強く主張しているという。果たしてゴールデンウィークに本当に『ブラック・ウィドウ』を映画館で観ることができるのか? 「その可能性は高まった」と自分は見ている。

■宇野維正
映画・音楽ジャーナリスト。「集英社新書プラス」「MOVIE WALKER PRESS」「メルカリマガジン」「キネマ旬報」「装苑」「GLOW」などで批評やコラムやインタビュー企画を連載中。著書『1998年の宇多田ヒカル』(新潮社)、『くるりのこと』(新潮社)、『小沢健二の帰還』(岩波書店)、『日本代表とMr.Children』(ソル・メディア)。最新刊『2010s』(新潮社)発売中。Twitter

■公開情報
『ブラック・ウィドウ』
4月29日(木・祝)公開
監督:ケイト・ショートランド
出演:スカーレット・ヨハンソン、レイチェル・ワイズ、フローレンス・ピュー、デヴィッド・ハーバー
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
(c)Marvel Studios 2020

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