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小松未可子、“ポップスシンガー”としての自然体な姿 『Personal Terminal』東京公演を見て

リアルサウンド

18/10/12(金) 18:00

 小松未可子が9月16日、東京・TSUTAYA O-EASTにて『小松未可子TOUR 2018 “Personal Terminal”』を開催した。

(関連:小松未可子×田淵智也(Q-MHz)特別対談 “ポップスシンガー”としての充実を支えるチームワーク

 小松は、7月11日にアルバム『Personal Terminal』をリリース。2017年5月に発表したアルバム『Blooming Maps』より引き続き、畑 亜貴、田代智一、黒須克彦、田淵智也(UNISON SQUARE GARDEN)からなるQ-MHzがプロデュースを担当。前作アルバムよりさらに進化し、ジャズやモータウンなどを新機軸に取り入れると同時に、その内容もより”パーソナル”な領域に踏み入れた作品となっている。また、以前に増して彼女の歌声も洗練され、この日のステージでも、小松の”ポップスシンガー”としての成長と真価が存分に発揮された。

 ツアーファイナル公演が控えているためセットリストの詳細は控えるが、今回のライブは意外にも『Blooming Maps』の収録曲で幕を開けた。この曲は、心機一転を経た自分自身に背中を押される様子を歌っており、同アルバムのリリースツアーでも本編終盤に歌唱されていたものだ。そんな過去のライブとも繋がるコンテクストを感じ、改めて「小松未可子がステージに帰ってきた」ことが強く印象付けられた。

 音抜けのいい楽曲を立て続けに披露した後は、落ち着いたクラブジャズテイストのナンバーへ。アッパーチューンを立て続けに披露してきただけに、このタイミングで演奏の熱量を落とし、繊細な音の粒感を奏でるのは至難かと思われる。しかし、ステージのメンバーの表情からは、穏やかなセッションを楽しむ様子が伺えた。

 このブロックでは恋愛の切なさを歌う楽曲が披露された。しかし、サウンドの輪郭や、歌声にファルセットと地声を用いる比率など、それぞれの方向性は大きく異なっている。また、ジャズワルツ的なアプローチの「Maybe the next waltz」では、小松の良さである透き通ったロングトーンが、3拍子の変則的なトラックの上で響きわたる。楽曲間の振れ幅が大きいため、本来ならば歌い分けがとても難しいはずだが、小松の歌声からはブレは感じられず、むしろ一本芯を通したようなまっすぐさが感じられた。

 たしかに、彼女は様々な役柄を演じ分ける声優だが、なぜここまで安定したシンガーとしての能力を開花できたのか。そのヒントは、『Personal Terminal』リリースに伴い行った小松と田淵の対談インタビューの中に見つかった(参考:小松未可子×田淵智也(Q-MHz)特別対談 “ポップスシンガー”としての充実を支えるチームワーク)。同対談で田淵は、小松のプロデュースについて「僕らが最初にやったのは、歌のキャラクターに統一感を出すことで、それはつまり“とにかく癖をなくしていく作業”だった」と振り返っている。彼女の歌声に均整を与え、音楽的な統一感を備えることで、卓越したシンガーに足る、安定した表現技術を築き上げたのだろう。このブロックには、その成果が如実に表れていた。小松未可子は、ポップスシンガーとしての力量が問われる時期を乗り越え、今ではその力量が発揮されるライブパフォーマンスが魅力の一つになっている。

 そして遂に、『Personal Terminal』の1曲目である「Restart signal」が演奏された。その前のMCで小松が語った「色々なライブを通して思うんですけれど、自分の歌ったものが皆さんに届いて、(それが)さらに自分にも帰ってくる“手紙”のような楽曲がすごく多い」との言葉が印象深く残る。彼女が音楽に乗せた純粋な想いは、作品やステージを通じて多くのファンに届き、時を経て自身の創作活動へと還元されるのかもしれない。

 本編終盤はフロアアンセム的な楽曲で会場を盛り上げ、アンコールではステージを縦横無尽に駆け抜けるなどエネルギッシュにライブを締めくくった。

 アンコールのMCでは、自身の誕生月である11月に開催するイベント『ハピこし!ライブ2018 ~30 years, 30 songs~』にも触れ、「懐かしいあの曲もやっちゃうかも!」とファンを喜ばせる一幕も。彼女のナチュラルな側面を提示する『Personal Terminal』を経たおかげか、この日のステージにも自然体で臨んでいた小松未可子。彼女とQ-MHzの織りなす、彩りに満ちた幸福な音楽を「もっと聴いていたい」と素直に思わされた一夜だった。(青木皓太)

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