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『第三夫人と髪飾り』監督が語る、ショッキングな題材にある普遍性 「21世紀の今も起きている」

リアルサウンド

19/10/12(土) 10:00

 ベトナムの女性監督アッシュ・メイフェアのデビュー作『第三夫人と髪飾り』が、10月11日より公開中だ。メイフェア監督の曾祖母の実話をもとにした本作は、美しいベトナムの山間を舞台に、その地を治める大地主の第三夫人として14歳で嫁いでくる主人公メイと、彼女を取り巻く愛憎、哀しみ、希望を、美しく官能的に描いたドラマ。

参考:場面写真はこちらから

 「14歳の第三夫人」というショッキングな題材を取り扱い、父権社会を生きる女性の複雑な感情を掬い上げるストーリーはどのように作られたのか。メイフェア監督に、ベトナム独特の風土や初来日の感想、多様性への関心が強まる現状についてまで話を聞いた。

「普遍的な作品になると確信していました」

ーー来日は初めてですか?

アッシュ・メイフェア監督(以下、メイフェア):2回目です。幼い頃から、日本の漫画や映画、本に触れて育ってきたのでとても嬉しいです。本作を作っているときは、溝口健二監督や河瀬直美監督の作品を観直しました。日本の映画監督は、アジアの映画監督、特にベトナムの若い監督には大きな影響を与えているんです。

ーー長編デビュー作である本作に、5年もの歳月を費やしています。長期間の作業への焦りはありましたか?

メイフェア:焦りや不安はなかったです。脚本を書いている時から、出来上がる予感がありました。私や、私の家族の話が元になっている本作ですが、この脚本を読んでくれた人たちみんなが共感して、自分たちの母親や祖母、あるいは自分の周りにいる女性がした経験を話してくれたんです。だから、本作が普遍的な作品になると確信していました。

ーー映像からは、監督独自の強い美意識が感じられます。

メイフェア:私はフレームに入る全ての部分にこだわるんです。演技やキャラクターはもちろん、音、編集、ライティング、色合い……全てが1つになって初めて映画になると考えています。撮影には、2カ月以上かけました。

ーー本作は、台詞の少なさも特徴的ですが、キャストにはどのような演技指導を?

メイフェア:私は映像を中心に考えているから、非常に短い脚本になりました。役者の方、特に若い方たちには即興での演技も多くお願いしました。現場でその役を生きてもらい、その姿を撮影監督と一緒に観察して、意味のある部分を取り入れて本編に用いるという手法をとっています。

ーー美術監督として、トラン・アン・ユン監督が参加するきっかけは?

メイフェア:撮影の3年前に、ユン監督の撮影の授業を履修していて、そこで知り合いました。その授業では、監督として「何が真実なのか」「何が美しいのか」ということを常に念頭に置いて、決断することを学びました。未だにこの2つの質問の答えを、私は持ち合わせていません。映画監督としてのキャリアを通じて追求していくものだと思っています。映画は、2つのイメージをつなげるもので、どのように、どんなテンポで繋げるのか意識することが真実・美しさに至る道だと考えています。

ーー本作では、19世紀の北ベトナムを舞台に男性社会で抑圧されている女性たちの姿が描かれています。現在においても、女性への抑圧はあると感じますか?

メイフェア:残念なことに、いまだに存在していることです。若い女の子がお見合いで強制的に結婚させられるケースは今でも多くあります。この映画は17以上の映画祭で上映されたんですが、必ず女性の観客が話しかけてきてくれて。「私も同じことを経験しました」「私の母が第三夫人でした」、あるいは「私のおばあちゃんが無理やり親に結婚させられました」と言うんですね。この映画は19世紀の話ですが、21世紀の今も起きているんです。映画業界を見ても、明らかに女性監督が少ないですよね。これも悲劇だと思います。女性視点で語られるべきストーリーがたくさんありますが、実際には語られていない。

ーー一方、#MeToo運動やフェミニズムが盛り上がり、性差を無くす動きも徐々に起きています。

メイフェア:非常にポジティブなことだと考えています。この映画を編集しているときフランスにいたんですが、#MeToo運動があっという間に広がっていくのをダイレクトに感じました。まだまだやるべきことはあると思うんです。映画業界に限らず、色んな場所で女性がもっと前に出て行くべき、対等に扱われるべきです。未だに、母であることと仕事をすることを選ばなければいけないということがありますが、この映画、そして自分の人生がそういった人たちの力になれば嬉しいです。

ーー本作からは、緊張感を維持しながらも、風景がとても美しくリラックスさせる効果もあるように思います。この、緊張感とリラックスした要素という対比は意識的でしたか?

メイフェア:面白いことに、見た人の反応が、怖かったという人と、風景が美しくてうっとりしたという人の2つに極端に分かれるんです。緊張感は意識していました。登場人物たちが感じている恐怖や苦しみというものは非常に大きいと思うんです。特に主人公は、感情的な意味でも肉体的な意味でも非常に大きなチャレンジをする。恐怖や痛みというものは、みんなが共感できるもの、普遍的に人間に備わったものだと私は考えています。一方で、恋に落ちるといったポジティブな感情も、この映画を通じて描かれています。そういった、それぞれの要素が散りばめられて配置されていると言えます。

ーー日本の鑑賞者へのメッセージを。

メイフェア:私の長編1作目が日本で劇場公開されることを本当に感謝しています。日本というのは本当に素晴らしい小説家、アーティスト、映画監督たちが生まれた場所です。昨日、東京の街を歩いたんですが、ここを村上春樹が、谷崎潤一郎が、川端康成が歩いた道なんだと思いながら、本屋やカフェを眺めて、とても謙虚な気持ちになりました。この映画は、おそらくみんなが持っている感情を描いていますし、私のメッセージはとてもシンプルで、「人はあなたの声を聞いている」ということです。私のようなアーティストが今までの女性の苦労、歴史的な抑圧を描こうとしているから、あなたが1人じゃないということが伝えられればと思います。

(取材・文・写真=島田怜於)

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