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『エール』の魅力は多種多様なキャストの妙演にあり!? 朝ドラ近作の傾向から探る

リアルサウンド

20/6/14(日) 6:00

 まもなく『エール』(NHK総合)が折り返し地点を迎える。先週放送の第11週「家族のうた」では、裕一(窪田正孝)が音(二階堂ふみ)と愛娘の華と共に2年ぶりに福島に凱旋し、懐かしい顔ぶれとの再会を喜んだ。長らく裕一の心にあった生家の古山家や、養子縁組を撥ねつけ飛び出した権藤家へのわだかまりが解け安堵する裕一だったが、最愛の父・三郎(唐沢寿明)が他界してしまうのだった。

参考:朝ドラ『エール』第56話では、音(二階堂ふみ)の前に父・安隆(光石研)が現れて……

 悲喜こもごも、様々な人間模様が交錯する第11週だったが、裕一が作曲した校歌を歌う子どもたちの声が響く中、恩師・藤堂先生(森山直太朗)に恩返しができたことをしみじみ噛み締める裕一の表情が印象的だった。その後、古山家で催された宴会では懐かしの川俣銀行の面々……落合(相島一之)、鈴木(松尾諭)、松坂(望月歩)との会話に花が咲き、蓄音機から流れる裕一のヒット曲「船頭可愛いや」に“福島オールキャスト”が耳を傾けるシーンは、折り返しを前にした「福島編」の集大成といった感があった。こうした沢山の登場人物が画面を彩るシーンは『エール』の魅力のひとつだ。物語が戦争編へ突入する直前にスピンオフが展開する12週では、音の父・安隆(光石研)があの世で出会う閻魔様役の橋本じゅん、喫茶・バンブーの保(野間口徹)にコーヒーのいろはを教えた神田のマスター・木下役の井上順、環(柴咲コウ)の恋人・嗣人役の金子ノブアキなど、新たなキャストの参入でまたもや賑やかになりそうだ。

 現在、朝ドラはNHK東京放送局と大阪放送局が半年ごとに交代で制作しているが、こうした「キャストの多さ」は近年の東京制作朝ドラの持ち味のひとつと言える。少人数の会話と心理にグッとフォーカスしてじっくり台詞を聞かせるシーンの多い大阪制作の朝ドラに対し、東京制作の朝ドラはくるくると変わる場面転換とキャストの入れ替わりで見せる楽しさがある。もちろん、どちらが良くてどちらが悪いということではない。それぞれの作劇のカラーと、それぞれの視聴者ニーズがあるという話である。

 試しに直近4作の朝ドラ、『まんぷく』(2018年・大阪制作)、『なつぞら』(2019年・東京制作)、『スカーレット』(2019年・大阪制作)、『エール』(2020年・東京制作)の12週までのレギュラーキャストとゲストキャストを数えてみた。キャストのカテゴライズについて、本稿では「3週以上にわたり出演すること」「子役は数に入れず本役のみをカウント」という条件をもってレギュラーキャストの定義とし、「フルネームの役名がある」もしくは「クレジットの際、並びでない単独表記」をゲストキャストの定義とした。

 『まんぷく』で萬平(長谷川博己)が脱税の嫌疑をかけられ3度目の逮捕の憂き目にあう12週までは、14人の「塩軍団」を含めてもレギュラーキャストは31人。ゲストキャストは6人だった。

 続く朝ドラ100作目の『なつぞら』。生き別れになった妹・千遥を探すも見つからず「いつか千遥に見てもらうために」となつ(広瀬すず)がアニメ作りへの思いを新たにする12週までの出演者は、レギュラーキャストが48人、ゲストキャストが5人だった。

 ひとつ前の作品『スカーレット』では、喜美子(戸田恵梨香)と八郎(松下洸平)が結婚し新たな家族を作る12週までのレギュラーキャストは27人、ゲストキャストは6人だった。

 そして『エール』。3つのスピンオフが展開する12週「アナザーストーリー」までの出演者は、レギュラーキャストが31人、ゲストキャストが25人と、やはり東京制作の朝ドラはキャストが多いことがわかる。

 半年間という長い放送期間の朝ドラは、いかに視聴者を飽きさせないかが肝要。近年の東京制作の朝ドラは、大人数の華やかなキャストと万華鏡のように場面が変わるレビューショー的エンタメ要素が魅力のひとつと言って間違いないだろう。こうした「東京スタイル」は、朝ドラを初めて見る視聴者や小さな子ども、そして初回から見られず途中参加の視聴者にも「なんか賑やかで楽しそうだぞ」という親しみやすさと、すぐにその世界観に入り込める「とっつきやすさ」を与えているのではないだろうか。「次はどんな新キャストがくるのか」というワクワク感、朝ドラだからこそ実現できる、大勢で盛り上げる「お祭り感」も一興だ。

 「長いご贔屓のお客さんを大切にすること」と「新たな顧客の開拓」はどちらも大切で、とりわけ東京制作の朝ドラは後者において大きく貢献しているように思える。100作の節目を経て、今後ますます新たな進化を遂げていくであろう朝ドラ。東京制作の作品のセールスポイントである「多種多様なキャストの妙演」に着目してみるのも、『エール』を楽しむツボと言えるかもしれない。

■野田一
主にドラマ・映画・昭和カルチャーなどについて書いているライター。朝ドラ最古の記憶は『雲のじゅうたん』。

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