Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

樋口尚文 銀幕の個性派たち

堀内正美、撮影所を揺籃にせし貴公子(インタビュー前篇)

毎月連載

第34回

19/10/10(木)


今回、ご登場いただくのは『葬式の名人』にも出演されている堀内正美さん。その貴重なインタビューを前・中・後篇の特別編としてお送りします。






—— 堀内さんはお父様が映画監督の堀内甲さんですが、お母さまも伝説的な美人さんだったそうですね。

豪徳寺に住む母子家庭の娘だったんですが、町の評判になっていたそうで東宝から女優になってはどうかと誘われたんです。でも全く興味がなくてお断りしたら、それなら東宝撮影所の所長の秘書になりませんかと(笑)提案されたそうです。


—— そこでお父上に出会ったんですね。

ええ、昭和22年ごろのことです。それで助監督たちがみんなちょっかい出してくるのに、唯一知らん顔してたのが父で、そこに母が逆に惹かれたらしいんですが、実は当時父はそれどころではなかったんですね。『わが青春に悔なし』『素晴らしき日曜日』に助監督としてついていたので。


—— お父様は黒澤(明)組についていたんですね!

今はなくなった撮影所の噴水のところでせっせとカチンコを打つ練習をしていたら黒澤さんに「カチンコは大事なんだよ」と誘われたんだそうです。それで信頼に応えようと、普通の家庭のセットを撮影する時に「黒澤さんだから、画面には映らない箪笥の中にまで服を入れて気合を見せよう」とは思ったらしいですが、適当に仕込んでおいたら、黒澤さんがそれを見て「これは誰が着る服なんだい」と聞いてくるので(笑)縮み上がったらしいです。


—— 堀内家は東宝撮影所の近くだったのですか。

ええ、成瀬巳喜男監督や早坂文雄さんがご近所で、今井正作品で有名なカメラマンの中尾駿一郎さんと結髪の中尾さかゑさんご夫妻は訳あってうちと同じ敷地にお宅があった。中尾さかゑさんは東宝の結髪のトップだから高名な女優さんでないと担当してもらえないんですよ。そんな女優さんたちが時々中尾さんのお宅にプライベートで遊びに来ていたんですが、僕もマーちゃんマーちゃんってそこへ呼ばれて、見たこともない舶来のお菓子をいただいたりしてた。そこで原節子さんにもお会いしました。


—— 東宝撮影所も庭のような感じだったのですか。

撮影所は遊び場でしたね。中尾さんの結髪の部屋はそんなわけで認められた方しか出入りできなかったのに、僕はそんなこと知らないで小さな頃からあがりこんでいた。そこで女優さんたちの素顔を見て、それがメイクできれいになって、ステージで照明が当たるとさらに別物になって……という裏側のプロセスをずっと見ていたものだから、全く映画へのあこがれはなかったんです。だから俳優になる気もなくて、ずっと裏方志望でしたね。父からも映画でいちばん大事なのは技があるスタッフなのだから、俳優になった時は台詞より先にスタッフの名前を全員覚えろと言われました。


『葬式の名人』(C)“The Master of Funerals” Film Partners

—— しかしその後で堀内さんはなぜか映画ではなく演劇のスタッフをなさっていた。

祖師ヶ谷大蔵の駅前に映画館があって、そこで最初に観た映画がアラカン(嵐寛寿郎)さんの『明治天皇と日露大戦争』で(笑)、その後は東宝の特撮映画や黒澤映画が好きになって……やっぱり観客としても映画は大好きだったんですけど、ちょうど僕が青年になった頃は学生運動の季節だったので、父には猛烈に反発してたんですよ。父は家庭内帝国主義だから粉砕すべしと(笑)。それで断固父と同じ映画の世界には行かないと決めましてね。


—— でもお優しいお父さんなんですよね。

そうなんです。ただ父が僕のために映画を撮っていた、というのも嫌だったんです。どういうことかと言えば、父は1951年にレッドパージで東宝を追われて、新藤兼人さんの近代映協で『原爆の子』や『縮図』といった映画の助監督をやっていた。そこで当時映画を量産していた東映から誰か監督はいないかと新藤さんに相談があって、父が大川博さんに「フランスでラモリスが撮っているような親子揃って観られる児童映画を撮りたい」と進言したら「それならやればいいじゃないか」と東映教育映画部が出来たそうなんです。


—— それはまた太っ腹な裏話ですね。

そこで父は『オルガン物語』(1956年)や『六人姉妹』(1959年)といった教育映画を監督することになるんですが、その時からずっと父は僕に全部脚本を読ませて意見を聞いたり、学校生活からヒントを得ようといろいろ取材するようになったんです。そしてそういう教育映画、児童映画を学校で観せられると、やっぱりみんなそんな啓蒙的なぬるい映画はつまらないじゃいですか。それを堀内のオヤジが作っているというのがばれるのが、また嫌で。


—— なるほど。でも学芸会などで演技をやったりしたこともないのですか。

なんと先生が「堀内くんは監督さんの子どもだから演出できるよね」って言って、俳優はやらせてくれないんですよ(笑)。でもおかしかったのは、成瀬巳喜男作品の美術を手がけた中古智さんの娘が同級生だったので、なんと学芸会のセットを中古さんが作っちゃうんですよ。それはもう凄い美術だったなあ(笑)。(つづく)




インタビュー&撮影:樋口尚文

最新出演作品

『葬式の名人』(C)“The Master of Funerals” Film Partners

『葬式の名人』
2019年9月20日公開 配給:ティ・ジョイ
監督:樋口尚文 原作:川端康成
脚本:大野裕之
出演:前田敦子/高良健吾/白洲迅/尾上寛之/中西美帆/奥野瑛太/佐藤都輝子/樋井明日香/中江有里/大島葉子/佐伯日菜子/阿比留照太/桂雀々/堀内正美/和泉ちぬ/福本清三/中島貞夫/栗塚旭/有馬稲子



プロフィール

樋口 尚文(ひぐち・なおふみ)

1962年生まれ。映画評論家/映画監督。著書に『大島渚のすべて』『黒澤明の映画術』『実相寺昭雄 才気の伽藍』『グッドモーニング、ゴジラ 監督本多猪四郎と撮影所の時代』『「砂の器」と「日本沈没」70年代日本の超大作映画』『ロマンポルノと実録やくざ映画』『「昭和」の子役 もうひとつの日本映画史』『有馬稲子 わが愛と残酷の映画史』『映画のキャッチコピー学』ほか。監督作に『インターミッション』、新作『葬式の名人』が9/20(金)に全国ロードショー。

新着エッセイ

新着クリエイター人生

水先案内

アプリで読む