Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

フジファブリック、宮本浩次、池田エライザ……アーティストらによるカバーの魅力 これまでの名曲アレンジを振り返る

リアルサウンド

19/12/22(日) 8:00

 出演アーティストが印象深い昭和の名曲をアレンジして届ける、音楽番組『The Covers』(NHK-BSプレミアム)。12月22日22時50分からはそのスペシャルとして、番組主催のライブイベント『The Covers’Fes.2019』(12月5日に東京・NHKホールで開催)の模様がオンエアされる。

(関連:V.A『CHATMONCHY Tribute ~My CHATMONCHY~』ダイジェスト映像

 フジファブリック、宮本浩次(エレファントカシマシ)、GLIM SPANKY、田島貴男(ORIGINAL LOVE)、中山美穂、浜崎貴司(FLYING KIDS)、スターダスト☆レビューらがカバー曲や自身のオリジナル曲を披露する『The Covers’Fes.2019』。この放送を機に、今回の出演アーティストによる過去のカバーをいくつか振り返りつつ、カバー曲の魅力をあらためて考察してみようと思う。

 まずは、フジファブリック。「若者のすべて」「茜色の夕日」など、どちらかと言えば自身の楽曲をカバーされることがとても多いため、“する側”のイメージはないかもしれないが、2015年にも『The Covers』へ出演(竹内まりや「純愛ラプソディ」と小沢健二「ぼくらが旅に出る理由」をカバー)したりと、しばしば他アーティストのカバーを試みている。彼らの場合、オリジナルの歌メロにはほぼ手を加えず、バンドの持ち味のひとつであるアンサンブルの妙で料理するのが得意なように映る。

 2018年にリリースされたチャットモンチーのトリビュートアルバム『CHATMONCHY Tribute ~My CHATMONCHY~』では、「きらきらひかれ」をカバー。原曲の疾走感あふれるロックビートをまろやかに変換しつつ、金澤ダイスケのキーボードを中心に奥深いスペーシーなアレンジを施しているのがフジファブリックらしい。山内総一郎のまっすぐな歌声は女性ボーカルや歌謡曲との相性もよく、楽曲の持つ温かみと懐かしさを際立たせる魅力がある。

 2007年発表のUNICORNのトリビュートアルバム『ユニコーン・トリビュート』では、志村正彦のボーカルで「開店休業」をカバー。こちらは憧れのUNICORNへのリスペクトゆえか度肝を抜く解釈こそないものの、コーラスを含めて音色の微細な変化があったり、力の抜けたボーカルやリズムで味を出したりと、彼ら特有の変態性がじわっと感じられる演奏となっている。いずれにしても、情緒豊かなカバーでオリジナルを引き立たせることができるのがフジファブリックの凄みと言えよう。

 続いては、破天荒なパフォーマンスによって視聴者を楽しませてくれるという点で、近頃『ミュージックステーション』(テレビ朝日系)、『うたコン』(NHK総合)ほか、生放送の音楽番組で重宝されているエレファントカシマシ(以下、エレカシ)の宮本浩次。2019年はソロプロジェクトを始動させ、デビューを飾った「冬の花」では、女性目線の歌詞とドラマティックなメロディが光る“歌謡曲”でリスナーを驚かせたのも記憶に新しい。エレカシで荒井由実の「翳りゆく部屋」をカバー(アルバム『STARTING OVER』などに収録)していたことからもわかるとおり、宮本は昭和の流行歌や歌謡曲への思い入れが強く、『The Covers』にもたびたび出演。圧倒的な歌唱力を見せつけてきた。

 たとえば、宮本が中学生の頃に大好きだった松田聖子「赤いスイートピー」のカバーは鳥肌が立つ、度肝を抜かれるといった形容がふさわしい仕上がり。おそらく楽曲を自分のものにするまで何度も何度も歌い重ねたであろう、まさに新たな息吹を吹き込んだカバーとなっていて、彼ならではの情熱的な歌いっぷりに“こんなに最高なカバー、聴いたことない!”と感動させられてしまう。女性ボーカルのカバーにも果敢に原曲キーで挑むため、宮本の歌の上手さ、声域の広さにまず耳が行くのだけれど、原曲への敬意の払い方がとにかく尋常じゃないので、自然とオリジナルに導かれる人が多いのではないだろうか。

 ちなみに、「赤いスイートピー」の作曲もユーミン(ペンネームの呉田軽穂名義)であることから、宮本にとって彼女は尊敬してやまないメロディメイカーなのだとも思う。そんな流れを踏まえて、ソフトバンクのCMでオンエア中の「恋人がサンタクロース」を聴くのも一興かもしれない。

 そして、リリー・フランキーと共に『The Covers』のMCを務める池田エライザも新世代のカバーシンガーとして動向が気になるところ。米津玄師の「fogbound」に歌唱参加(アルバム『BOOTLEG』に収録)したり、同番組で歌のパフォーマンスを披露したりしているだけに、来年以降に歌手デビューする可能性も十分考えられる。

 これまで『The Covers』では、青江三奈「恍惚のブルース」や久保田早紀「異邦人」など、意外な大人っぽい昭和歌謡カバーを披露。色気と陰りを感じさせるしっとりした低い歌声に、オリジナル曲を知るミドル~シニア世代は骨抜きにされただろうし、ティーン世代は彼女の新たな一面にワクワクさせられたに違いない。若者を中心に人気を誇る女優/モデルの池田エライザが、自分が生まれる前の名曲をこんなふうに味わい深く聴かせてくれるのはとても刺激的で、波及力も抜群なので、今後も歌い続けてほしいと切に願う。

 サザンオールスターズ、松任谷由実、山下達郎、細野晴臣らの動きが世を賑わせているとおり、古きよき時代の音楽の再評価が著しい昨今。昭和生まれの世代ならまだしも、当時を知りえない平成生まれのリスナーにとって、それらは聴いたことのない、とても新鮮に感じられる音楽であり、現代のJ-ROCKやネット発の楽曲とはかなり性質が異なるものと言ってもいいかもしれない。本稿で主に取り上げた、即効性の強さではなくじんわりと沁み込むような味わいが魅力の名曲に時を超えて出会わせる――カバーの意義はそこにある気がする。

 また、サブスクの旺盛で多くの音楽が聴き放題にはなったものの、もともと好きな曲ばかりをリピートしてしまいがちな状況も生まれている。だからこそ、アーティストが指南役となって多くの名曲と出会う機会をくれるのは貴重だとも思う。(田山雄士)

新着エッセイ

新着クリエイター人生

水先案内

アプリで読む