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太田和彦の 新・シネマ大吟醸

『蜘蛛の街』『紅の流れ星』、国立映画アーカイブ「木村威夫特集」で観た2本

毎月連載

第6回

18/12/1(土)

『蜘蛛の街』 ©KADOKAWA1950

鈴木英夫監督のシャープな映画性が生きた『蜘蛛の街』

国立映画アーカイブ「生誕100年 映画美術監督 木村威夫」特集の一本。

伊福部昭のゴジラ風音楽が盛大にかぶり、出頭する車から某局長が拉致される。事件を報じる朝日新聞社の街頭放送から本編へ。局長に証言されては困る首謀者・三島雅夫は、失業してサンドイッチマンで流す宇野重吉が、局長にそっくりなのに目をつけ、変装して多摩川あたりを歩き回る仕事を頼み、目撃者を作っておいて、自殺にみえるよう工作した。宇野は新聞で、自分に似る男の死体写真を見て利用されたと知る。三島は口封じに宇野を看視させ、暴走した手下は宇野を殺そうと追いつめる。

この作品は昭和25年であることに注目したい。戦後間もない映画作りに豪華セットなど望むべくもなく外に出たキャメラは、否応なく当時の風景や生活感を写し、ロッセリーニやデ・シーカの「イタリアン・リアリズム」と同じ映画的世界を作っている。戦後数年の映画の貴重さと特異性はそこにある。そのうえでのサスペンス作品で、ここで鈴木英夫のシャープな映画性が生きている。建ち始めた団地や、職安の行列、新橋あたりのガード、戦後風俗の中の宇野重吉、中北千枝子がいい。

『日本映画監督全集』(キネマ旬報社)の鈴木英夫の項は、珍しく木村威夫の執筆で〈第二作「蜘蛛の町」は高岩肇の好脚本を得ての、宇野重吉、中北千枝子の小市民の生活の上に知らぬ間に不幸がしのび込む、リアリティのある恐怖劇であった。筆者は美術監督としてこの作品で初めて彼と組み、演出家としての純粋さに敬服した。〉と書いている。

鈴木英夫ファンは多く、研究会もあると聞くが、上映機会のなかったこの第二作は満員だ。来ていた知り合い女性は「うなる鈴木節よね」と喝破。私は田中重雄を追いかけて見ているが、鈴木は田中に師事したと知って、なんとなく納得だ。十六本を見た鈴木作品でベスト5は『非情都市』『旅愁の都』『その場所に女ありて』『黒い画集第二話 寒流』『脱獄囚』。『花の慕情』『燈台』も捨てがたく、『暁の合唱』をぜひ見たい。蛇足だが、いつからか鈴木作品には「砂利置き場」がよく登場すると気づき、今回も出てくる。

  『紅の流れ星』

日活無国籍アクションの荒唐無稽がスタイリッシュに集約された舛田利雄監督、渡哲也主演『紅の流れ星』

東京の高速でかるーく一発、頼まれ仕事で敵の親分を撃った渡哲也は、神戸に高飛びして組に身を隠すが退屈でたまらなく、波止場埠頭の揺り椅子でファンキーハットを顔にのせ、毎日昼寝だ。

今日は組の広い空き部屋で寝ていると浅丘ルリ子が訪ねてくる。
 
 「どなたかいらっしゃいませんか」
 「誰もいねえよ」
 「そちらさまは?」
 「知らねえよ」

哲也が被るハットのつばに空けた小穴からのぞいたのは、青いドレスに身を包んだ水も滴る美女(穴形に丸くトリミングした画面で、すらりとした脚から顔までゆっくりパンアップ)。こいつはイカスとハットをはずし「何か用かい」と応じる。彼女は、哲也が先日殴り飛ばした公金横領で逃げてきた山田真二の婚約者で、彼を探しに東京から来たのだった。一目ぼれした哲也は探すのを手伝うよと言いながら何かと彼女を口説くが、気位高いルリ子は相手にしない。そのうち哲也は味方からも命を狙われるようになり……。

という物語はさておき、役名「五郎」哲也のとっぽい魅力!組のクラブの内部屋で、山田真二に「あなたのような人たちとはかかわりたくない」と言われて頭に来て、いきなりぶっ飛ばすが(山田真二かわいそう)仲に入られて止め、フンとばかりハットで顔を隠した棒立ち腕だらりで肩だけかるく揺すってゴーゴーダンスに合わせて踊るカッコ良さ! キャメラがパンすると奥村チヨが「北国の青い空」を歌いながら猛烈なモンキーダンス中。しびれるなー。

ストイックな役の多い渡哲也がここでは一変。何ごとも投げやりだが、いい女には調子よい男を生き生きと演じる。ルリ子に、当時はやっていた荒木一郎の「いとしのマックス」を「♫オーレは好きなんだよ~」替え歌しながらまといつき「ねえ、やらせろよ」「下品ね」「男と女は好きになったらやるんだよ」「ものごとには順序があるでしょ」「ちぇ、だから女はめんどくせえんだ」の調子。

だが、ツンとお高くとまっていたルリ子は哲也に惹かれてしまい(ここがパターン映画のよいところ)、「あなたが好きよ」とホテルのベッドで脱ぎかける。しかしそのとき哲也は殺し屋・宍戸錠に消された弟分・杉良太郎の復讐に……。

哲也が口笛を吹く主題曲は、想いを込めてたびたび挿入される神戸の全景にフルートで冷え冷えと繰りかえされる。哲也の犯罪をかぎつけながら友情を感じ、むしろそれ以上罪をかさねさせないためにつきまとう刑事・藤竜也の二人をロングショットに置き、会話だけ聞こえるなど撮影は冴え渡り、美術・木村威夫の赤の差し色が画面をポップにする。

すべての仁侠映画のパターンが奇跡的に集約され、三島由紀夫に「あたかもギリシャ悲劇」と絶賛された『総長賭博』のごとく、日活無国籍アクションの荒唐無稽がスタイリッシュに集約されたこれは「あたかもアメリカンポップアート」。ジャン・ギャバンの名作『望郷』を借りて裕次郎で作った『赤い波止場』を、九年後に同監督で同じ神戸を舞台に、タッチを全く変えてリメイクした作品。あなたは絶対好きになる。

作品紹介

『蜘蛛の街』
国立映画アーカイブ
特集「生誕100年 映画美術監督 木村威夫」
(2018年11月6日~11月25日)で上映。

1950年(昭和25年)大映 77分
監督:鈴木英夫 原作:倉谷勇
脚本:高岩肇 撮影:渡辺公夫 音楽:伊福部昭
出演:宇野重吉/中北千枝子/三島雅夫/千石規子/根上淳/伊沢一郎/中條静雄/高品格
太田ひとこと:夫婦は音楽好きらしく、団地アパートにシューベルト、ベートーヴェンの肖像画がある。

『紅の流れ星』
国立映画アーカイブ
特集「生誕100年 映画美術監督 木村威夫」
(2018年11月6日~11月25日)で上映。

1967年(昭和42年)日活 97分
監督:舛田利雄 脚本:池上金男
撮影:高村倉太郎 音楽:鏑木創
出演:渡哲也/浅丘ルリ子/藤竜也/宍戸錠/杉良太郎/松尾嘉代/奥村チヨ/山田真二/深江章喜
太田ひとこと:クールなルリ子と対象的に、哲也が好きで好きでたまらず「捨てないで」と哀願する松尾嘉代が泣かせてダーイ好き♡

プロフィール

太田 和彦(おおた・かずひこ)

1946年北京生まれ。作家、グラフィックデザイナー、居酒屋探訪家。大学卒業後、資生堂のアートディレクターに。その後独立し、「アマゾンデザイン」を設立。資生堂在籍時より居酒屋巡りに目覚め、居酒屋関連の著書を多数手掛ける。

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