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コントの神様・志村けんが残したもの 第5回 シソンヌじろう「志村さんとコントをした日(妄想)」

ナタリー

20/4/30(木) 12:30

日本を代表するコメディアン・志村けんが3月29日、70歳で他界した。あまりにも突然すぎる死は、芸能界はもちろん、お茶の間にとっても信じがたい出来事だった。一方で、各局が放送する追悼番組で大笑いした視聴者も少なくないだろう。本企画は、この世を去ってなお人々を笑わせ続ける志村けんが現在活躍する若手芸人たちにどんな影響を与えてきたのか紐解くもの。最終回となる本稿にはシソンヌじろうの文章を掲載し、全5回の連載を締めくくる。

志村さんとコントをした日(妄想)

ぼーっと携帯でスケジュールを眺めていた。一切聞かされていない仕事が何カ月か先に入っていて一喜一憂できたりするから時間潰しにはもってこいの過ごし方だ。5月、6月とスライドさせ7月で手が止まる。

7月6日 だいじょうぶだぁ(仮)

だいじょうぶだぁ……? これって! ………だいじょうぶだぁ、だよな……。

(仮)の文字が外れたのは6月末。吉本主催のバーベキュー大会のMCの仕事が先に僕たちのスケジュールを押さえていてなかなか譲ってくれなかったからだ。滅多に声を荒げることがない僕は担当の社員に掴みかかりこう叫んだ。
「だいじょうぶだぁなんです!」
MCは僕らからライスさんに変わった。

収録2日前に台本が届いた。封筒から台本を出し、表紙のだいじょうぶだぁの文字を見た瞬間、あのオープニング映像のようにだいじょうぶだぁが踊り出した。志村さんとご一緒させて頂けるコントは1本。僕らの持ちネタで、自転車屋にパンクを直しにきた少年(のぼる)が店員の長谷川さんに執拗に「おつんつん見すて」とせがむ「自転車屋」というコントがある。志村さんはそれをどこかで見て下さっていたらしく、もしよかったら、と僕らに声をかけて下さったらしい。台本には、

長谷川板付き
長谷川「あ~、暇だな~」

としか書かれていなかった。ありとあらゆる毛穴から汗なのかなんなのかわからない汁がじゅんっと出るのを感じた。やっとここまできたんだ。そう口に出した気がする。

そしてついにその日がやってきた。気を抜くと志村さんが一体どんなことをしてくるのか、そればかり考えてしまった。その度に、そういうことじゃないんだ!と自分に言い聞かせた。何かをしようとするのではなく、のぼる少年でその場に居ればいい。そこにきっと志村さんが何かで現れる。その空間に長谷川さんと3人で居ればいい。

気が付いたとき、コントは既に撮り終わっていた。

信じられないかもしれないが、記憶が全くないのだ。僕はのぼるになりきっていた。
いや、僕じゃない、のぼるがそこに居たんだと思う。志村さんの姿は既にその場にはなかった。カメラさんに撮り終えたコントを見せてもらった。

のぼる「ねぇねぇねぇ!」
長谷川「なに?」
のぼる「おつんつん見すて……」
長谷川「見せないよ」
のぼる「おつんつん見すて!」
長谷川「見せない!」
のぼる「おつんつん見すて~!」
長谷川「見せない!」
   サドル裏からスッと顔を出し、
おじさん「おつんつんは、いいよな~」

そこにはのぼる少年と長谷川さんと、そしていいよなおじさんが居た。

志村さん。一緒にコントがしてみたかったです。
向こうではご一緒させて下さい。

じろう

1978年7月14日生まれ、青森県出身。2006年に長谷川忍とコンビ結成。「キングオブコント2014」王者。2013年から単独ライブ「シソンヌライブ」を毎年開催し、「モノクロ」と題した公演では全国47都道府県をコント行脚している。俳優としては、ドラマ「今日から俺は!!」(日本テレビ系)、「西郷どん」(NHK総合)などに出演。ドラマ「卒業バカメンタリー」「寝ないの?小山内三兄弟」シリーズ(共に日本テレビ)や映画「美人が婚活してみたら」「甘いお酒でうがい」といった作品では脚本を担当し、執筆業も多数。

寄稿 / じろう イラスト / 矢部太郎

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