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舐達麻は、なぜヘッズ以外からも注目される? ラップスタイル&サウンド面から魅力を考察

リアルサウンド

19/10/19(土) 7:00

 〈バール買いに行かせた今藤〉この異質な切り出し方をする舐達麻の「FLOATIN’」は2019年前半においてミーム化していたと言えよう。リリックで見え隠れする彼らの過去やライフスタイルがインタビュー等で明らかになり、裏付けが取れた”リアルさ”は舐達麻ブランドを確立した。硬派な魅力を持つキャラクターが広く知れ渡った『ニート東京』出演も、人気の強い後押しになったはずだ。「今最もリアルなラッパー」「MSCの再来」そう絶賛を集める彼らには、ハード面ばかりがフォーカスされる。一方、筆者はローファイヒップホップがヒットする近年のリスナーの耳にも、舐達麻のサウンドがハマったと推測する。

(関連:舐達麻『FLOATIN’』視聴はこちら

 特に最新作『GODBREATH BUDDHACESS』の10曲中7曲を提供しているGreen Assassin Dollar(以下、GAD)が影の立役者だ。彼のサウンドは過去作を含め、ミステリアスな哀愁あるサンプリングに、レコードを感じさせる丸みあるノイズをのせている。それがマイナー調なメロディのビートを好む層も取り込むのではないか。しかしながら、GADの名前をローファイヒップホップの文脈で見ることは稀。おそらくその理由のひとつは低音だ。GADのビートは近年より低音の印象を強めたサウンドになっており、特に舐達麻の楽曲ではその傾向が強い。例えば冒頭にリリックを引用した「FLOATIN’」。これはローファイビートの祖として語られるNujabesも「Latitude Remix(feat.Five Deez)」でほぼ同じ曲を同じようにサンプリングしているが、聴き比べるとその違いが分かる。

 哀愁を帯びたビートに乗るラップというのは、軽快でメロディアスなラップが多かった。例を挙げればNujabesと縁の深いPase RockやSubstantial、Shing02であり、彼らのラップスタイルを遡ればA Tribe Called QuestやDE LA SOULがその系譜と言えよう。一方の舐達麻、特にG Plantsと賽(a.k.a. BADSAIKUSH)のようなドスの効いた低い声と、MSCを思わせる冷淡でもパンチ力のあるラップがローファイ系のメロウなビートに乗ることは、実は珍しい。筆者は90年代中盤のNYストリートラップでは似たスタイルが多い印象を持っていたのだが、色々と聴き返してみれば実際にはメロウというより不穏なサンプリングのブーンバップが多く、ラップもリズミカルなものが多い。強いて挙げるなら、その頃のNasだろうか。こうした舐達麻のオリジナリティが、耳触りの良さを求める者にも、ハードな渋さを求める者にもハマるのではないだろうか。 端的にいえば、ギャングスタラップなのに一聴するとメロウなのだ。

 では、相反する要素がセットになれば人気が出るのかといえば、そう一筋縄ではいかない。冒頭の繰り返しになるが、リアルであることの”裏付け”となるキャラクターと過去が舐達麻というブランドを仕上げている。キレイに刈り上げられた髪型に、ビッシリ入った和彫り。派手なシャツを肌の上に身に纏うだけの彼らの風貌は、いつ誰の目にもアウトローそのもの。そしてその感性を素のまま表現するかのようなリリックは、他のラッパーとは言葉遣いやリズムが違う。友を失った後悔と義理を滲ませる言葉からは哀愁を感じさせるが、彼らは決して湿っぽくならない。むしろ振り返り薄ら笑いを浮かべながら中指を立て、また歩み続けるようなその背中は、不良の気高さすら感じてしまう。(斎井直史)

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