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いま、最高の一本に出会える

世界の現実がここに。さいたまネクスト・シアター『朝のライラック』開幕

ぴあ

19/7/16(火) 12:30

さいたまネクスト・シアターの舞台『朝のライラック』が、彩の国さいたま芸術劇場 NINAGAWA STUDIO(大稽古場)で7月18日(木)に初日を迎える。蜷川幸雄が生前「次代を担う若手俳優の育成」を目的に立ち上げた同演劇集団は、現在〈世界最前線の演劇〉シリーズに取り組み、ヨルダンの劇作家ガンナーム・ガンナームが実話に着想を得て書き下ろした本作は、その第3弾となる。イスラーム国を名乗る武装組織の支配下で、芸術教師の若い夫婦に“妻を差し出さなければ夫を殺す”という命令が下るところから始まる緊迫したストーリーだ。理不尽さに憤りつつも、出口の見えない中でふたりは次第に追い詰められていく。演出は劇団俳優座の眞鍋卓嗣。2017年、ITI(国際演劇協会)日本センターで行われた同作のリーディング公演の演出も手がけた。

ITIリーディング公演より 撮影:石澤知絵子

眞鍋は言う。「リーディングの時は、私自身イスラム教の方の考え方や宗教について、何も知らない中でのスタートでした。今回もやればやるほど、すべてを観客に伝えるのは難しいと感じます。だから細かいことを理解してもらうというより、人間として何が大切なのか、これは何の葛藤なのかをしっかり打ち出すようにしました。セリフに詩的な要素があるので、リアリズムを追求してきた自分としては、最初はどう料理するか戸惑ったのですが、ネクスト・シアターはシェイクスピアなどリアリズムから離れたセリフをこなしてきているので、この作品に有効だと思いました」。

リーディング公演にはネクスト・シアターから内田健司と竪山隼太が出演していたが、今回はメンバー全員でオーディションをし、竪山は夫ドゥハー役から若き戦闘員フムード役にシフトしている。フムードは妻ライラクとドゥハーの監視役を命じられるが、かつて二人の教え子だったという過去を持つ複雑な役どころだ。

メンバーとは現実に起こっていることに対する共通認識を積み重ねるため、公開処刑の映像や、ISIS戦闘員の日常を追ったドキュメンタリーなどを見たという。「公開処刑の映像を、モザイク無しで見ました。現代でも、街中で、人を集めて行われているのが衝撃です。またドキュメンタリーでは我が子を愛情深く育てている父親が“子どもをたくさん作って、兵士として献上する”と豪語し、それが一番の正しい行いだと本当に信じている姿が映し出されていました。これは根深い問題だなと思いました。子どもたちを洗脳し、処刑人をさせるという事実も、僕の中で痛烈な痛みになっています。今回はフムードという役にそれが集約されていますが、逆に、都会で生まれ育った設定のライラクとドゥハーは、私たち日本人の感覚と変わらないし、イスラム教にとらわれない価値観さえ感じる。芸術教師という設定も含め、そこには作者ガンナームさん自身が反映されているように思います」。

日本では、政治的、社会問題を含んだ演劇がなかなか一般受けしない風潮がある。今回のような作品に敢えて挑戦する思いは、どこから生まれてくるのだろう。

演出の眞鍋卓嗣

「こういう演劇は、正直多くの人には観られていないと思います。でも、絶対に無くしてはいけない。それはみなさん、本当はわかっていると思うんです。今回は、俳優の皆がこの戯曲を通じ、イスラム社会のある人たちが陥っている過酷な状況をどこまでリアルに伝えられるか、必死で挑戦しています。登場人物一人ひとりの葛藤をひしひしと感じていただけるとうれしいです」

取材・文:仲野マリ

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