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大友良英は『いだてん』後編の“日本の近代化”をどう表現した? 劇伴により変化した音楽観も語る

リアルサウンド

19/7/26(金) 18:00

 大友良英が、3月6日にリリースした『大河ドラマ「いだてん」オリジナル・サウンドトラック 前編』『GEKIBAN 1 -大友良英サウンドトラックアーカイブス-』に続く、『大河ドラマ「いだてん」オリジナル・サウンドトラック 後編』『GEKIBAN 2~大友良英サウンドトラックアーカイブス~』を7月24日にリリースした。大河ドラマ『いだてん』は第二部に入り、さらに時代の変化や登場人物に寄り添った音楽が多数制作されている印象だ。前作リリース時からの続編となる今回のインタビューでは、『いだてん』後編を彩る楽曲群の制作背景はもちろん、『GEKIBAN 2』収録曲をきっかけにした音楽家・大友良英の変化についても聞いた。(編集部)

音楽的に時代の変化というフィクションを作って変えていった 

ーーサントラの第二弾は最初から構想が?

大友良英(以下、大友):第二弾は最初から。(ドラマが)前編・後編ってなってますから。前編と後編でまったく音楽は変えるつもりでやってたので。

ーーまず主人公が途中で代わるっていうのが異例だし、新主人公は前主人公とまったく性格が違うし、しかも前の主人公を否定するところから登場する。

大友:俺も本読んでびっくりですよ(笑)。「えっ? 全否定?」みたいな。だいたいのあらすじから想定はしてたけど、でもまさかの全否定だし、しかも前の主人公も出続けるしね。登場人物も、増えるけど基本同じ人もいるし。だから音楽は変化を強調する方向でガラッと変えました。

ーータームがすごく長いから登場人物も多いし、途中で消える人もいっぱいいる。

大友:そうなんですよね。しかも、さらにここから時代がどんどん、暗い方向に向かっていくから、戦争に突入してね。

ーークライマックスは1964年の東京オリンピックってことになるんですか。

大友:ごめん、言っちゃダメなんです(笑)。それで間違いじゃない……けど。

ーーけど?

大友:まぁ楽しみにしててくださいよ(笑)。あとは内緒。こればっかりは。筋に関わることだけは。

ーーわかりました(笑)。第一部と第二部で全然主人公が違う、キャラも違う、ドラマの雰囲気もガラッと変わってしまうわけですが。そこでどういうことを考えました?

大友:もちろんオープニングテーマとか変わんない音楽はあるし、同じドラマって一貫性も必要ですから。そのうえで、まったく雰囲気を変えなきゃって。舞台が朝日新聞社になって、それまでだいたい木造の建物か西洋の建物を真似した建築かどっちかだったのが、近代建築になる。出てる人もほぼ洋装になるんですよ。なので、もう最初から決めてたんだけど、前半はとにかく太鼓と単旋律で和音をつけない、あるけども和音を中心にしない。で、後半からガーンと和声が増えてくる。前半は、太鼓をみんなで叩くみたいな、やや野蛮な、土着な感じだったのが、後半に入ってシンバルワークがキレイに入ってきたりとか。

ーーそれはドラマのテーマのひとつである、日本の近代化に対応して。

大友:うん。それをもう、めちゃくちゃわかりやすく音楽でデフォルメした感じです。実際の明治と昭和の音楽がそんなふうに変わっていったわけじゃまったくないですけど、音楽的に時代の変化というフィクションを作って変えていった。だからここからどんどん和声的になっていくと思うし、クラシックのマーチみたいなものも、ヨハン・シュトラウスみたいにものすごく和声的になっていく。それまではもっと素朴な、スネアドラムと太鼓で軍楽隊みたいだったのがね。

ーードラマの流れや動きも、前半はすごくゆったりしてたけど、後半はすごくせわしないじゃないですか。主人公のキャラにも関係してくるけど。

大友:もちろん。せわしないのを押す音楽ももちろん作ったけど、同時にずっとせわしないのもナンだから。せわしないんだけどグッと引いてゆったり聴く音楽とかも必要で。そういうバランスで作っていったかな、後半は。

ーーこの取材の時点では第二部はまだ2回しか放映されてないんですが、第2回の人見絹枝さんの回はヤバかった。

大友:ヤラれたでしょう? もう俺、編集の段階でボロ泣きだもん。音楽付く前の段階で。

ーー人見役の菅原小春さん、本職はダンサーなんですが、すごく目力のある人で雰囲気もある。出てきた瞬間「只者じゃないな」って。

大友:「誰だろう?」って思いますよね。身体の動きも独特だし。やー、よくぞ見つけてきたって思います。

ーー画面で見て、実際の女優や俳優を想定して音楽を付けることはあるんですか。

大友:ありますよ。この中でいえば、はっきり菅原小春さんに合わせて作ったのが「闘う女子」っていう曲。もちろん前畑(秀子)とか、女子選手全部含めてなんだけども、でも主に人見絹枝演ずる菅原小春さんのイメージで作りました。あの強い感じ。撮影現場も見たし、映像が上がってきた段階で「これは凄いわ」って。「あ、こういう音楽作りたい」って強烈に思いました。小春さんのインタビューを見て思ったんだけど。あの人も海外でひとりでやってきた人でしょう。すっごい気持ちわかるんです。俺も海外でひとりでずっとやってきましたから。だから俺、金栗さんの気持ちもよくわかるんです。(初出場のストックホルムオリンピックの開会式で)「JAPAN」ってプラカードじゃなくて「NIPPON」って揚げたいって気持ち。オレは国粋主義者でもなんでもないけども、「Yoshihide Otomo」って言われただけで最初イラッときてしまって「いや俺大友良英だから」って。別に差別されてるわけじゃなくても、自分たちの文化が尊重されてない中で、ひとりで戦うって並のことじゃないですから。もちろん差別も強かった金栗さんの時代は俺の時代の比じゃないだろうけど、たぶん小春さんも同じような経験を海外でずっとしてきてるんだなって思うと、なおさら共感してしまうところ、あるんです。

ーーなるほど。

大友:俺の場合は差別ってよりステレオタイプで見られるのがすごい嫌だった。「日本のどんな伝統音楽に影響を受けましたか?」とか「禅の影響はあるか」ってすっごい聞かれて。禅なんかやったことないし。「日本人が全員禅やってると思ってるんですか?」って。「そのステレオタイプの見方はやめてください」ってほんとに思って、最初の頃は食ってかかってたもん。

ーーブラジルの音楽家が「ボサノヴァに影響されましたか」って全員聞かれるようなもの。

大友:そうそう。ブラジル人みんなイラッとするでしょう。おんなじおんなじ。僕らだって、たとえば黒人はリズム感がいいみたいなステレオタイプの見方してしまいがちでしょ。自分がやられて嫌だと思ったことは他の人にもしたくないもん。ただね、金栗さんの時代はどうしてもそういう見方もされるだろうし露骨な差別もある中で日本を背負うみたいな状態にさせられるわけだから、それは今では想像できないくらい辛かったと思うな。

ーー金栗さんも人見さんも、そういうプレッシャーと戦ってきた。

大友:そうだと思いますよ。海外の目もあるし、国内の目もある。金栗さんの場合は「なんでメダル取らなかったんだ」。でも人見さんの場合はその上に「女のくせに」が入ってくる。宮藤(官九郎)さんも、ディレクターの井上(剛)さんもその部分をものすごく繊細に丁寧に描いていると思います。僕が子供の頃にやってたオリンピックって、サッカーの女子も、マラソンの女子もなかった。変だなって思ったけど、そういうもんだとも思ってた。でもそのうちはっきり「これ、男女差別なんだ」って気づいてくるじゃない? 今さすがに(オリンピックでは)是正されてきたけど、でも日本の社会を考えると、今も明治大正のころと変わらない女性差別や人種差別がゴロゴロ残ってるでしょ。

ーードラマでは人見絹枝さんにスポットを当ててましたが、同じアムステルダム大会で男子の2選手が日本人初の金メダルをとっている。そっちにフォーカスを当ててもおかしくないんだけど、あえて人見さんにしたのは制作者の意思ですよね。

大友:そうだと思います。ドラマはほとんど実在の人物で構成しているのに、数少ない架空の人物である(増野)シマさんが必要だったかと言うと当時の女子スポーツと、女性の立場を描きたかったんじゃないかと思うんです。選挙権すらなく、好きにスポーツもできない……まぁ金栗さんの時代は一般の人の選挙権もなかったけど。後半の初回に第1回普通選挙の草案の話が出てくるんだけど、あれにまだ女性は入ってない。そんなことも背景に感じながらきっとみんな作ってるんだと思います。そういうことが共有できてるチームだと僕は思ってるので。

時代の香りみたいなものを持ってる方達に音をだしてほしかった 

ーー音楽の話に戻りましょう。今回すごくジャズ色が強くなってますね。

大友:そうですね。

ーー当時最先端の流行の音楽がジャズだったっていうこともある。

大友:あるけども、そのまんまの当時のジャズだと、デキシーランド・ジャズになっちゃって、今の人が聴いたらただ古いものに聴こえちゃう。なのでそこは嘘をついて、ビバップ以降のジャズというか、フリージャズやコレクティヴジャズ的なもの含め今じゃないとできないジャズをしっかり入れてます。オーケストラ的なものもすごく和声的にしたし。

ーー特に「田畑のテーマ」とか。これはもう大友さんの独壇場ですね。

大友:はい、佐藤允彦さんのピアノ、かっこいいでしょ。佐藤さんとかパーカッションの山﨑比呂志さんの演奏するフリージャズは、田畑のしっちゃかめっちゃかなエピソードに付けたいなと思って。

ーー佐藤允彦さん凄いですね、だってもう77歳でしょ。それでこれだけ切れ味鋭い。

大友:ねぇ。山崎さんも同じような年だから。本当に凄いですよ。渡辺貞夫さんに至っては86歳。信じらんないくらい素晴らしい演奏してくれてます。こんなに長く音楽やれるんだって、本当に最高に希望が持てる話です。

ーー佐藤さんとかナベサダさんとか、ご自分よりだいぶ年上の世代の人をあえて使おうと思った理由というのは。

大友:それはもう大好きだからです。それに前の東京オリンピックの時代にはもう現役でやっていて、あの時代の空気感が今の音楽をやっていてもそのまま滲み出てくるんです。実際に当時の音楽と今の音楽って何かがすごい違う気がしてるんです。ジャズでもロックでも、もう、ドラムひとつ取ってもまったく違う。リズムマシン以降と以前じゃ、まったく音楽が違う。リズムマシン以前……ジョン・ボーナムでもエルヴィン・ジョーンズでもジンジャー・ベイカーでもいいけど、彼等と今のドラマーは、まったく違うでしょ。譜面にしたら一緒でも、もう全然ノリが違う。良い悪いじゃなくてね。

ーージョン・ボーナムのドラムをちゃんとグリッドに合わせて修正した人がいるらしいけど、味も素っ気もなくなるらしいですよ。

大友:ジョン・ボーナムじゃなくなるでしょう。あの時代のロックってすっごい揺らいでるもん。そこがかっこいいんだけど、ある時期からリズムがどんどん揺らがなくなってきて。おそらくそれはテレビゲームネイティブだったりテクノネイティブ世代だと思うんだけど。だから感覚が変わってきてるというか、音楽に対する身体性がすごく変わってきていて、どっちもものすごく面白いんだけど、でも、少なくとも『いだてん』に関しては、そこまでテクノ的にならない人たちのほうがいいと思ったし、ある時代の香りみたいなものを持ってる方達に音をだしてほしかったんで、本物中の本物の大先輩たちに来てもらいました。

ーー「田畑のテーマ」にしても、すごく鋭利な、シャープでかっこいい演奏だけど、でもどこか懐かしくて温かい、その時代の空気みたいなのがある。

大友:そう聴こえたら嬉しいなあ。その時代の空気を出すには、本物の人に演奏してもらうのが一番だと思うし、その時代の空気をちゃんと温存したまま今も現役でいる人たち、っていうのが大きいな。

ーーあと驚いたのが、「夢見る人」。大友さんが作曲した曲をナベサダさんのバンドで演奏してる。

大友:もう超幸せですよ。だって普通に高校生の頃からファンだったから。その人が自分の作ったメロディを弾いてくれるなんて。ただ譜面だいぶ直されたましやよ(笑)。「このコードはこう変えていい?」「この通り吹かないけどいい?」「いいですいいです、もちろん。もう好きにやってください」。

ーー一応譜面は渡して、あとはご自由に、と。

大友:うん。そうそう。これ、貞夫さんを意識して書いたメロディ……のつもりだったんだけど直された(笑)。直されたし、ちょっと変にというかひっかりをつけたくて変則的な小節数にしたら「これやりにくいよ」って普通の小節に戻されちゃった(笑)。あれーと思ったけど「はい、いいです」って。

ーーナベサダさんくらいの大御所がこういうふうに人の曲をやるって珍しくないですか。

大友:そうかもしれません。でもドラマの空気感で繋げたかったんで、誠意を尽くして頼みに行きましたよ。

ーー実際に会いに行ったんですか。

大友:もちろんです。その前に別件で、いろいろ若い頃の話を聞いたりしたことがあって、そのときの60年代、50年代の話があまりにも面白くて。それが『いだてん』の話とかぶるなぁと思って。あの時代の、なんていうのかな、今と違うメチャクチャっぷり。良く言えばいい時代、今だったらありえないような感じが似てるよな気がして。

ーーナベサダさんの演奏は途中でちょっとラテンっぽくなる展開があって、そこがナベサダさんっぽい。

大友:はい。あれはナベサダさんが考えてくれた。「こうやったほうがいろいろ使い道があるよ」って言ってくれて。貞夫さんもずいぶん劇伴やってきた人だから気を使ってくれたんだと思います。

ーーこのドラマはもう一人、美濃部孝蔵(のちの古今亭志ん生)という重要人物が出てきます。「孝蔵のブルース」という曲が前回も今回も入ってますね。

大友:前半はスターリンの山本久土くんと俺のアコギと、近藤達郎さんのブルースハープで、アコースティックなブルース。後半はONJQ(大友良英ニュージャスクインテット)でモダンジャズのブルースになっていく。後半になると孝蔵も二つ目から真打ちに昇進していくので、音楽の質もギターやハーモニカから、トランペットが入ったりするようになってくる。ひとつ意識したのは、トランペットってすごくスポーツに使われる楽器でしょ。ファンファーレとかマーチとか。権威の象徴みたいなかんじで。一方でジャズとかブルース的なトランペットってそれとは対極のものじゃないですか。だから、今回けっこうトランペットがキーだなとも思っていて。毎週毎週必ずテーマでN響のトランペット4本のファンファーレでが出るわけだけど、同時に、孝蔵のシーンには類家心平のクラシックの人だったらありえないようなものすごくブルージーなトランペットも流れるっていう対比は考えたかな。孝蔵は常に、立派じゃない側というか。

ーーとことんダメな奴ですよね。

大友:オリンピックって立派に見えるじゃないですか。「日本の誇る」とかさ。それに対して(孝蔵は)ずっとダメなまんまだから。でも、そっちだもん、僕ら、本当は。

ーー孝蔵はロクデナシだし、田畑だって人見さんを「バケモノ」よばわりしたり、けっこうひどいこと言ってる。

大友:ひどい! 田畑もひどいし、金栗さんだって実家に四年も帰ってないとか、子供だけ作っておいて。綾瀬はるかが奥さんなのに家に帰らないって、もうありえないでしょ(笑)。中心になる男たち、もうみんな最低なやつばっかり(笑)。

ーーそれが大河ドラマとしては画期的っていうことですね。立派な人物だけじゃないっていうか。むしろそうじゃない人たちが主役。

大友:金栗さんだってオリンピックじゃ負けてばかりだし、田畑も(調べればわかるけど)最後に挫折する。宮藤さんらしいですよ、浮かばれない人たちを丁寧に描いてる。

ーーLOSER、負け犬たちが歴史を作ってきた。それはひとつの歴史観ですよね。

大友:そうだと思う。だいたい大河だけじゃなく歴史って、立派な人の名前を出して、それを繋げてくことになってるじゃない。偉人伝みたいな。だけど宮藤さんがやってるのは偉人伝じゃないんだよね。歴史って、こっちの角度から見たらこう見えるし、あっちから見たらこう見えるっていうのの集積だから。だから群像劇にしたかっただろうし、落語家もいればスポーツ選手もいるし、足袋屋も車夫も売春婦もいる。で、出てくる人それぞれに思い入れができるようになっていて、もっとしょうもない、美川(秀信)みたいなのもいて。でも彼が愛おしく思えるんですよねえ。

音楽アルバムとして成立するように作りたい 

ーー『いだてん』の話はこのくらいにして、『GEKIBAN 2』についてもお聞きします。

大友:『いだてん』のサウンドトラックもそうだしこれもそうだけど、実は選曲は全部Sachiko Mなんですよね。

ーーあ、そうなんですか。

大友:はい。『いだてん』もそうだけど、「音楽アルバムとして成立するように作りたい」ってのが彼女の方針で。『GEKIBAN』でいうと一作目のほうがたぶん、わりと知名度のある作品が多いと思うんですよね。だけど二作目のほうが個人的には思い入れがあるもにが多い。「鈴木先生」の3曲(「鈴木先生のテーマ」「日常のテーマ」「対立」)とか、3・11の、震災の日に録音してんだもん。ドラマの内容以前にもう忘れらんないですよね、これ。

ーー今回全27曲中11曲で大友さんが演奏に参加していない。ギターが入ってない曲は、そもそもギターが必要ない曲だったのかなと思うんですが、大友さんが演奏してないのに他のギタリストが弾いてる曲が5曲ある。すべて2000年までの曲です。

大友:90年代の多くの録音は、実はあんまりギター弾いてない。なぜかと言うと、作曲・プロデュースと、演奏を一緒にやるのが大変で、意識が両方に行かないかったからなんです。プロデュースと作曲に集中したいと思ってた。だから超低予算映画で他のギタリストが雇えないときだけです、ギターを弾いてたのは。あともうひとつ90年代は、自分はギタリストだってあんまり思ってなかったし、自分のギターそんなにいいとは思えなかった。ノイズはできたけど、メロディ弾いたりリズム刻むなんて、そんなの他の人がやったほうがいいと思ってて。内橋和久や今堀恒雄を呼んだほうがいいに決まってるし、アコースティックギターだったら笹子重治さんのほうがいいに決まってる。でも1999年にデート・コース・ペンタゴン(・ロイヤル・ガーデン)をやり出した頃から「俺ギターもやっぱりやりてぇわ」って強く思うようになって。そのあたりからぼちぼち弾くようになったかな。それまではやっぱりターンテーブルがメインで。

ーーそれは、自分の技量の限界を当時は感じてたのか、それとも自分の音楽的嗜好とギターという楽器が両立しなかったのか。

大友:両方かな。自分ができることと音楽的嗜好とがちょっとズレてたのもあったし。あとギター弾いちゃうと普通に音楽になるけど、もっともっとノイジーなものに行きたかったから、だからどんどんギター以外のもにいったってのもある。ギターもターンテーブルも、ノイズ、コラージュするマシンとしての意識だったなあ。それがすごい変わりだしたのがコラージュを止めだしたあたり。ターンテーブルを、コラージュのためじゃなくて、ノイズやフィードバックさせるための機械として使い出したのが97年あたりで、グラウンド・ゼロを解散したあたりかな。その頃から逆にギターのほうは、ギターとして弾こうと思いだした。

ーーなるほど。クリック、リズムマシン的なものとご自分の感覚の距離感の話をされてましたが、ここにはsaidrumのリズムマシーンが入ってますね。

大友:映画なりドラマが必要とするなら使いますよ。「鈴木先生」はリズムマシンにのほうがいいかなって。前ので言うと「白洲次郎メインテーマ」もそうなんだけど、リズムマシンで行こうと思う時は迷わずに行っちゃう。ドラマとか、映画の内容に合わせて。そこにこだわりはないなあ。どっちもかっこいいと思ってるもん。ただまぁ、基本的に生でやることが多いので、僕に来る依頼でそもそもリズムマシンっぽい音楽を求めてる人はかなり少ないってだけで。

ーー特にこの「対立」って曲、このリズムがかなりポイントかなと思います。

大友:すっごい好きなんですよ、この演奏。ドラムマシンでマイルス(・デイヴィス)みたいにしたいなって感じで、楽しんでやってましたよ、震災の最中 なのに。世の中がこんな凄いことになってるって知らずに、「大丈夫だよ、停電になってないからやっちゃおう」って。「今日やんないともうやれないからさ」とかって言って。終わってみたら世の中凄いことになってて。そっからあと、人生が大きく変わるとは思ってなかったけど。

ーー音楽家としての自分に何か変化はありました?

大友:ものすごい変わったと思うな。最も変わったのはアマチュアの人たちとガンガンやるようになったことかな。

ーーワークショップを始めたのも震災以降でしたっけ?

大友:その前からやってたけど、それは頼まれたらやってたって感じだった。積極的に自分からアマチュアとオーケストラ組んだりっていうのは震災以降。

ーープロじゃない人とやることに、どういう意味があって、どういうものをもたらすんですか。

大友:福島に行って活動を始めた時に(注:大友は10代の多くを福島で過ごしている)、東京からミュージシャン呼んでコンサートやるのもいいけど、地元の人となんとかできないもんかって思ったのが大きいかな。東京だと自分の望むミュージシャンはいっぱいいて、その人たちと作ればいいわけで。ところが福島に行ってみたらそんな状況はもちろんない。そんなところで音楽を作るってなったときに、どういう考え方や方法があるのか。震災後、東京か演奏家が来る機会が増えたのはいいんだけど、東京から来るのはやる人、見るのは被災者っていう構図になんか違和感感じちゃって。地元の人たちで音楽を作るにはどうしたらいいかと。そのときに、サックスが必要、ドラムが必要じゃなくて、とにかく来た人で、どんな人が来ても音楽できるようにしようと思った。もしペットボトルに砂入れてシャカシャカやる人しか来なかったら、それで面白い音楽ができるように考える。(ポンと叩いて)机でもいいし、とにかくその場に集まった人だけで面白くするにはどうしたらいいか。来た人でやる、考える。そこで思いついたのが誰でも参加できる、どんな楽器でもスキルでも参加できる即興のオーケストラなんです。たとえばこれだけ人数いて(取材の現場には6人)、これ(机を叩く音)と紙コップがあればなんらかの音楽はできると思う。仮に30分時間を俺にくれれば、CDに入れられるくらいのクオリティの楽しいダンサブルな曲を、今ここにいる人たちと一緒に即興で作れる自信があるもん。そんな感じで震災後はどんな人が来てもとりあえず楽しく音楽がその場で即興的にできる方法をばっかり考えてたなあ。

ーーそれはずいぶん変わりましたね。

大友:確かに変わったかも。誰が来てもその人に応じてやればいい。自分が望む音楽を作ろうと思ったら無理なんだけど、でもどんな人でも、歩けるなら足踏みはできるじゃない。そうしたらこれ(足踏み)を基本にしつつ、裏(拍)が打てる人がいたら(手拍子を入れる)。これだけでもちょっと楽しくなるじゃない。とにかく最低限できることだけでやればいい。『あまちゃん』のあのすっごいシンプルなテーマ曲が出てきたのはそういう経験が元になってるんです。ほんとに、たった2〜3音でも音楽できる、っていう経験というか。

ーーそれは震災という経験を経ていなければできなかった。

大友:できないっていうか、たぶんやろうとも思わなかったんじゃないかな。でも、やりだしたら面白くて。いつも自分がやってる音楽よりも面白くて、そのうち福島で盆踊りとかも始めて。だれでも参加できるってアイデアと盆踊りとかが混ざってくんだけど……面白いねぇ。面白い面白い。プロの現場で起こることって、やっぱある想定内で凄いことが起こるだけなんだけど、それはそれでもちろん面白いし、もの凄いことも起こるんだけど、誰でも参加できるものだと、そもそも想定がきないから、「はっ、今日はこうなるんだ」っていう驚き度合いがハンパなく面白くて。もともとノイズとかフリーインプロビゼーションをやってた人間にしてみれば、プロとやるよりよっぽどこっちのほうが面白いし自由。っていうのが僕にとってこの数年間ですごい発見。だから今、音楽やりたいと思った人間が集まったら、どんなスキルの人とでも、あっという間に面白くできると思ってる。

ーーへえ。すごいですね。

大友:いや俺、これ、自信持って言える。たぶんね、自分には音楽の才能ないなってこれまで思ってきたんだけど、この方法、努力したわけでもないのにできるから、うん、俺の唯一の才能そこだなって、やっと60歳近くになって気づいた。

ーーそういうふうに考えられるミュージシャン自体、そんなに多くないですよね。

大友:だってそんな必要ないもん(笑)。普通、生きてて。だから必要に迫られたってことだと思うんだけど。

ーーチャック・ベリーがワールドツアーするときに特定のバンドを組まないで、その行く先々の国で即席のバンドを作ってやってるみたいな。そういう話が昔ありました。

大友:あるけど、でもあれはさ、ある程度できることが前提の人が集まるじゃない。

ーーそれでも(ヘタクソなバンドメンバーに)相当怒ってたみたいですよ。

大友:俺は基本怒らない。だって楽器やったことない人が上手にリズム叩けなくて当たり前だもん。むしろその、上手に叩けないリズムは、プロじゃできない面白さでしょ。「ズレるなあ」とか「速くなるんだ」とか思いながら。だったらそれに合わせて面白くやればいい。自分の望む音楽を作ろうとしたら、そんなこと絶対できないけど、その人たちがやってる中で、できることで組み立てていけばなんとかなるもんで。出ることは全部受け入れるが基本。だからなんであれ怒る理由がない。もうひとつ重要なのはそれをアンサンブルにしていくこと。楽器初めて持った人が、ひとりで面白くなるのは大変だけど、でも、複数集まれば必ずなんとかなるし面白くなってくる。例えば、ダンッて(机を叩く)一人で叩くより、10人一緒に叩いたら結構な音になるでしょ。それで簡単なリズムを作るだけでも、なんとなく面白くなる。人って面白いもんで、ちょっと面白いと思うとさらに調子に乗る。音楽なんて調子に乗ってナンボでしょ。よく子供怒る時に「調子に乗るんじゃねぇ」って言うけど、むしろ「調子に乗れ」っていう感じで。それが、たぶんこの数年、俺が一番変わったとこかな。

ーーある意味で、大友さんはアーティストであることの制約から逃れたってことですよね。自分のやりたいことだけやる、という……。

大友:そういうのは十分やったし、今もやってるから、人とやるときに、そんなの持ち出さなくていいもん。それよりも、なんかその場にいる人で作る音楽というか、音が出ることで場が生まれるようなものがほんと面白くなっちゃったから。

ーー今の話を聞いて思ったのが、『いだてん』の関東大震災の後の復興運動会のエピソードです。選手も一般の人々もみんなが参加して。スポーツを楽しむ。

大友:そう、あれも、運動会って別に一等賞の人だけじゃなくて楽しくやれるじゃない。音楽もあんなふうにできるし、そういう作り方が面白い。たとえばプロのミュージシャンを呼ばず、そこいらにたまたまいる人連れてきて劇伴を作ることだって必要があればできると思ってる。それが合うドラマなら。以前『39窃盗団』っていう映画をやって(2012年公開)。それは障害を持った子が主人公で、その子を利用してオレオレ詐欺をやるっていうとんでもないストーリーなんだけど、そのときは、震災の直後に作った映画だったんで、たまたま近くに住んでるミュージシャンたちに来てもらって、映画のスタッフも入れて、みんなでバッといきなりやって作ったんだけど、今だったらもっと素人をいっぱい呼んでやることできるなって。「いだてんメインテーマ」もちょっとそんな感じがあるんだけど、さすがにこれ、2分20秒に収めなきゃいけないプロダクトなので、全部そういうふうにはできなかったんだけど。

ーーあのコーラスはちょっと参加したい(笑)。

大友:コーラスは全員素人ですよ、あれ。プロは一人も入れてない。プロにいい声で歌われたら台無しだもん(笑)。小野島さんがたまたまスタジオにいたらもちろん入れてましたよ。

ーー今度機会があったら呼んでください。

大友:もう終わっちゃうし、ないよ(笑)。でも震災後変わったのはそこかな、何よりも。だけど、今までやってきたことを否定してるわけではなくて。地続き、同時にそれがあるって感じかな。

ーーそれがあってこそ『あまちゃん』も『いだてん』もできた。

大友:うん、そうだと思う。もしも震災がない段階で『あまちゃん』とか『いだてん』の音楽作ったとしたら、今みたいな音楽にはならなかったと思う。それはちゃんと活かされてると思うな。

(取材・文=小野島大)

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■リリース情報
『大河ドラマ「いだてん」オリジナル・サウンドトラック 後編』
発売:2019年7月24日(水)
価格:¥3,000(税抜)

『GEKIBAN 2~大友良英サウンドトラックアーカイブス~』
発売:2019年7月24日
価格:¥3,000(税抜)

■ライブ情報
『「大河ドラマ「いだてん」オリジナル・サウンドトラック 後編」レコ発ライブ』
7月29日(月)東京 新宿 PIT INN

『「GEKIBAN 2」レコ発ライブ』
8月13日(火)東京 新宿 PIT INN

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