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ゲーム音楽の巨匠・植松伸夫、創作活動一時休止が海外でも話題に 『FF』を軸に功績を振り返る

リアルサウンド

18/10/6(土) 10:00

 2018年9月20日、植松伸夫氏が創作活動を一時休止することを発表した。植松氏は『ファイナルファンタジー』(以下、『FF』)シリーズをはじめ、多くのゲーム音楽を手がけてきた作曲家。ゲーム音楽だけでなく、日本国内をはじめ世界各国でオーケストラコンサートや自身のバンド“EARTHBOUND PAPAS”によるワールドツアーも開催している。

(関連:任天堂・近藤浩治氏×KenKenが語り合う、ゲーム音楽の魅力と作曲術

 10月7日には石川県立音楽堂にてコンサート『ゲームを彩るオーケストラ』への出演を予定していたが、9月12日の時点で体調不良のため中止することが発表されていた。植松氏は自身のブログにて、「現状では年内を目安にお休みをさせていただきつつも、その後の活動につきましても、もうしばらくの間状況を見つつ判断をさせていただければと思っております」と綴っている。

 そんな植松氏の功績を振り返ってみると、フェイ・ウォンに楽曲提供した『ファイナルファンタジー VIII』のテーマ曲「Eyes On Me」で、1999年度の「第14回日本ゴールドディスク大賞」においてゲーム音楽としては初の快挙となる“ソング・オブ・ザ・イヤー(洋楽部門)”を受賞。2001年5月にはアメリカ『Time』誌の“Time 100: The Next Wave – Music”にて、音楽における“革新者”の一人として紹介され、2007年7月には『Newsweek』誌にて、“世界が尊敬する日本人100人”の一人にも選出。さらに、イギリスのクラシック専門放送局・Classic FMがリスナーの投票により行うランキング「Hall of Fame(栄誉の殿堂)」にて、2013年に『FF』のサウンドトラックで第3位を獲得した。

 ゲーム音楽の巨匠として日本のみならず、世界でも才能が評価され、その名を轟かせている植松氏。活動休止を惜しむ声が目立つなか、ゲーム音楽を中心にDJとして活躍するtom2氏は、今回の決断は「良かったのではないかと前向きに捉えている」と語る。

「個人的には年齢に対して仕事をしすぎている印象があったので、ご自身の判断で休養を取ることを発表したのは良いことだと思っています。バイオグラフィを見てもゲームを中心に毎年複数のタイトルに楽曲制作を行い、大半がメインの作曲家として作品の世界観を作り上げています。その合間を縫ってのコンサートへの参加。年齢を考えれば明らかなオーバーワークでしょう。ここ数年はゲームのタイトルにしても20周年、25周年と節目を迎えるものが目立ち、各社自社IP(知的財産)の再評価を含め非常に盛り上がりを見せています。ファンの期待に答えたいという植松さんらしい精力的な活動ですが、いちファンとして長い間元気な姿を見たいので、今はゆっくり休んでいただきたいです」

 ゲーム音楽DJから見た、植松氏の功績についても聞いた。

「今回のニュースは国内にとどまらず海外でも大きく報道されておりますが、海外のVGMDJ(Video Game DJ)やReMixerも、二次創作で植松さんの作品をリミックスするなど、彼を応援する姿勢が多く見られました。比べると不謹慎と捉えられるのかもしれませんが、任天堂の岩田聡さんの訃報や、小島秀夫さんが『メタルギアソリッド』の映画『METAL GEAR SOLID』に関わるのではないかという噂(参考:映画「メタルギアソリッド」の監督が、小島秀夫氏とのミーティングを報告。「良からぬことを考えている」と仲睦まじくワンショット)が立った際に、国内外のファンがファンアートやムービー、音楽の二次創作や演奏をしていたのと同じ空気を感じています。植松さんは作曲家のため、音楽で応えるファンが多い印象です。功績を鑑みても、国境を超えてゲームファン、ゲーム音楽ファンに、絶大な影響力をもたらしているクリエイターであることの現れだと思います。VGMDJのイベントにおいて、世界のどこでも彼の曲がかからないイベントはおそらくないのではないでしょうか」

 また、植松氏が手がけるゲーム音楽の特徴について、tom2氏は次のように分析している。

「私は作曲はしないため、あくまでもDJとしての感想となりますが、植松さんの音楽は“足していける”曲が多いという印象です。スーパーファミコンまでの音楽で言うなら、当時のハードウェアの制限による音の少なさに起因する部分もありますが、良い意味で余白のあるプログレッシブロックな楽曲が多く、クラブミュージックへの親和性を高く感じています。

 特にベースの使い方が非常に秀逸で、キック(ビート)を足すだけで立派なクラブミュージックになる。有名な曲では『FF』のⅠ~Ⅵまでの戦闘曲のイントロ「ララララララソソ」や、俗に言う「デデデデベース」(『FF』レジェンズの作曲を担当した水田直志氏命名と言われる)は、この8音だけで『FF』の戦闘曲と言わしめるほど。同じくワンフレーズで耳に残る曲は『スーパーマリオブラザーズ』のイントロくらいかなと思います。私の好きな曲は『FFVI』のボス戦の曲(「決戦」)なのですが、主旋律がありながらベースでさらにメロディを重ねるというのがまさにプログレッシブ。ボスに立ち向かうというシーンと相まってより一層印象深い楽曲です。

 ほかにもクリスタルのテーマ(「プレリュード」)は、「ドレミソ」の音階を上がって下がるだけなので、簡単にカバーできます。また『ドラゴンクエスト』の序曲のイントロのように耳に残るフレーズでもあるため、老若男女、国境を超えて印象に残りやすかったのではないでしょうか。『FF』がここまで世界中で愛されるタイトルになったのは、ゲームの内容もさることながら、植松さんの音楽も大きな一因を担っていると感じます」

 活動休止を発表する前のインタビューで、植松氏は「60歳になったらギャラのための音楽制作は止めて、自分の作りたい音楽と、作りたい文章と、あと最近公演とかのお話がいくつかあるんで、その3つに絞っていこうかなと思って」(引用:ゲームミュージックの巨匠 植松伸夫氏(下)『FF』は自分にとって“新しくない” /エンタメステーション)とコメントしていた。2019年3月に60歳を迎える植松氏。まずはゆっくりと休養をとって、万全の体調を整えて欲しいと願うばかりだ。そして、植松氏が“作りたい音楽・作りたい文章・公演”を生き生きとする姿を見る日が来るのを楽しみに待っていたい。(文=戸塚安友奈)

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