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令和のアーティストとファンベース 第1回 ファンとのつながりを太くするために必要なこと

ナタリー

左から松崎崇、宮本浩志。

音楽ナタリーでは昨年「令和のアーティストとSNS」という連載を展開し、SNSが生活に根付いた現在、アーティストがSNSとどう向き合うべきかを探った。その続編となる今回の連載では、アーティストがファンとの関係をどのようにして深めていくべきかを、SNSに限らずファンクラブ、グッズ、クラウドファンディングなどさまざまな側面から考察する。

初回はトイズファクトリーにてストリーミングにフォーカスした新設レーベル・VIAのヘッドを務める松崎崇氏と、元キングレコードで音楽マーケティングについて発信している宮本浩志氏にインタビューを実施。アーティストと間近に接するレーベルという立場から見たファンベースの築き方を聞いた。

取材・文 / 丸澤嘉明 撮影 / 堀内彩香

ファンベースが最重要項目になってきた

──最初にお二人のこれまでの経歴を簡単に教えていただけますか?

松崎崇 前職ではエリアプロモーターから始まって7年くらいテレビ、ラジオ、雑誌、Webといったメディアのプロモーターをやっていました。その後4、5年くらいのA&R業務を経て、トイズファクトリーに移り、EveやマカロニえんぴつのA&Rをしながら昨年新レーベルVIAを立ち上げて今に至る感じです。

宮本浩志 僕もキングレコードでプロモーターをやっていて、2年目のときにアーティスト担当になったのですが、経験もないしメディアに強いわけでもないし、何度も事務所の方にダメ出しされまして(笑)。それで理論武装しなきゃと思ってマーケティングの勉強をするようになりました。その後、EVIL LINE RECORDSで宣伝の経験をたくさんさせていただいて、30歳になったとき、業界の外に1回出ようと思って広告代理店に移ったんです。そしたら同期入社にとんでもなく優秀な子がいて、その子のおかげで自分は全然マーケティングのことがわかってなかったと気付かされまして。

松崎 そうなんですね!

宮本 いろいろなブランドさんのお仕事の中でもポカリスエット イオンウォーターとサウナをつなぐマーケティングコミュニケーションを担当させてもらったことが印象深くて、そこでたくさんのことを学ばせていただきました。今はアーティストが音楽で生活できるようになるサポートになればと思って、noteなどを通じて音楽マーケティングに関していろいろ発信しています

──今回のコラムは「アーティストとファンベース」がテーマになります。一般企業ではファンベースという言葉がかなり根付いてきている印象がありますが、音楽業界におけるファンベースとはどのような考え方だと思いますか?

宮本 一般企業だと、例えばCMや「キャンペーン期間中に●●を飲んだら■■が当たる!」みたいな短期の施策だけじゃなくて、中長期的にずっと買い支えてくれるファンを大事にしましょうという考え方がファンベースです。音楽業界に置き換えると、今までは年に数回あるアーティストの新作やライブのタイミングに合わせてキャンペーンを打って盛り上げることが多かったですけど、今はストリーミング配信やSNSで365日“ファンといいツナガリを持ち続ける”必要がある。この視点を大切にするのがファンベースの基本的な考えだと思ってます。

松崎 ファンベースという言葉は最近いろいろなところで聞きますけど、もともとそういう考え方って音楽業界にもあったと思います。それがレーベルとしても最重要項目になってきているということなんじゃないかなと。曲を広めるために今まではメディア戦略が重視されていましたけど、今は顔出しせずに活躍しているアーティストも増えているし、「テレビに出るよりもインスタライブをやってくれたほうが身近に感じられてうれしい」というファンもどんどん増えている。日常生活の中にアーティストが溶け込むことがより重要になっていると僕は感じています。

メディア露出だけではダメ

──ファンベースという考え方のプライオリティが上がっていると感じたきっかけはありますか?

松崎 プロモーター時代には「メディアにたくさん露出させたい!」「テレビの特番に出したい!」と意気込んでアーティストをブッキングしてましたが、Eve、りりあ。を担当するようになって、メディア露出だけではダメで、いろいろな角度からのプロモーションを改めて考えるようになりました。担当アーティストのおかげでA&Rとして自分の考え方をゼロベースに戻すことができたというか。Eve、りりあ。はテレビに出ないことや顔出ししないことを武器に売れようとしているわけではなく、顔出しをする理由が特にないだけなんですよね。

宮本 確かにテレビに出る必要がないからカッコつける必要がないというか、すごく身近で等身大な印象を受けます。まふまふさんやSouさんといった仲間同士でコラボしながら楽しくやっている感じもすごく素敵だし、それでいてファンの熱量もすごくて。

──確かにファンとの距離感が近いですね。

宮本 ファンとの距離感はとても大切だと思います。今はファンがTikTokやInstagram、Twitterでコメントしてそれにアーティストがリアクションすることが増えていて。そういうインタラクティブなやり取りなどから距離が縮まるので、とても面白いですよね。

──SNSの進化の影響も大きいですね。

宮本 そうですね。コミュニケーションの仕方がガラッと変わったと思います。以前はアーティストの多くがすごく遠い憧れの存在だったのに、TikTokやストーリーズの登場が加速度的に身近な存在へと変化させたと思います。カッコつけない大切さというか。ファンとの距離感が近くなったからこそ、アーティストさんもファンの気持ちをより一層感じやすくなってきていると思いますね。

松崎 僕は優里さんやVaundyさんを見ていて、曲の雰囲気は違うけどSNSでのコミュニケーションの取り方がしっかり時代に即してるところは共通しているなと思っていて。少し上の世代のアーティストではRADWIMPSの野田(洋次郎)さんはファンとのコミュニケーションが自然体で素晴らしいと思います。

宮本 山口一郎さん(サカナクション)のファンとの距離感とか本当に素晴らしいですよね。

レーベルはアーティストの伴走者

──ファンとの距離感の取り方はおそらくアーティスト個々人のコミュニケーション力によるところが大きいと思うんですが、そんな中でレーベルはアーティストとどう向き合うべきだと思いますか?

松崎 SNSを使ったコミュニケーションって人に教えてもらうものではないからアドバイスのしようがないですよね。極端に言うと40代のおじさんが10代の女性アーティストにTikTokのやり方を教えられないわけで(笑)。僕はアーティストと向き合う中で、「初めに自分がやることを決めない」と決めているんです。

宮本 面白いですね!

松崎 初めから自分の役割を決めすぎちゃうと頭でっかちになるんですよね。レーベルとしての役割はここからここまでと決めずに、アーティストが活動するうえで枠からハミ出る部分、あふれてしまう部分が自分の役割だと思っていて。例えば僕が担当しているアーティストにりりあ。がいるんですが、僕が彼女にTikTokのやり方で教えることなんて何もない(笑)(参照:りりあ。が実践する、新しい音楽活動のカタチ)。TikTokは彼女が育てているホームグラウンドなのでやり方に関しては口出しせずに、でも活動するうえで本人が知らない大人の事情が絡んでくることはあると思うんです。音源許諾だったり情報の出し方だったり。抽象的な例えになってしまいますけど、マラソンのランナーがアーティストだとしたら僕らは伴走者で、斜め後ろを並走している感じ。走行の邪魔になりそうな障害物に誰よりも早く気付いて取り除くことがレーベルA&Rとして重要なんじゃないかと思っています。

──アーティストがストレスなく創作活動を続けられる環境を整備してあげるということですね。

松崎 そうです。その整備のやり方もアーティストによって違うし、決まりがないから面白いです。

王道なメジャーバンドとして関わるマカロニえんぴつ

宮本 その感覚はりりあ。さんでもマカロニえんぴつのようなバンドでも一貫して共通しているんですか?

松崎 僕としてはそこに線引きはありません。マカロニは音楽的に素晴らしいアーティストなので、制作についてはメンバーとマネジメントに任せて僕は何も言わない。一方でMVやアートワークのクリエイティブに関して時間、お金、労力をかけてめちゃくちゃいいものを作るというのがマカロニに対しての僕の1つの答えです。あとはメディア露出、稼働が増えてきているので、対応のきめ細かさだったり媒体とのコミュニケーションだったりの部分を意識しています。マカロニはどちらかと言うと王道なメジャーバンドとしての関わり方ですね。

──マカロニはここ最近ますます規模感が大きくなっていますけど、ファンの変化みたいなものを感じますか?

松崎 そこは僕もすごく意識しているところで。もちろんアーティストによってファンの資質も違うし求めているものも違うんですけど、マカロニの場合はCDもちゃんと買うしサブスクでも日常的に聴くという、ちょうどアナログとデジタルの中間の世代だと思っていて、だから両方のファンのことを考えないといけない。CD主導でもダメだしサブスク主導でもダメ。かつマスメディアを見て育っている世代なので、しっかりメディアでも取り上げられるような活躍をしないといけないと思ってやっています。

──なるほど。

松崎 マカロニは本当にライブが最高なんですが、コロナによってライブも通常運転ではできなくなってしまったので。その代わりにメディアにたくさん出ようと思ったんですね。それもちょっと出るくらいじゃなく、バンドの中で一番出てると思われるくらい振り切らなきゃダメだと思って、昨年11月のメジャー1stCDリリースのタイミングでけっこう出させていただいて、そのときにファンのリアクションがすごくよかったんです(参照:マカロニえんぴつ「愛を知らずに魔法は使えない」インタビュー) 。そのときメディアを通じてしっかり人気者になれると手応えを感じました。今、ホールツアーを回っているんですけど、お客さんの7、8割くらい新規の方なんですよね。ライト層も入ってきてとてもいい形で広がっていると感じています。

──りりあ。さんのファン層はまた全然違いそうですね。

松崎 マカロニのファンはCDを買うしサブスクでも聴くけど、りりあ。のファンにはサブスクでしか音楽に触れてきてない子が多いので、全然違いますね。彼女の場合はそもそもCDを出さなくていいと思ってスタートしているし、いい曲ができたらストリーミングで出すということを意識しています。ファンもそれを望んでいて、リアクションが速いので新曲が出たらすぐ聴きたい層が多い。だからりりあ。の場合は新曲の情報を解禁してから聴けるまでのスパンを短くしてるんですよ。バンドは情報を知るまでに時間をかけたりして枯渇感を煽ったほうが発売日にエネルギーを生み出すんですけど、逆にりりあ。は解禁直後に沸点がくるのでそのままサブスクに突入させて機会損失をとことん減らす。そこが明確に違います。そういうりりあ。のような打ち出し方をできなかったからVIAを作ったところもあって(参照:りりあ。×VIA特集)。レーベルってリリース1つとっても編成部を通さなきゃいけないとか、いろいろ条件が多くて、これを続けていると時代のスピード感についていけなくなると思ったので。結果ファンもそれを求めていたんだと感じています。

プラットフォームに応じたコミュニケーション

──Eveさんのファン層はどうですか? マカロニとりりあ。さんの中間の印象もあるのですが。

松崎 Eveのファンは曲が好きだしCDも買ってくれるんですが、Eve本人のパーソナルも好きになってくれて、グッズを身に付けることで全身でEveを感じたい熱量が高い方が多いです。

宮本 harapeco(※Eveが手がけるユニセックスブランド)ですよね。

松崎 そうですね、自分で服をプロデュースしています。音楽以外の部分にもとてもこだわりが強いです。例えばCDの特典もチェーン店別に細かく作っています。ファンの皆さんが少しでもCDを買うために楽しんでもらえるよう、意識していますね。その一方でサブスクは時間をかけて成長させました。

──そうなんですね。

松崎 CDの仕様や特典にこだわりが強い分、手軽に聴く、何度も聴く、人に伝えるという部分、サブスクを浸透させるには時間が必要でした。当初からEveと一緒にサブスクで聴いてもらえるようにさまざまな施策にトライしました。

宮本 ストリーミングサービス別に細かく施策を打っていたのが印象的でした。

松崎 そうですね。「闇夜」という作品をリリースしたときにCDを100枚作ってサブスクで聴いたら抽選でもらえる企画をやったり、「レーゾンデートル」のときはサブスクで聴いたら無料でライブを観に行けるという施策をやりました。さまざまな施策を通じて少しずつファンの反応にも変化がありました。その地道な積み重ねもあって、テレビアニメ「呪術廻戦」のオープニングテーマ「廻廻奇譚」のサブスクでの再生回数の爆発につながったのかなと思ってます(参照:Eve「廻廻奇譚 / 蒼のワルツ」対談Eve×朴性厚監督)。

──EveさんはYouTubeのチャンネル登録者数が305万人いますよね(※2021年6月現在)。日本のアーティストでトップ5に入るほどの数ですが、何か特別な施策をやったんでしょうか?

松崎 そこはもう僕らじゃなくて本人の力です。アーティストであり、勝てないぐらい優秀なA&Rなので(笑)、動画を公開するタイミング1つとっても本人がすごく考えています。MVも、本人の合格ラインがすごく高いんですけど、そこを超えるまで絶対に妥協しない。クリエイティブでファンを絶対裏切らないという。アニメ「どろろ」の第2期エンディングテーマだった「闇夜」は、MVの制作に時間がかかって、完成したときにはもうアニメの最終回でした。でも無理やり放送に間に合わせてクオリティの低いものが世の中に出てしまうことのほうが問題だなあと。しかし、こだわったことで、多くの方が喜んでくれてまた新作も楽しみにしてくれるという信頼関係ができたんだと思います。今のチャンネル登録者数はファンを一度も裏切らなかった結果だと思います。

宮本 EveさんはTikTok全投稿のいいねの付き方がすごいですが、それもファンの期待値にずっと応え続けているからということですよね。「夜は仄か」MVの解禁予告動画に対するいいねの付き方もものすごくて、ファンの期待値の高さをいつも感じます。縦型のTikTokに合わせてMVを編集していたり、ピックアップするシーンや投稿文も素敵で、ほかのSNSへの導線もしっかりしている。新しくEveさんを知った人がファンになってくれるかどうかって、そういうわずかなところに出ると思うんです。SNSでのコミュニケーションや細かな導線設計がとても素敵だなと思いながら拝見しています。

松崎 それぞれのプラットフォームに応じたアプローチの仕方が抜群にうまいんです。曲がいいのは大前提で、SNSを縦横無尽に使いこなしてファンとコミュニケーションを取っているところが本当に魅力的だと思っていたので、そう言っていただけてうれしいです。

宮本 僕はファンと“いいツナガリであり続けられるか”を考えたときに、1つのプラットフォームではなくいくつの接点を持てるかが重要だと思っていて。TwitterだけじゃなくてTikTokやYouTube、Instagramでもつながってるし、harapecoというファッションブランドでもつながっているし、ライブでもつながっていて、このつながりの束を太くすることがすごく大事だと考えてます。例えばSpotifyで曲が聴ければYouTubeでMVを観なくてもいいという人たちもいるじゃないですか。Eveさんにはそこの垣根を超えさせるパワーとコミュニケーション力があるんですよね。

松崎 確かに。今の宮本さんの話を受けて僕自身が答え合わせできている部分もあって、たぶんEveはすごくバランスがいいと思います。例えばTwitterのフォロワー数に対してYouTubeの登録者数が少ないようなアーティストさんもいると思いますが、Eveは全部自分なりの伸ばし方を見つけて微調整しながら増やしているんです。YouTubeではこういうコンテンツが楽しめて、Twitterではこういう側面が見えて、インスタでは突然ライブやってくれるからこれも見逃せなくて、TikTokでは縦型のオリジナル動画が楽しめる。それぞれのプラットフォームに応じてやっているから全部のバランスがいい。それがすごく大事でファン目線につながっていくんだなと思いました。

──YouTubeだと英語のコメントがたくさんあって、海外のファンの人も多いですよね。

松崎 そこもすごく意識しています。アニメーションは日本が世界に誇るビックコンテンツで、そこはどんどん仕掛けていくべきだと思っているので。Eveは海外の配信だけThe Orchardにお願いしていて、YouTubeを観た海外の人がそのままサブスクで聴けるようにしているんです(参考:The Orchardが変える音楽の届け方)。2年くらい前からEveと話して、海外を視野に広げて対策を進めてきました。

結局はアルバム

──例えばSNSで1曲バズったアーティストが、次の作品はあまり聴かれなかったというようなことがSNSマーケティングの課題として挙げられますが、曲単位のファンではなくアーティスト自身のファンになってもらうには何が必要だと思いますか?

松崎 僕は結局はアルバムだと思うんですよね。1曲だけ聴いていれば満足なアーティストではダメ。アーティストを好きになるかどうかって、その曲から入ったときにほかの作品もいいかどうかがすごく重要で。だから僕はアーティストと契約をする際には「アルバムが素晴らしいことがイメージできる」ということを1つの判断基準にしています。1曲だけいい人ってけっこういるんです。レーベルとしてはそこを見誤っちゃいけなくて、1曲で終わる人っていうのはそういうポテンシャルだから対策は難しいのではないかな。

──逆に言えば能力が高ければちゃんとファンは付いてくるという。

松崎 きれいごとかもしれないですけど、そう思いますね。

宮本 J.Y. Parkさんも同じことを言ってましたね。2018年の「JYP2.0」の質疑応答で、「アーティストのどのような指標を見ていますか?」という質問に対して、「アルバムセールスがもっとも重要な指標の1つ。楽曲は人気があれば多く売れることもあるけれどアルバムは熱量の高いファンが買うので、アルバムの売上が高ければライブ収益につながり、グッズ収益につながる」って。

松崎 ホントですか!? なんかめちゃくちゃ恥ずかしくなってきた(笑)。

宮本 でもそこは僕もすごく同感で。僕は藤井風さんが大好きなんですけど、あれだけご本人の色があって、そのうえで「HELP EVER HURT NEVER」っていうあんな全曲最高なアルバムを生み出すとか、好きにならない理由がないというか(笑)。曲以上にアーティストを好きにできるかどうかはアルバムだと思います。

松崎 藤井風さんしかり、あとはVaundyさんにも共通してますよね。やっぱり1曲だけじゃなくてどの曲もアルバムの隅々までいい。別にTikTokで流行ったからとかではなくて、彼らの魅力に気付いた人たちがほかの人にも伝えるという必然的なヒットの仕方だと思うので、あまり表面上だけを切り取ってマネしようとしても成功しないと思いますね。いろんな施策を打つよりも、まずはいい曲を作らなきゃいけないよなって。

音楽ビジネスはストリーミングだけではない

──音楽業界のビジネスの仕方も変わってきていると思うんですが、ファンベースをもとにアーティストはどうマネタイズしていくべきだと思いますか?

松崎 僕はマネタイズを軸に考えるとうまくいかないことのほうが多いと思っていて、まずは考えなくていいんじゃないかな。マネタイズのポイントを決めるとクリエイティブの制約が出て面白いものにあまりならないんです。活動初期は特に。どこにアーティストの魅力があるか最初はわからないから、アーティストの可能性を信じていろんなことに取り組んでみて、やっていく中で見えてきた強みを生かしてマネタイズポイントを形にしていくのがいいんじゃないかと思います。

──可能性に投資する感覚に近い?

松崎 そうですね。アーティストに苦しい思いをさせているんだったら、こっちも苦しくなるくらいお金使ったり体を動かしたりして汗をかかないと。その先にマネタイズポイントがきっとあって、みんなでシェアしたらいいんじゃないかと思います。

宮本 僕は既定路線に捉われることなく、どこにファンが価値を感じているかを肌感含めて知って、ファンにその価値を提供し続けるのが大事だと思ってます。「こんなことや、コンテンツ、プロダクトなら応援したい!」と思ってもらえることがきっとあるはずで。ファンにとって何がうれしいかずっと考えることが大事だし、ずっとつながり続けるためにも、運営本意すぎるマネタイズではなく、長いお付き合いを意識することが大事だと思ってます。Eveさんのharapecoもきっと同じ感覚ですよね。ファンはEveさんと一緒の服を着たいと思うでしょうし。

松崎 そうですね。

宮本 あと個人的にはファンクラブを絶対に進化させなくちゃいけないと思っていて。何が正解なのか僕もまだわからないし、うまく説明できないんですけど、メディア化を進めるというか。毎月ちゃんとファンが楽しめるコンテンツを提供しないと、同じくらいの月額料金を払うんだったらみんなNetflixやほかのサービスを選ぶと思うんですよ。

松崎 それはすごく思います。ファンクラブってライブのチケットが優先的に取れるとかメルマガが届くとか、定形のテンプレで止まってしまっていて、それだとあんなに魅力的なコンテンツがそろったNetflixには勝てない。無料でMVが観られるYouTubeもあるわけだし、もっと内容を充実させていかないと、既存のファンクラブビジネスは崩壊すると思いますね。自分自身今話していて耳が痛いんですけど。

宮本 今の音楽業界っていかにストリーミングに力を入れるかの話が主流になっていますけど、そこに偏りすぎるのもよくないと思っていて。みんながみんな100万再生されるわけじゃないし、音楽で食べていくにはどうすべきかを考えたときに、ファンとの接点を、バイアスを取り除いた状態で全部フラットな視点で設計していく必要があると思うんですよね。特に今はライブが制限されていてファンクラブを抜ける人も多くなっているので、そこをどう乗り切るかを必死に考える必要があると思いますし、僕自身も考えたいと思ってます。

松崎 本当その通りですね。これまでのやり方ではない、新しいファンクラブの形を開発しないといけないと思います。

──最後に、改めてこれからの時代にファンベースを築くうえで大切なものはなんだと思いますか?

宮本 当たり前ですけど一番大事なことは、できる限りファンを知る、感じることだと思います。我々スタッフはアーティストほどはわからないかもしれないけれど、可能な限り理解をしてファンとアーティストのつながりを太くするためのサポートだったり仕組み作りをし続けるのが重要なんだと、今日改めて思いました。

松崎 まったく同意です。まずはアーティストとファンがつながり、そこをいかに太くしていくかが重要で、その中で具体的に何がやれるのかというと、飽きさせないことだと思うんです。どんどん新しいアーティストや音楽が出てくるので、一方通行のコミュニケーションしか取っていないとみんな離れていっちゃうと思うんですよ。アーティストがファンに定期的に刺激を与え続ける存在でないといけなくて、我々スタッフはファンでありながら客観的な視点を持って、我々自身もアーティストに刺激を与え続ける存在でないといけない。そこの距離感の取り方がすごく重要だと思いました。

記事初出時、本文に誤りがございました。お詫びして訂正します。

松崎崇

トイズファクトリーでEve、マカロニえんぴつのA&Rを担当。昨年ストリーミング特化型アーティストにフォーカスした新レーベルVIAを立ち上げた。VIAには現在りりあ。、羽生まゐご、WONが所属している。
マツザキタカシ (@__electrock__) | Twitter
VIA (@via_label) | Twitter

宮本浩志

キングレコード内のレーベルEVIL LINE RECORDSにて多くのアーティスト、作品の宣伝を担当後、広告代理店でのコミュニケーションデザイナーを経て、現在はIT企業に所属。サウナ大好き。
Miyamoto164 / MUSIC - SAUNA - CYCLE (@38610164) | Twitter
Miyamoto Hiroshi | 宮本浩志|note

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