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シーアはなぜポップミュージックに求められ続けるのか 楽曲提供、コラボなどの歩みを辿る

リアルサウンド

19/4/4(木) 7:00

 『FUJI ROCK FESTIVAL ’19』で初来日を果たすシーア(Sia)。

 素顔を明かさないポップアイコンであり、ソングライターとしてビヨンセやケイティ・ペリーらに楽曲を提供してきたシーアの足跡は、2010年代におけるポップミュージックの歩みと重なり合う。

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 オーストラリア・アデレード出身のシーア・ケイト・イゾベル・ファーラー。シーアのキャリアにはいくつかの転機があるが、グレッグ・カースティンとの出会いと、ツアーを引退し作曲活動に専念(後に復帰)したことが特に大きな比重を占める。

 ことポップミュージックに関して言えば、2010年代は楽曲制作において分業制が発達した時代だった。作曲面では複数のクリエイターがモチーフやアレンジを提供するコライトが普及し、ここ日本でも一般的になりつつある。

 背景には機材など制作環境のデジタル化があるが、ファーストインプレッションを重視しライティングキャンプを活用しながら短期間で曲を書きあげる手法は、SNSによる拡散とサブスクリプションによってヒットのサイクルが高速化した2010年代に絶大な効果を発揮した。

 一方で、分業のトレンドに対抗あるいは追随するかのように、楽曲制作の全過程にわたって複数タスクを高いレベルで実行するプロデューサーが登場する。その象徴とも言える存在がシーアの相棒、グレッグ・カースティンである。

 ニュースクール出身のジャズミュージシャンであり、キーボード、ギター、ベース、ドラム、その他の楽器を演奏し、作曲・プロデュースからエンジニアまでマルチロールをこなすグレッグ・カースティンは、アデルやケリー・クラークソンをはじめ、ベック、ポール・マッカートニーの最新作までを手がけるヒット請負人。

 グラミー賞のプロデューサー・オブ・ザ・イヤーを2年連続で受賞(2016年・2017年)するなど、目下、世界一のプロデューサーと言っても大げさではないだろう。

 シーアとグレッグ・カースティンの関係は、2003年に旧知のベックのライブでツアーメンバーだったカースティンを紹介されたことからはじまる。ブレイクのきっかけになった5thアルバム『We Are Born』(2010年)をカースティンがプロデュースし、本格的なコラボレーションがスタートした。

 グレッグ・カースティンのシーア評は「まるで作曲マシーンだ」、「録音もとても早くて、だいたいワンテイクで終わる」(参照:AudioTechnology)とのこと。多種多様なアイデアを具現化することで定評のあるカースティンとシーアのコラボレーションは、全米1位を獲得した6thアルバム『1000 Forms of Fear』(2014年)と、続く『This Is Acting』(2016年)、『Everyday Is Christmas』(2017年)のほか、劇場版『Annie』のサウンドトラックを含む多岐にわたり、分業時代の理想的なソングライティングチームとなった。

 一方で、シーア自身は『We Are Born』ツアー終了後に、レコーディングアーティストからの引退とソングライターとして裏方に回ることを表明。有名になるにつれて素顔がさらされ、ストレスからドラッグとアルコール依存になるなど、プライバシーと健康面を考慮した決断だったが、結果的にシーアの作家性を開花させることになった。

 2014年に復帰するまでに他アーティストに提供した楽曲には、トップ10ヒットとなったデヴィッド・ゲッタ「Titanium ft. Sia」やフロー・ライダー「Wild Ones ft. Sia」があり、ケイティ・ペリー、エミネム、ビヨンセ、リアーナ、クリスティーナ・アギレラらの作品に共作者(コライター)としてクレジットされている。

 アシッドジャズのボーカルとしてキャリアをスタートしたシーアがつくる楽曲は、輪郭のはっきりとしたメロディにリズムが強調されたリミックス映えするものが多い。そんな楽曲に引き寄せられたリミックス陣も、フォー・テットやデヴ・ハインズ(ブラッド・オレンジ)、オデッサ、ジャック・アントノフ率いるBleachersなど豪華な顔ぶれが集う。

 また、ハスキーで中音域がよく通るシーアのボーカルは、カニエ・ウェスト『The Life of Pablo』収録の「Wolves」などでもフィーチャーされており、シーア自身も多くのアーティストをフィーチャーしている。その中にはケンドリック・ラマー、ザ・ウィークエンド、ショーン・ポールなどビッグネームが名前を連ねる。

 錚々たるコラボ相手を見ていると、シーアを中心に2010年代のポップミュージックが回っているような感覚に陥るが、あながち間違いとも言えない。ミュージシャンズ・ミュージシャンと呼べる存在がシーアなのだ。

 シーアの直近の活動としてはディプロ(Diplo)、ラビリンス(Labrinth)とのユニット・LSDがある。

 ここでもなれそめはシーアとのコラボレーションから。ラビリンスは映画『ワンダーウーマン』のテーマソング、ディプロも映画『ハンガー・ゲーム2』サントラに提供されたシーアの『Elastic Heart』でザ・ウィークエンドとともにフィーチャーされていた。

 メジャー・レイザーやシルク・シティーを手がけるクラブシーンの大立物・ディプロと、シンガー、ラッパー、プロデューサーなど複数の顔をもつラビリンスとのスーパーグループは3人の頭文字を取ってLSDとされているが、音のほうもカラフルで浮遊感のあるサイケポップ。4月12日には1stアルバムのリリースも決定している。

 グレッグ・カースティンとのタッグや多くの楽曲提供、フィーチャリングを経て、シーアが選んだ次なる創造の場、LSD。3人それぞれがプロデューサーを兼ねるユニットは、分業制が極まった先にある2020年代のポップミュージックを占う上で重要な作品になりそうだ。

 ステージではウィッグを着用するシーア。アイコンとして消費されることを拒否しつつ、たぐいまれな作曲能力で現行シーンを支えてきたシーアは、創造性と名声の危うい均衡をウィッグで覆うことによってかろうじて保っているように見える。

 シャンデリアのように揺らめくシーアの歌に引きつけられるのは、その光が照射するのが同じ目線で生きる私たち自身の姿だからだ。その事実こそが、シーアがポップミュージックの中心線上で切実に求められる理由なのかもしれない。(石河コウヘイ)

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