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今もっとも勢いのある脚本家、安達奈緒子 『きのう何食べた?』を機に振り返りたい傑作ドラマ3選

リアルサウンド

 2019年に『きのう何食べた?』(テレビ東京系)、『サギデカ』(NHK総合)、『G線上のあなたと私』(TBS系)の3本の連続ドラマを執筆した安達奈緒子は、今もっとも勢いのある脚本家の一人である。

 彼女が注目されるきっかけとなったのは、2018年の『透明なゆりかご』(NHK総合)。見習い看護師の青田アオイ(清原果耶)の目線から産婦人科病院の理想と現実を描いた医療ドラマで、本作の成功によって、安達は作家として広く認知されるようになったのだが、『透明なゆりかご』以前に書いたドラマも傑作揃いである。

【写真】戸田恵梨香と三浦春馬のラブストーリー

■地上波連続ドラマのデビュー作となった月9

 まず、2011年に月9(フジテレビ系月曜9時枠)で放送された『大切なことはすべて君が教えてくれた』。本作は、同僚の上村夏実(戸田恵梨香)と結婚間近の教師・柏木修二(三浦春馬)が、女子生徒・佐伯ひかり(武井咲)と夏実の間で葛藤する三角関係を描いた学園恋愛ドラマとしてはじまるのだが、話が進むにつれて理解を超えた異様な話に変貌していく。

 一番面白いのは、修二のキャラクターだ。品行方正な教師で、明るく真面目な好青年なのだが、行動のひとつひとつがちぐはぐで、正論を言う度に妙にイラッとさせられる。当時の三浦春馬はさわやか好青年という雰囲気が全身から漲る若手イケメン俳優だったが、そんな彼が演じたからこそ、得体のしれないブラックボックス感が漂っていた。こういう男を書かせると安達は圧倒的にうまい。

 教師としてのモラルにこだわるあまりボロボロになっていく修二の姿は、当時は滑稽に見えたが、以降の作品に連なる安達らしいキャラクターだったと言えよう。

 本作は安達の地上波連続ドラマのデビュー作だ。それ以前はヤングシナリオ大賞受賞後に書いた単発ドラマ『冬空に月は輝く』(フジテレビ系)と、配信ドラマ『21世紀の観覧車』のみだったため、月9でオリジナル作品を全話執筆するというのは、大抜擢だったように見える。

 しかし、これには理由があった。プロデューサーの増本淳は、第1話のプロットを途中まで書いた後、10人ほどの脚本家に発注して出来のよかった本を採用するというコンペ方式で進めていたという。つまり、別の脚本家が途中から書いてもおかしくない状況だったのだが、安達の脚本が優れていたため、結果的に全話執筆となったのだ。

 そういった背景を踏まえると、本作の勢いは「出し惜しみできない」という独自の緊張感から生まれたのかもしれない。

■プロデューサー・増本淳との二人三脚

 一方、同じ月9で2012年に書かれたのが、IT企業を舞台にしたドラマ『リッチマン、プアウーマン』だ。ITベンチャー企業の社長・日向徹(小栗旬)と就活中の東大理工学部の夏井真琴(石原さとみ)が、衝突しながらも次第に同じ目的に向かって邁進していく姿を描いた、お仕事&恋愛ドラマという月9の王道的作りの作品だが、ドラマをより面白くしていたのが副社長の朝比奈恒介(井浦新)。

 当初はワンマン社長の日向に愛想を尽かしての権力抗争に思えるのだが、だんだん朝比奈が向ける日向に対する屈折した愛憎が物語を支配していく。『きのう何食べた?』がヒットした現代の視点でみれば、これはBL(ボーイズラブ)だなと思うのだが、まさか、当時の月9の恋愛ドラマで、BLをやるとは思っていなかったので、衝撃だった。『大切なことはすべて君が教えてくれた』に比べるとだいぶわかりやすくなったが、それでも全体的に過剰で、お仕事モノとしても恋愛ドラマとしても面白い。

 この辺りはプロデューサーの増本淳の舵取りが大きい。漫画で言うところの、編集者の役割を果たすことで脚本の質を高めていったのだろう。

 そんな安達と増本の最高傑作と言えるのが、2013年の『Oh, My Dad!!』(フジテレビ系)だ。妻に逃げられた40代の科学者・新海元一(織田裕二)がシングルファーザーとして息子の世話をしながら大企業の就職を目指す姿を描いた本作は、新型エネルギー開発をめぐる大きな物語と家族の小さな物語を同時に追求したドラマだ。

 「最高傑作」と書いたのは二人が追求してきた「テクノロジーと人間の関係」というテーマにおいてだが、研究に没頭するあまり家庭を崩壊させてしまう新海のダメな姿が見ていて辛く、当時はヒットせずに埋もれた作品となってしまったが、逆に言うとそれだけ嘘がないということである。

 安達の作風はハードな社会派で、物語におけるご都合主義を許さない厳しさがある。同時に「働くとはどういうことか?」「母性とは何か?」といった問いを、剛速球で投げてくる。こういった作家性は、恋愛や仕事の楽しさを描くフジテレビ系のドラマにおいてはノイズとなっていたため、作家としての認知は、だいぶ遅れてしまった。

 しかし初期の(作家性と商業性が衝突する)フジテレビで書いた連続ドラマには、その衝突からしか生まれない迫力があり、むしろ早すぎた傑作だと言える。『大切なことはすべて君が教えてくれた』以外の2作はFODで配信されているので、『透明なゆりかご』や『きのう何食べた?』で安達の作品を知った人も、是非、この機会に観てほしい。

(成馬零一)

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