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いま、最高の一本に出会える

『リーガル・ハート』は弁護士ドラマのイメージを更新する 『プロジェクトX』に共通する世界観

リアルサウンド

19/9/2(月) 6:00

 『リーガル・ハート~いのちの再建弁護士~』(テレビ東京)が9月2日に最終回を迎える。司法制度改革を経て各分野で法律家が活躍する時代となったが、ドラマの世界でも新しい試みが見られる。2018年にスタートしたドラマBiz(テレビ東京)は、毎週月曜夜10時というビジネスパーソンが視聴できる時間帯に、企業買収や職場のハラスメントなどを題材にした作品を送り出してきた。『リーガル・ハート』の原作は、現役弁護士・村松謙一氏による『いのちの再建弁護士 会社と家族を生き返らせる』(角川文庫/KADOKAWA刊)で、同枠6作目にして初のノンフィクション原作となった。

参考:会社経営×スポーツの必勝パターンに限らない? 『ノーサイド・ゲーム』から考える日曜劇場の変化

 主人公の弁護士・村越誠一を演じるのは反町隆史。妻・祥子を和久井映見が演じており、反町と和久井の共演は『バージンロード』(フジテレビ系)以来22年ぶり。『グッドワイフ』(TBS系)の記憶も新しい橋爪功を村越の師匠・米倉弁護士に、村越を支える法律事務所の事務員・永井茜役に『リーガル・ハイ』(フジテレビ系)にも出演した小池栄子を起用するなど、キャスティングも話題性豊富だ。『カンブリア宮殿』(テレビ東京)でインタビュアーを務める小池は、『ヘッドハンター』に続いて、2度目のドラマBiz登板となった。

 ドラマBiz初となる法律家が主役の『リーガル・ハート』は、他の法廷ドラマにはない特色がある。近年、弁護士や検察官を主人公にしたドラマ作品は増えており、“型破りで正義感の強い”ヒーローというイメージが定着しつつある。使命感に燃え、他の弁護士が手をつけない困難な事件を受任する点で、『リーガル・ハート』の村越も、それら主人公の系譜に連なる。しかし、「企業を救うことはいのちを救うこと」という信念を持つ村越の戦場は裁判所に限られない。全国各地、クライアントの工場や魚市場、介護施設など、必要とあれば、どんな場所にでも赴く村越のスタンスは、「弁護士=法廷で弁論する人」というステレオタイプの対極にある。

 年間8,000件以上と言われる中小企業の倒産は実態が表に出にくく、ニュースにならないことも多い。裁判所を通じて行う強制力を伴った「民事再生」や「会社更生」に加えて、金融機関との話し合いで債務を縮小し、中長期的に収益体質へ転換する「私的整理」を活用するのが村越の手法の特徴である。一般の視聴者にとって、やや踏み込んだ専門性の高い内容だが、ドラマでは説明的な要素を最小限にとどめつつ、進行上ポイントになる場面でフリップを挿入するといった工夫がされている。

 原作で村松氏は「再建弁護士の守備範囲は、法律的なことに留まらず、経営の分野に及んでいる」と語っている。中小企業にとって企業再生は究極の経営判断を迫られる場面であり、経営コンサルタントの領域に接する『リーガル・ハート』のキャラクター設定は、法廷ドラマで見慣れた弁護士のイメージを更新するものだ。

 『リーガル・ハート』で主人公が経営者と二人三脚で倒産の危機を乗り越えていく様子は、実話をベースとするだけに非常に見ごたえがある。モデルとなった村松氏の取り組みは『プロフェッショナル 仕事の流儀』(NHK総合)でも紹介され、大きな反響を呼んだ。その道の第一人者の仕事ぶりに光をあてる同番組と「働く人たちをテーマにした経済ドラマ」というドラマBizのコンセプトには高い親和性がある。

  また、企業を舞台にしたドラマと言えば、真っ先に思い起こすのがTBS日曜劇場である。銀行マンや中小企業の奮闘を描くストーリーから「ドラマ版『プロジェクトX』」と呼ばれることもある日曜劇場だが、『プロジェクトX~挑戦者たち~』(NHK総合)とDNAを共有する後継番組『プロフェッショナル』の世界観をドラマに投影したのが、ドラマBizと考えることもできる。当初は日曜劇場の補完的な立ち位置と考えられていたドラマBizだが、リアリティのある設定と丁寧なディテールの蓄積によって、ここに至って日曜劇場に匹敵しうるクオリティとドラマ性を獲得しつつあると言えるだろう。

 本作のタイトル「リーガル・ハート」。事件解決にあたる弁護士や裁判官の本質的な思考方法である「リーガル・マインド」に対して、企業を単なる財産や人の集まりではなく、「いのち」を支える存在として描く本作には、人間に対する真摯なまなざしが貫かれている。ビジネスと法律が交差する場所で生まれるヒューマンドラマが『リーガル・ハート』なのである。

 第6話で弁護士として最大級の危機を迎えた村越。あらためて「いのちの再建」の真価が問われるなか、村越はどんな言葉を投げかけるのか。注目して見守りたい。

■石河コウヘイ
エンタメライター、「じっちゃんの名にかけて」。東京辺境で音楽やドラマについての文章を書いています。

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