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失った“明日”は戻らないのか?「少年社中」19年ぶりの『DROP』上演中!

ぴあ

少年社中『DROP』より

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劇団「少年社中」の約2年ぶりの本公演となる第28回公演『DROP』が、9月2日に東京・紀伊國屋ホールで開幕した。それに先駆け行われた公開ゲネプロ(【Team Dumpty】バージョン)のレポートをお届けする。(※写真はTEAM HUMPTYのもの)

『DROP』は、「少年社中」が早稲田演劇研究会時代に上演した演目(DEAD TECH WORLD#1「DROP」/’02年)で、劇団の主宰で作・演出を手掛ける毛利亘宏が改稿し、19年ぶりに上演される。少年社中としては珍しいダブルキャスト体制となり、井俣太良ら劇団員に、赤澤燈、橋本真一、森田桐矢、小関舞、後藤萌咲、相馬圭祐、安西慎太郎を迎え、<最少人数で最強>の10人ずつのチーム【Team Humpty】【Team Dumpty】に分けて上演する(井俣と赤澤のみ両チームにそれぞれ別役として参加)。以下、内容にも触れながらレポートする。

舞台上は薄暗い世界。天井から何本も棒のようなものがぶら下がっており、サイドには鉄格子もある(少年社中のSNSを見ると、ぶら下がった棒の美術は初演を踏襲したもののようだ)。登場人物は皆、黒い衣裳に身を包み、どこか退廃的なムードも漂わせる。

物語は、眠りから覚めた小説家(大竹えり/杉山未央)の「ここはどこ?」「私は誰?」という困惑から始まる。彼女はある事件で記憶障害となり、目を覚ますと記憶を失ってしまう。そんな彼女を支えているのは幼馴染の編集者(内山智絵/加藤良子)だ。小説家である彼女のICレコーダーには、口述筆記で紡がれたストーリーが吹き込まれている。それは、5人の男が“DROP”された迷宮の物語。かつて『明日』は卵から生まれており、この迷宮は『明日』の卵が孵化する重要な場所だった。そこに閉じ込められたオービット(井俣太良/赤澤燈)、スフィア(橋本真一/堀池直毅)、ビーズ(廿浦裕介/森田桐矢)、リング(相馬圭祐/竹内尚文)、ボウル(山川ありそ/安西慎太郎)は罪を犯した者たちで、Badman(赤澤燈/井俣太良)に告げられたルールに従い“5つの卵”を集めれば、脱出できるという。しかしそこに、Go_dman(長谷川太郎/川本裕之)や死人(しびと・小関舞/後藤萌咲)という謎の存在もあらわれ――。

小説家は記憶を取り戻そうと奔走し、物語の登場人物たちは迷宮から抜け出そうと奔走する。登場人物たちだけでなく、観客も、誰が信じるに足る相手なのか、誰が敵なのか、これから先にはなにが待ち受けているのかわからないまま進んでいく展開はスリリングだ。信じたり、疑ったり、不安に思ったり、安心したり、どんどん動く感情と舞台上の物語が呼応するように進んでいく感覚はたまらない。その中で少しずつ明らかになっていく、小説家の記憶の断片や物語の登場人物の過去。それらの多くは想像以上にハードで、思わず引いてしまいそうになる瞬間もあるのだが、役者陣の生々しい芝居がガシッと掴んで離してくれない。これは劇場という、簡単には逃げることのできない場所だからこそのものでもあるだろう。自分も迷宮に巻き込まれ、出口を求めているような感覚になっていく。

全く違うはずのふたつの世界は何度も絡まりながら進行していく。積み重なっていくものに、ハッピーエンドにはならないかもしれないと感じさせられながら、最後の最後までもがきながら進んでいく小説家らに祈るような気持ちになった。彼らが果たしてどんな“明日”を見つけるのか、ぜひ確認してもらいたい作品だ。

「少年社中」ならではの濃密な時間の中、剥き出しともいえる登場人物たちの感情が生々しく胸に飛び込んできた本作。だからこそ、今回取材した【Team Dumpty】バージョンと、安西慎太郎らが出演する【Team Humpty】バージョンでも、全く違うものになるのだろうと確信する。見比べることもオススメしたい。

上演時間は約1時間40分。『DROP』は9月12日(日)まで東京・紀伊國屋ホールにて上演中。19歳以下の方を対象としたU-19チケット(※要身分証明書)も用意されている。

取材・文:中川實穗

少年社中 第38回公演【DROP】チケット情報
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2177041

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