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lynch.は私達を輝かしい未来へ連れていってくれるーーファンと久々の再会果たした日比谷野音公演を振り返る

リアルサウンド

20/12/6(日) 18:00

 様々なフェスに登場しては話題をかっさらい、コロナの影響で大打撃を受けたライブハウスへの支援プロジェクトは新聞に取り上げられるなど、今“日本で最も劇的なバンド”、lynch.。2020年は15周年ということで本来予定していたライブがことごとく中止となったが、実に半年以上ぶりの有観客でのライブ『LIVEʼ20 “FACE TO FAITH” at 日比谷野外大音楽堂』が決行された。

 久々の再会であること、長いライブロスでファンもメンバーも鬱憤が溜まっていること、この5人で初の野音となること。様々な条件が重なり、特別なライブになる予感は確かにあった。だが、このライブが宿命の時の序章になるとは誰も予想していなかった。

 ビルの隙間から白んだ半月が顔を覗かせる、雲一つない快晴の都心。日が落ちかけたその時、宵闇を引き連れて荘厳なSEと共に彼らはステージに現れた。久方ぶりのステージをゆっくり踏みしめる姿とは裏腹に、瞳の奥には獰猛な飢えを宿している鴉達。この日は大声を出してはいけないというコロナ対策のアナウンスがあったため、影達は声の代わりに拍手とは名ばかりの破裂音でメンバーを待ち構える。ずっと待ち望んでいた葉月(Vo)の「lynch.です、よろしくお願いします!」という恒例の挨拶と共に、電子音が砲弾のように飛んでくる。「やろうぜ野音!」と「OBVIOUS」で火蓋が切って落とされる。一挙手一投足にこれまでの鬱憤を吐き出すかの如く、メンバーは全身から怒涛のオーラを放つ。楽器隊の演奏、コーラス、そして葉月のシャウト。どれもいつもより一段と熱を帯びて、身体の芯を揺さぶるエネルギーに満ちている。準備運動はここまでだ、と言わんばかりに「ようこそ! 処刑台へ!」と「GALLOWS」を投下。つんざくようなシャウトで空から光を奪っていく葉月。低い姿勢から超低音のガテラルを繰り出す様は野性そのもの。牙を剥き出しの獣と対峙したフロアは頭を激しく振って応戦する。

 気づけば辺りは黒に包まれ、一層物々しい雰囲気の中「GREED」、「GROTESQUE」と続き、ステージ上の火照った雄達は妖艶な色気を撒き散らしていく。前回の野音で不在だった明徳(Ba)が想いを述べたMCを挟み、「EVOKE」、「MIRRORS」とアグレッシブな楽曲を連ねていく。本来であればフロアから大合唱が響く2曲だが、葉月はいつも通りに煽り、フロアが歌えるように隙間を作る。実際にフロアから歌声が聴こえてきているわけではない。だが、たしかに前回の無観客配信ライブの時より鮮明に大合唱の幻影が脳内を行き交う。ボルテージを上げていくフロアへ「今日はお前らの手をパンパンに腫らせて帰るからな!」と「BLØOD」、「UNTIL I DIE」で追撃し、前半戦は攻撃の手を緩めず進行した。

 暗転して闇に包まれたステージから「an illusion」が繰り出されると、悠介(Gt)の十八番ともいえるディレイサウンドと極彩色の照明が絡み合い、夜空に会場ごと飛んでいくような浮遊感を覚える。「BE STRONG」で屋外の冷気を取り込んで会場の空気が深々と張り詰めた後、炎の明かりの中「SORROW」が紡がれる。曲中の〈悲しい思いをさせてしまったね〉の言葉がいつになく悲壮感を帯びる。また、楽曲最後で葉月がアカペラで歌い出すと、会場は衣擦れの音すら気取られるような緊張感と静寂に包まれた。呼吸すら忘れた次の瞬間、「PLEDGE」が限界まで張り詰めたガラスのような空気を叩き割っていく。さらに「ここからは皆さんの大好きな暴れる曲が続きますから! やっちゃってもらっていいっすか!」と「CREATURE」、「EVIDENCE」、「FAITH」と烈火のごとく畳み掛け、歌モノを続けて惹きつけたフロアを一気に燃やす。

 続けて葉月は晁直(Dr)、悠介、玲央(Gt)を紹介し、自己紹介も済ませたところで名前を呼ばれなかった明徳がやや遅れて葉月の元に駆け寄る。「ちょっと入ってくるの遅いね、リハビリが必要です(笑)」と冗談を言いつつ「野音童貞今夜卒業! On Bass!明徳!」と紹介し、「INVADER」が炸裂。アドリブも織り交ぜたバキバキのスラップが夜の日比谷を切り裂く。終盤に向けてフロアの熱量が最高潮になってきたところへ葉月から「外ですからね、この日比谷の街の不特定多数の人に聞かれてることを肝に銘じて、言葉に気を付けながら、慎重に、デリケートに話したいと思います。約2000人の皆さん……青姦したことありますか! 今日もこの雲一つない快晴の中! 恥ずかしげもなく! 日比谷の全員に聴こえるような音で! 僕達5人とセックスしませんか!」と大胆なお誘い。さらに「周りのビル群に向かっても高らかに宣言する。ただでさえ久々である上に“公開プレイ”となると、その興奮は尋常ではない。配信を観ている視聴者にも呼びかけ、「pulse_」へもつれ込む。待ってましたと言わんばかりの爆発力で乱れるフロア。皆が心の中で念じた「ヤリたい」の声が日比谷の街に轟いたところで「もう一曲ブチ暴れてくれますか!」と「LIGHTNING」へ。「今日この夜が皆の希望になったら最高です! 行こうぜ、未来へ!」と叫んだ葉月。まだまだ先の見えない不安な日々がずっと続いているが、この言葉にきっと多くのファンが救われたことだろう。どれだけ不安でも、どれだけ辛くても、lynch.は私達をより輝かしい未来へ連れていってくれる。闇を体現しながら光であり続ける。そんな決意を具現化するように最後の曲「from the end」が空に放たれ、ライブ本編は幕を閉じた。

 アンコールではいざ曲が始まるぞ、というタイミングで急に明徳が前回の野音でメンバーが着ていた法被を取り出し、思わず葉月が流れを止める。明徳はMCで話して“自分で空けた穴は自分で埋めます!”と法被を取り出すつもりだったらしいのだが、事前に打ち合わせをしていなかったため機を逃してしまったようだ。今度こそ、と「EXIST」でアンコールがスタートし東京の街を大いに揺らすと、ベースソロからの「THE BLASTED BACK BONE」が繰り出される。本編だけでは足りなかったといわんばかりに暴れていくフロア。続く「DON’T GIVE UP」ではフロアの分まで担うかのように、明徳と玲央の咆哮が突き抜けていく。「俺らの未来を一緒に歌ってくれますか!全員で行こうぜ、あの場所へ!」とラストを「THIRTEEN」で飾り、メンバーはステージを後にした。

 2度目のアンコールではlynch.のオフィシャルTwitterでここからの様子を無料配信する旨が発表される。lynch.の歴史的なライブを観てほしいという側面もあるが、これから発表する告知を、よりたくさんの人に聞いてほしいし、共有してほしいので急遽決定したとのこと。そして、本来15周年イヤーイベント『[XV]』のファイナル、『[XV]act:10』として予定されていたワンマンライブが告知される。自身の口から伝えたいという思いから、葉月の口から発表された。その内容に割れんばかりの拍手が巻き起こる。きっと声を出してもいい環境であれば悲鳴にも似た歓声が上がっていたことだろう。「絶対に成功させましょう! よろしくお願いします!」とバンド結成当初から目標として掲げてきた舞台への意気込みを表明し、「THE FATAL HOUR HAS COME」、「TIAMAT」で二度目の野音公演を締めくくった。

 公演終了直後、lynch.が発表したニュースはあっという間に全世界を駆け巡り、即座に「lynch.」の名はTwitterのトレンド入りを果たした。久々の有観客ライブであった本公演は、気づけば歴史的な公演の序章となり、未来への希望となったのである。今“日本で最も劇的なバンド”、lynch.。彼らはその日、シーンにおける光となる。全員で行こう、あの場所へ。2021年2月3日、lynch.『15TH ANNIVERSARY “THE FATAL HOUR HAS COME” AT 日本武道館』。

 宿命の時が来た。

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