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『空挺ドラゴンズ』登場人物の生き様が胸に迫る理由ーーファンタジーの世界で描かれる、人間の生活

リアルサウンド

20/4/18(土) 12:00

 龍を追いかけ、世界中の空を旅する捕龍船。その船に乗り、龍を捕る者達を「龍捕り(おろちとり)」と呼ぶ。『空挺ドラゴンズ』は、そんな捕龍船「クィン・ザザ号」の龍捕りの物語だ。いかにもファンタジックで、私たちの現実とはかけ離れた世界観。なのにどうして、彼らの生き様がこんなにも胸に迫るのだろうか。

参考:異色の世界グルメ紀行『空挺ドラゴンズ』は“特別な誰かの物語”ではない

 クィン・ザザ号の船員の1人・ミカは、普段はぼーっとしているのに、食事のこと――特に龍を食べることには異様に関心を持つ男だ。船の上から龍の影を見つければ目を輝かせ、「うまそう」とよだれを垂らす。誰より早く龍の背に向かって飛び降りて槍を突き立てる。毒や電気矢と呼ばれる効率的に龍を仕留める武器も、「味が落ちる」という理由で使わない。食べることしか考えていないように見えるミカを、仲間たちは呆れた目で見ている。

 龍に挑むたびにミカは言う。

「捕って解体して食う。それが龍捕りだ」
「ちゃんと獲ってちゃんと食う」

 それが繰り返されるうちに、だんだんとミカの信念が見えてくる。

「龍はただ一方的にやられるような相手じゃない。殺す覚悟の無いヤツは死ぬぞ」

 ミカは、龍をただの食料として見ているわけではない。畏怖すべき相手として捉え、そのうえで対峙しているのだ。

 そんなミカを間近で見ていたタキタはある日、龍捕りの最中に船から放り出される。落下した先で拾ったのは、龍の子どもだった。タキタは母親のように子龍に話しかけ、餌を作って与える。

「ここでこの子を見捨てたら、私、龍捕りに戻れない気がする」

 龍を捕る立場の人間が、龍を育てる。矛盾しているようにも思えるけれど、その行動はミカと通じるものがある。食糧や、害獣や、愛玩物としてではない。龍を龍らしく扱い、対峙して初めて、龍捕りは龍捕りになる。ミカにもタキタにも、そんな龍捕りのプライドが垣間見える。

 子龍を群れに返すとき、タキタはこう話しかける。

「次に会った時はきっと 私はお前を捕るんだよ」

 矛盾しているように見えるけれど、その言葉は「龍捕りのプライド」で筋が通っている。ミカにならきっと、わかるはずだ。

 一方、クィン・ザザ号のクールビューティー・ヴァナベル(ヴァニー)は、「龍狂い」ブルノと出会う。龍を愛し、調査し、記録して残すことに全力を注いでいるブルノは、龍を殺す龍捕りを蔑んでいる。

「君たちは龍を資源としか見ていないだろう」

 出会った直後こそ感じの悪いブルノだが、龍にかける好奇心と情熱の純粋さを知って、ヴァニーは関心を持つ。生き延びるため、やむを得ず龍捕りになったヴァニーにとって、龍は捕るものでしかなかった。淡々と仕事をこなしてきたけれど、ブルノと出会い、彼の見ているものを自分も見たいと思うようになる。

 狂暴化した龍を捕らえるため、手を組むことになったヴァニーとブルノ。そこで命がけの龍捕りの現場を目にし、ブルノもまた考えを改める。龍捕りの流儀に従って、初めて龍を食べる。驚くヴァニーにブルノは言う。

「それが君たちの龍への弔いなんだろう。だったら僕が一番食べる!!」

 ミカとタキタ。ヴァニーとブルノ。年齢も性別も思想も違う者達が、龍を介して少しずつわかり合っていく。

 この4人だけではない。クィン・ザザ号には何人も船員がいて、それぞれに名前があり、生い立ちがあり、船に乗った理由がある。ある者は龍捕りだった父を追うように。ある者はスラムから脱するために。話が進むにつれてそれが少しずつ明らかになり、モブかと思ったキャラクターにも物語が見えてくる。

 誰も似ていないし、みんなバラバラな方向を見ている。性格も、容姿も、たまの休日の過ごし方も違う。そんな彼らが、同じ船の上で一緒に龍を捕り、食べる。タイプが違う相手でも、同じ釜の飯を食っているうちに仲良くなっていたりする。

 空飛ぶ船だとか、龍とか、ファンタジーだとか、そういうことは関係ない。『空挺ドラゴンズ』で描かれているのは、私たちの現実と同じ、社会であり、人間であり、生活だ。

 現実世界には捕龍船はない。龍捕りもいない。龍の美味しさを知ることもできない。でも、私たちは彼らの感情を知っている。人と関わることの難しさと、わかり合えた時の喜びを知っている。だからこそ、精一杯「生活」している彼らの姿に、こんなにも胸がいっぱいになるのだ。(満島エリオ)

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