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【おとな向け映画ガイド】

女性の生きづらさを描いた2作品。コロナ禍の『女たち』、北マケドニアの『ペトルーニャに祝福を』。

ぴあ編集部 坂口英明
21/5/16(日)

イラストレーション:高松啓二

今週末(5/21〜22)に公開される映画は17本(5/14時点)。緊急事態宣言延長、エリア拡大の影響で公開日や映画館の営業時間は流動的です。ご鑑賞の際は、作品や映画館の公式サイトで上映時間などをご確認いただいたうえでお楽しみください。今回ご紹介する作品は、昨年春から1年遅れて5/22に公開される珍しい北マケドニア映画と、やはり延期により6/1の公開となったコロナ禍の女性が主人公の日本映画をご紹介します。

コロナ禍、山間の田舎町で……
『女たち』



篠原ゆき子さんを最初に意識したのは『深夜食堂』シリーズです。光石研とチームを組む新宿署の女刑事(目標はハリー・キャラハン!)。といってもかっこいい役ではありません。仕事帰りに店に立ち寄り、「レバニラ炒め」か「ニラレバ炒め」かいつも光石と揉める。色気のない男女の性差をこえたバディものといいましょうか。いつも登場が楽しみでした。そろそろアラフォー、とびっきりの美人でもないし、かといってアクも強くない。フレンドリーで、そうあなたの隣にいそうな、いい感じの女性。『相棒』にもでていましたね。その篠原ゆき子主演作です。

山間の田舎町、撮影は群馬の富岡あたりで行われています。のどかで緑にあふれた土地です。美咲(篠原)は母とふたりで暮らしています。仕事は地域の学童保育所や、親友・香織(倉科カナ)が営む養蜂所の手伝い。最大の悩みは母(高畑淳子)のこと。病で半身不随、不自由な口からでてくるのは美咲をなじる言葉ばかり(鬼気迫る演技!)。介護ヘルパーの手を借りなければ日常生活もままなりません。そのヘルパーさんの男性・直樹(窪塚俊介)とは、結婚を考えてつきあっていたのですが…。テレビではコロナ禍のニュースを伝えています。美咲の周辺にも次々と、心がキレてしまいそうなつらい出来事が押し寄せます。

監督はPFF出身の内田伸輝。逃げ場がない日々のなか、養蜂場でワインを傾けながら親友とつかのまの語らい。そのときの空の青さ、樹々の緑。美咲をやさしく包み込み、見守るような監督の視線を感じます。結末にも納得です。終盤に流れる、荒木一郎の名曲『妖精の詩』がなんともステキです。「さみしくないとはいえないけど…」そんな歌詞が耳にしみじみ残ります。

【ぴあ水先案内から】

笠井信輔さん(フリーアナウンサー)
「……凄まじい母と娘の精神的格闘技映画! 主演(娘)篠原ゆき子VS 共演(母)高畑淳子の闘いは、高畑のモンスター級の強烈な芝居によって、母の介護を担う篠原が円形脱毛症になるほど(ホント)神経を擦り減らしたと聞く。確かに見ていられないほどの闘いだ。……」
https://bit.ly/2QeWvda

平辻哲也さん(映画ジャーナリスト)
「……コロナ禍前にあった企画をブラッシュアップし、コロナ禍の日常を盛り込むことで、ヒロインのギリギリ感が、より切実になった。……」
https://bit.ly/3ffUxlt

野村正昭さん(映画評論家)
「……内田伸輝監督は、余分な贅肉を削りとり、ひたすら登場人物の心理を注視し、美しい自然との対比の中で、それはさらに浮き彫りにされる。……」
https://bit.ly/3hqZtqm

首都圏は、6/1(火)からTOHOシネマズシャンテで公開。中部は、伏見ミリオン座他で近日公開。関西は、大阪ステーションシティシネマ他で近日公開。



私は幸せになりたい!
『ペトルーニャに祝福を』



同調圧力、女性蔑視…、こめられたテーマはシリアスなものですが、独特の東欧的ユーモアと言いますか、のんびりとしている割には皮肉も効いている、まさにおとな向きの映画です。

マケドニア、といえば世界史で習ったアレクサンドロス大王の大帝国をイメージしますが、あれは2300年も前の話。いまは、ユーゴスラビアから独立した人口200万人くらいの小国です。ギリシャとの国名本家争いがあり、2019年に「北マケドニア」を名乗ることで落ち着いた国。映画制作はそんなに活発ではなく、日本で公開されるマケドニア作品は20年ぶりだそうです。

主人公のペトルーニャは32歳の女性。大学をオールAで卒業したものの、職はなく、その日も縫製工場の面接に出かけたのですが、年齢を誤魔化して「20歳です」といったら「42歳に見えるよ」と完全セクハラのイヤミを言われ、腐りながらの帰り道。偶然ある宗教行事に出くわして、彼女の人生が一変します。

北マケドニアの主な宗教はキリスト教系の東方正教会。1月の「神現祭」では、司祭が十字架を川に投げ込み、それを男だけが競って奪い合うという行事があります。最初に掴み取ったものは、幸せになれる。目の前に飛んできたので、ペトルーニャは川に飛び込み、なんと十字架を手にしてしまいます…。大騒ぎとなり、彼女は警察に拘束されます。その様子を地元のテレビが報じ、話は社会問題化していくのです。

監督のテオナ・ストゥルガル・ミテフスカは北マケドニアの出身。実際に2014年に起きた事件を下敷きにして映画化しています。幸せを求める人に向けて、投げ込まれた十字架。「幸せになる権利は私にもあるはず」、ペトルーニャの言葉は全く正しいと思えます。

【ぴあ水先案内から】

池上彰さん(ジャーナリスト)
「……そういえば日本の相撲の土俵も女人禁制だったと思い出すのですが、きっとペトルーニャのような女性によって、『伝統』の名の下の女性差別は消えていくことになるのでしょう。」
https://bit.ly/3ohwBSw

春日太一さん(映画史・時代劇研究家)
「……寒々しく荒涼としたマケドニアの景色がヒロインを取り巻く過酷な状況にマッチ、その理不尽さを際立たせていた。」
https://bit.ly/2QhU6P3

首都圏は、5/22(土)から岩波ホールで公開。中部は、6/12(土)から名演小劇場で公開。関西は、6/11(金)からテアトル梅田他で公開。

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