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『カネ恋』玲子と慶太の繕いの先には何がある? 恋愛ドラマに“お金”を持ち込む新しさ

リアルサウンド

20/10/5(月) 8:00

 『おカネの切れ目が恋のはじまり』(TBS系、以下『カネ恋』)がもう間もなく最終話を迎えるが、恋愛ドラマに「お金」を持ち出したのは珍しく画期的な題材と言えるだろう。

 まず、地味でお堅いイメージのある経理部社員で恋に奥手な“清貧女子”が主人公と聞いて、『これは経費で落ちません!』(NHK総合、以下『これ経』)を連想した人も少なくないのではないだろうか。「ほころび」が気になる九鬼玲子(松岡茉優)と、「ウサギ」を追ってしまう森若沙名子(多部未華子)という属性やキャラクターが近しい主人公。それから森若さんの恋のお相手だった営業部のエース・山田太陽(重岡大毅)が、『カネ恋』で言うところの北村匠海演じる板垣純と少し重なる。

 ただ、『これ経』は経費申請を通して見えてくる職場トラブル・人間関係にフォーカスしたあくまで“お仕事ドラマ”であり、森若さんと太陽くんの恋愛はサイドストーリー的な扱いだったのに対して、本作は恋愛と金銭感覚、人生や人間関係とお金というテーマを主軸に置いた“ラブコメ”であり、そもそも立ち位置が違う。そう考えるとやはり女性向けの恋愛ドラマ内でここまで“お金”を大々的に扱った作品は、本作が初だと言えるのではないだろうか。

 “お金”について触れた恋愛ドラマと言えば、20年前の名作『やまとなでしこ』(フジテレビ系)が挙げられる。玉の輿結婚を狙うCAの神野桜子(松嶋菜々子)が主人公だが、『カネ恋』での慶太の元恋人の聖徳まりあ(星蘭ひとみ)と指向性が似ている。当時とは時代背景も異なり、一概に比較はできないものの、『やまとなでしこ』では桜子の明け透けな性格から「お金か? 愛か?」というような極端な二択が明示されていた。しかし、現実問題ここまで極端な二者択一に迫られるケースの方がレアであり、“お金”と“結婚などの共同生活”はもっと密接なものである。『カネ恋』では愛もお金も包括して、この2つを切っても切り離せない関係として捉えられているのが新しく、自然で受け入れやすい内容に仕上がっているのだと思われる。

 また本作で特徴的な点は、なんと言っても三浦春馬演じる“浪費男子”の猿渡慶太の存在だろう。これまでも恋愛ドラマで御曹司が恋のお相手という設定は珍しくなかったが、彼らは“浪費”ではなく自分の持てる権力の当然の行使として、あるいはステータスの証明として“お金”を使いその効力を当たり前に享受していたのであって、ここまで明からさまに「無駄遣い」をする“男性”が描かれることはなかったように思う。『やまとなでしこ』の桜子にしてもそうだが、浪費家として描かれるのは圧倒的に女性側だった。

 そして面白いのが、慶太が自分の境遇や、母親から愛情の証として33歳になった今でも頻繁にお小遣いを手渡されるという特殊な家庭環境に対してあまり悲観視していない点だ。同じく御曹司として描かれた『花より男子』(TBS系)での道明寺司(松本潤)は何事もお金で解決しようとする母親の姿に心底辟易し、どこか虚無を抱えていた。この「虚無感」が今のところ慶太には見受けられない。

 ただ、この「虚無感」を感じさせない慶太のキャラクターこそがミソなのだ。日本人の価値観にも紐づいているのだろうが、どうしても“お金”を題材にしてしまうと、俗物的になりすぎてやらしさが出てしまいかねないところを、慶太の全くの罪悪感を伴わない浪費ぶり、そして人懐っこくて、誰に対しても分け隔てのない天性の愛されキャラ、また自分の立場を鼻にかけることもなく自虐もできてしまう親しみやすいオーラによって、この難しい掛け合わせが嫌味なく描かれているのだ。

 そしてもう1点、本作がいわゆる恋愛ものの鉄板“価値観が正反対の2人が惹かれ合う”ストーリーにのみ留まらないのが、片方にのみ「ほころび」がある訳ではない点にあるだろう。第1話後半早々にその種明かしがされる訳だが、玲子自身も15年間片想いし続けてきた初恋相手・早乙女健(三浦翔平)に一方的に過剰に貢ぎ続けていることが発覚する。立場が反転することで、お金の使い道とは本当に十人十色でそれぞれの価値観や嗜好がダイレクトに反映されるものであることが強調される。

 極論どんな使い道であっても自身が幸せを感じられるのであれば、その消費は誰かに咎められるものではない。ただ、何か“満たされなさ”をごまかすために、それを少しでも解消しようとお金を投じているのであれば、それは“満たされなさ”を増幅させてしまうことに繋がりかねない。「とっておきの1つ」に出会うためには、また誰かにとっての「かけがえのない1人」になるには、代替品を手放してみる、“不要なもの”(=自分にとって不都合な事実)に向き合ってみることから始まるのかもしれない。玲子と慶太の繕いの先に、どんな展開が待ち受けているのか慈しみながら残り1話も噛み締めたい。

■楳田 佳香
元出版社勤務。現在都内OL時々ライター業。三度の飯より映画・ドラマが好きで劇場鑑賞映画本数は年間約100本。Twitter

■放送情報
火曜ドラマ『おカネの切れ目が恋のはじまり』
TBS系にて、毎週火曜22:00~ 22:57放送
出演:松岡茉優、三浦春馬、三浦翔平、北村匠海、星蘭ひとみ(宝塚歌劇団)、大友花恋、稲田直樹(アインシュタイン)、中村里帆、八木優、河井ゆずる(アインシュタイン)、キムラ緑子、ファーストサマーウイカ、池田成志、南果歩、草刈正雄
ゲスト出演:梶裕貴、岡本莉音、トミー(水溜りボンド)、登坂淳一
脚本:大島里美
演出:平野俊一、木村ひさし
プロデュース:東仲恵吾
主題歌:Mr.Children「turn over?」(トイズファクトリー)
製作著作:TBS
(c)TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/KANEKOI_tbs/
公式Twitter:https://twitter.com/kanekoi_tbs

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