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田中泰の「クラシック新発見」

「ホテルグランバッハ東京銀座」の愉悦

隔週連載

第22回

「ホテルグランバッハ東京銀座」オープン記念パーティの様子

2021年11月30日、“クラシック音楽の父”と称えられる作曲家ヨハン・セバスチャン・バッハ(1685-1750)をテーマとした「ホテルグランバッハ東京銀座」がオープンした。

それに先立つ11月24日にはオープン記念のパーティが開催され、セレモニーの中では、料理やデザートの紹介とともにバッハの音楽が披露されたことがとても印象的だ。通常のホテルとはひと味違う「ホテルグランバッハ東京銀座」ならではの個性的な一面が来賓の心を掴んだことは言うまでもないが、何よりその演奏者の顔ぶれが素晴らしい。

世界最高峰のバッハ演奏団体「バッハ・コレギウム・ジャパン(BCJ)」の古楽器トランペット奏者3人によるファンファーレで幕を開けたミニコンサートは、BCJ首席指揮者で鍵盤楽器奏者の鈴木優人によるリモート・ピアノ演奏へと続く。ここで演奏者と共に注目を集めたのがヤマハの自動演奏機能付きピアノ(S6X-ENPRO)だ。鈴木優人による事前収録演奏が大型スクリーンに映し出され、映像にリンクしたピアノが無人で音楽を奏でる様子は摩訶不思議の極み。チェンバロの時代に活躍し、ピアノの存在すら知らないバッハがこれを見たら、驚いて腰を抜かすのではないだろうか。

そして最後は、BCJ音楽監督で指揮者&鍵盤楽器奏者の鈴木雅明によるチェンバロの生演奏だ。バッハの『半音階的幻想曲とフーガ』の荘厳な調べが、ホテルのオープンを祝福する瞬間は、ホテルを彩る歴史の輝かしい1頁となるに違いない。そして、今後定期的に開催されるというコンサートにも期待したい。

「ホテルグランバッハ東京銀座」オープン記念パーティの様子

それにしてもなぜホテルのテーマがバッハなのだろう。

「バッハの願いは、音楽という普遍的な世界での宗派や言語を超えた“調和”でした。そしてバッハの音楽の素晴らしさは、人種や宗教、時代を超えた“究極の癒し”であると思うのです。そのバッハの音楽をホテルの落ち着いた環境の中で聴いていただくことによって、ストレス解消やリフレッシュ効果による“癒し”を感じて頂きたいと思ったのです。“私たちは食と音楽を通して癒しと感動を提供します”というホテルグランバッハのパーパス(存在意義)にもその思いが込められています」というホテル広報の言葉が清々しい。

その言葉を裏付けるように、1階のレストラン「Wald Haus(ヴァルト ハウス)」はバッハが生まれ育ったアイゼナハにあるテューリンゲンの森をイメージし、2階ボードルーム「Wald Tür(ヴァルト トゥール)」は、ライプツィヒのトーマス教会入り口扉をイメージしている。これはバッハが27年間にわたって通り抜けた教会のドアへのこだわりだ。そして2階バーラウンジの名称が、バッハの2番目の妻アンナ・マグダレーナにちなんだ「Magdalena(マグダレーナ)」というのも興味い。ちなみにバー「マグダレーナ」には、5種類のバッハ・カクテルが用意されているのも見逃せない。

筆者は、今回縁あって「ホテルグランバッハ東京銀座」館内の音楽を監修するというチャンスをいただいた。各フロアやレストラン等の施設及び、全室に備わったオーディオ設備への選曲は、普段行なっている「JAL」機内クラシックチャンネルや、ラジオにおける選曲とは一味違う醍醐味だ。中でも特にこだわりを持ったのが、全ての客室内に『ゴールドベルク変奏曲』(全曲)を設置することだった。不眠症に悩むカイザーリンク伯爵のためにバッハが作曲したとされるこの名曲を聴きながら眠りにつく贅沢は、バッハの名を冠したホテルだからこそのサービスに違いない。鈴木雅明のチェンバロ版と、グレン・グールドのピアノ版の2種類が楽しめるのでぜひご体験あれ。

筆者監修の選曲リスト

というわけで、この数週間バッハの音楽を聴き続けた成果を読者の皆さんと共有すべく、筆者がナビゲーターを務める「J -waveモーニングクラシック」では、12月6日から9日までの4日間にわたってJ.S.バッハを特集予定。バッハの素晴らしい世界をぜひご堪能いただきたい。

「J-waveモーニングクラシック」
https://www.j-wave.co.jp/original/tmr/classic/

「ホテルグランバッハ東京銀座」公式ホームページ
https://www.grandbach.co.jp/ginza/

プロフィール

田中泰

1957年生まれ。1988年ぴあ入社以来、一貫してクラシックジャンルを担当し、2008年スプートニクを設立して独立。J-WAVE『モーニングクラシック』『JAL機内クラシックチャンネル』などの構成を通じてクラシックの普及に努める毎日を送っている。一般財団法人日本クラシックソムリエ協会代表理事、スプートニク代表取締役プロデューサー。

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