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Zoomgals、LEX、Cookie Plant、Tohji……2021年以降のヒップホップシーンの展望 有識者3名による座談会(後編)

リアルサウンド

21/1/3(日) 12:00

 『フリースタイルダンジョン』(テレビ朝日系)から火がついたMCバトルブーム以降、ヒップホップはコアな音楽ファンだけでなくお茶の間にも広がりをみせている。音楽シーンにおける存在感もさらに高まり、昨年2020年にはCreepy Nutsが大きな飛躍を遂げたほか、Awichが7月にメジャーデビューを果たしたことも話題となった。そして、2019年にアルバム『GODBREATH BUDDHACESS』を発売し熱狂的な人気を集める舐達麻は、現在あらゆるメディアで取り上げられ、彼らの音楽性について様々な議論が繰り広げられている。

 リアルサウンドでは、二木信氏、斎井直史氏、市川タツキ氏を招き座談会を企画。後編となる本稿では、2021年以降におけるヒップホップシーンの変化、また今後の飛躍に期待したいアーティストについても語ってもらった(前編はこちら)。(編集部)

“ダンスとラップの結びつき”も鍵に?

ーー2020年のシーンの傾向を踏まえて、2021年以降のヒップホップシーンはどう変化していくと思いますか?

二木:難しい問いですけど、2020年は、ダンスとラップまたはダンスミュージックという観点でユニークな作品がたくさん出ています。それが、2021年にさらにどんな展開を見せるかは注目しています。例えば、Cookie Plantというクルーは新鮮だった。彼らは今年『Cookie Tape Vol.2』という作品を発表しています。よりダイレクトに彼らの魅力を理解するには、2019年末にYouTubeにアップされた、メンバーのYUNG NIGOとMaddy Somaの「New Buddha」と「Ninja Mode」(両曲とも『Cookie Tape Vol.2』収録)のMVを観るのがいいと思います。ダンスとラップが結びついた時の独特の躍動感があります。

Maddy Soma & YUNG NIGO – Ninja Mode

市川:ダンサブルになっていくっていう。

二木:ダンサブルなヒップホップがもっと増えたら楽しいだろうな、と。

斎井:韻を踏み倒すとは違う価値観のリズムの取り方なんですよね。その話聞いてると、ダンサー出身であるThe Pharcydeがアメリカ西海岸のラップの流れを変えたことや、彼らの影響を大きく受けているRIP SLYMEの存在の重要性にも話が膨らんでしまいそうですね。ダンサーらしいリズム解釈の曲は、シーンを変えるタイミングで必ず出てきますよね。

二木:それはありますね。2017年に「Cho Wavy De Gomenne」と「Cho Wavy De Gomenne Remix feat.SALU」がバズって大人気になったJP THE WAVYも元々ダンサーで、Cookie PlantのMaddy SomaとJP THE WAVYは、D.T.R.I(Do The Right Inc.)として一緒に「Memories」(2018年)という曲を出しています。

斎井:僕の中でダンスって「ルーティンで表現するダンス」と、「リズムの乗り方が自然と様になるダンス」の2種類があって。日本ってルーティン的なダンスは活発だけど、自然と音に自由に乗るダンスは苦手な国民性だとおもうんです。それを踏まえて、「DJ CHARI & DJ TATSUKI – JET MODE feat. Tyson, SANTAWORLDVIEW, MonyHorse & ZOT on the WAVE」にも参加してるTysonは、ラップのフロウから後者のタイプがうまい人だと思うんですよね。今後、彼がどんな曲を出してくれるのかを楽しみにしています。

DJ CHARI & DJ TATSUKI – JET MODE feat. Tyson, SANTAWORLDVIEW, MonyHorse & ZOT on the WAVE

二木:ダンスミュージックの解放感を表現していると言えば、Tohjiがいますね。Elle Teresa、UNEDUCATED KID、Futuristic Swaverとの「GOKU VIBES」(「JET MODE」と共にDJ CHARI & DJ TATSUKI『GOLDEN ROUTE』に収録)でも突き抜けていましたが、Tohjiのソロ曲「Oreo」には良い意味で意表を突かれました。ビートはなく、アシッド感のあるシンセのフレーズを鳴らしたドリーミーなトラックでラップするという。そうした、広義におけるレイヴに接近するヒップホップのアーティストやラッパーのいろんなスタイルが出てきたのも2020年の特徴です。ゆるふわギャングが、ヘンタイカメラ♥とYOU THE ROCK★と作った『GOA』はトランス/テクノでしたし、Zoomgalsとしても大活躍だった田島ハルコがMarukido、valkneeと共作した「未来世紀ギャルニア」もトランスだった。一方で、その田島ハルコとvalkneeがラップで参加した、バイレファンキかけ子のEP『TóquioBug』に至っては、ブラジルのバイレファンキと日本語ラップの融合でした。さらに挙げていったらキリがないですけど、共通しているのは、既存のヒップホップの型式や価値観に囚われていない、またはそこから自由になろうとしている潮流があるということです。

Tohji – Oreo

斎井:Zoomgalsでいうと、valkneeが昨年出したEP『Diary』が過小評価されていたなって思って。「SUPER KAWAII OSHI」は個人的に今年一番口ずさんだ日本語ラップかもしれないです(笑)。

二木:Zoomgalsのメンバーのあっこゴリラが、食品まつりやXLII(シリー)といったプロデューサーらと共に作った『ミラクルミー e.p.』はベースミュージックが一つの要でしたね。彼女のラップや主張がパワフルに響くことに、あのサウンドとベースが大きく貢献したのは間違いないと思います。

斎井:valkneeはギャルのノリでズケズケとぶっちゃけるラップが魅力ですけど、今年出たEP『Diary』ではノリはそのままに病んだ自分の世界をテーマとした新しさがあるんですよね。「SUPER KAWAII OSHI」は全生活を”推し”に投げ打っているファンの目線ですし、「I CAN’T BE おまえの思う通り」では今までにないメロウな一面も聴かせてくれます。ギャルな雰囲気なのに、耳を傾けると実は内省的だから心を掴まれますよね。

valknee『Diary』

二木:自分は、『Diary』の中で、KOHHのパンチライン「結局見た目より中身」(「FUCK
SWAG」)の変奏に聴こえた「ハート見えない/上っ面だけ固めてるエスティローダ」と
いうリリックのある「偽バレンシアガ」がいちばん好きです。Zoomgalsには、たしかに「ギャルによるエンパワーメント」という側面もありますけど、「生きてるだけで状態異常」に顕著なように、精神的・身体的な不調……、いや、状態異常のイルな描写がリアルで素晴らしかったと思うんです。

Zoomgals – 生きてるだけで状態異常 (MV)

ーーなるほど。valkneeさんや田島ハルコさんのリリックにも根本には内省的な側面がありますよね。また、異なる角度にはなりますが内省的なリリックというと、(sic)boyさんも印象的でした。彼の言葉選びは、その世代ならではの孤独感や危うさを持っていて、人を惹きつけるものがあります。

市川:(sic)boyさんとKMさんとのコラボアルバム『CHAOS TAPE』は、J-ROCK、J-POPの影響下にあるものですよね。かつ歌詞も鋭い。例えば、「Heaven’s Drive feat.vividboooy」には〈仕組まれている緊急事態〉ってワードを入れていたり、「Kill this feat.Only U」には〈泣きたい顔隠しているマスク〉ってフレーズもあって。〈緊急事態〉とか〈マスク〉ってコロナ禍で聴くとすごく引っかかります。

二木:コロナ禍といえば、2002年生まれのラッパー/プロデューサーLEXは『i-D』のインタヴューで、アルバム『LiFE』について「トラックのバリエーションが広いのも、コロナ期間の心境の変化が自然に反映されていった結果」と語っていますね。その前の作品『NEXT』(2020年)はその名も「MDMA」というBPM160の凶暴なガバから始まり驚きましたが、一方『LiFE』の「BUNNY (feat. ASA Wu) 」などにはアフロビーツ/アフロポップとの同時代性が感じられた。また、「Romeo & Juliet」のMVは台湾のエドワード・ヤン監督の映画『牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件』にオマージュを捧げたということですし、「あなたの幸せが1番」などからはオールディーズへの憧憬が窺える。いろいろと興味深い作品です。

斎井:自分にはLEXがまるで日本におけるXXXテンタシオンのような存在に思えます。トリッキーなフロウはとてもフレッシュですが、センシティブな歌もあれば、破壊的で衝動的な曲もある。彼は心の内面すべてを曲にしているようですが、どこか手が届かないミステリアスな存在感もあり、重ねてしまいます。

市川:XXXテンタシオンって言うと、僕は(sic)boyに対してXXXテンタシオンを感じました。LEXさんはミクスチャーロックの文脈もあるのかなと。

二木:グランジとラップということで言えば、Hideyoshiの「Here」(『Dead End Adventure』収録)という曲のギターが、Nirvanaの「Smells Like Teen Spirit」を彷彿とさせたのを思い出しました。

Sounds’ Deli、Playsson、OGGYWEST……自由な表現みせる次世代ラッパー

ーー今後飛躍を遂げそうなラッパーについて皆さんの意見をお聞かせいただけますか?

市川:僕はSounds’ Deliです。BAD HOPとか舐達麻のような危険な香りがするマッチョな感じとは違う、少年感のあるようなグループです。これはNormcore Boyzにもいえることですが、彼らのような少年的なMCたちももっとシーンの前に出てきてくれたら嬉しいです。あとは、ジャンル分けが少し難しいのですが、Zattaも注目されて欲しいです。踊Foot WorksのTondenheyと、プロデューサーのTaishi Satoがやってるデュオですね。彼らはヒップホップ、R&B、あとは歌謡曲からも影響を受けた楽曲を作ってます。踊Foot WorksはJ-ROCKからの影響が強かったと思うんですけど、それとはまた違う要素を引っ張ってきていて面白い。ブラックミュージック好きの人は必聴です。あとは、¥ellow bucksとかRalphあたりが飛躍していきそうだなと思います。Ralphはあの声質とサウンドとの日本語ラップが新鮮でした。今までないスタイルだと思います。

Sound’s Deli – Sound’s Deli (Prod. kosy.) OFFICIAL MUSIC VIDEO
Zatta – HIRAME (Official Video)

斎井:今後は日本の人たちもドリルをどんどんやっていくんですかね。

市川:やってほしいなとは思います。Ralphってドリルサウンドと日本語ラップ的なフローの食い合わせっていうのがすごい新鮮ですよね。

ralph – Selfish (Prod. Double Clapperz)

斎井:自分は先ほど名前を挙げたvalkneeと、MCではありませんがプロデューサーのKMです。今まで最新のビートシーンっぽいトラックを作るイメージが強かったのですが、今年は(sic)boyとの曲は今までとまったく違うロックのビートを手掛け、JJJがKEIJUを迎えた「STRAND」でも柔らかで精細な表現力がすごく増して、耳馴染みするスタイルになったと思っています。すでに有名なプロデューサーですが、来年はBACHLOGICとかChaki Zuluに並ぶような作品を出してくれるのではないかと思っています。あと、今年クラブバンガーみたいな曲ってあんまりなくて、「GOKU VIBES」一強だったような印象があるんです。これからアフターコロナ的なものになったら、誰が夏のクラブバンガー的な楽曲を作るのかなって楽しみです。

二木:自分は、『Real Trap』というEPを出したラッパー、Playssonが2021年にどんな動きを見せるかとても楽しみにしています。彼は、1997年にブラジルで生まれて、2011年に来日したそうです。EPの中には愛知県豊田の保見団地をレペゼンする「HOMI」という曲があります。とにかく、まず、その曲のMVを観てほしいですね。またものすごいカッコいいラッパーが出てきたな、と。ラッパー、¥ellow bucksのアルバム『Jungle』にも客演参加していますが、¥ellow bucksと共に、今後の東海地方を担っていくラッパーじゃないでしょうか。さらにもう1組だけ挙げるとすると、OGGYWESTです。88Lexuz(ラッパー/トラックメイカー)とヤング・キュン(ラッパー/DJ)から成るユニットですね。2020年に1stアルバム『OGGY & THE VOIDOIDZ』を出しています。斎井さん、取材されていましたよね?

Playsson – “HOMI” – feat. 2Marley [Official Video]

斎井:そうなんです! 個人的に大注目ですが、オルタナティヴ感が強いので挙げようか迷っていました(笑)。OGGYWESTは何がやばいって大人が感じる孤独感なんですよね。若いミュージシャンがテーマにする孤独とは、また違うんですよ。大人になるといろいろなことから自由になれるじゃないですか。それでも拭い去れない孤独感や無力感ってあるなぁと。

二木:なるほど。それは面白い視点ですね。

斎井:しかもOGGYWESTはその世界観をネガティブになりすぎず、もしかしたら人によっては笑える温度感で曲にするんです。例えば「Maldives Sky feat. 入江陽」は、ラッパーらしくフレックスしている曲と思いきや、最後に現実に引き戻される展開の曲なんですよ。この曲はビートの転調の仕方も新しい。

OGGYWEST – Maldives Sky feat. 入江陽 (OFFICIAL VIDEO)

二木:僕は、OGGYWESTの音が好きなんですよね。88Lexuzが斎井さんのインタビューで自分たちのアートを説明する時に「ダーク・トロピカル」って表現していましたよね。上手いこと言うなあと思いました。アンビエント/アシッド・フォークからトラップに展開する曲があったり、それこそスロウハウスっぽいダンスミュージックもある。そういうトラックでラップしたり、歌ったりしているのがとてもユニークで。あと、88Lexuzの声がすごく良いな、と。真面目な話、彼らみたいな存在が日本のヒップホップやラップを豊かにしている側面がおおいにあると思うんです。

斎井:さすがです。そこも聴きどころなんです。88Lexusは、影響を受けたアーティストに前野健太やパラダイス・ガレージを挙げる異色のプロデューサーなんです。また彼はDie, No Ties, Flyというユニットも組んで11月にEP(『Die, No Ties, Fly』)も出したのですが、それも新たなサブジャンルの萌芽すら感じてしまいますね。

二木:もはやお決まりのオチになりますが、日本のヒップホップ/ラップの1年を概観するのは容易じゃありません……ただ1つ確実に言えるのは、こうして、既存のルールに縛られない自由な表現がたくさん出てきていることに希望を感じた1年でした。

出演者プロフィール

■二木 信/Shin Futatsugi
1981年生まれ。音楽ライター。共編著に『素人の乱』(河出書房新社)など。2013年、
ゼロ年代以降の日本のヒップホップ/ラップを記録した単行本『しくじるなよ、ルーデ
ィ』(ele-king books)を刊行。漢 a.k.a. GAMI著『ヒップホップ・ドリーム』(河出
書房新社/2015年/2019年夏文庫化)の企画・構成を担当。2021年2月25日、BADSAIKUS
H、田島ハルコらのインタヴューも掲載される書籍『ヒップホップ・アナムネーシス―
―ラップ・ミュージックの救済』(山下壮起との共編著/新教出版社)を刊行予定。

■斎井直史
学生時代、卒論を口実に音楽業界の色んな方々に迫った結果、OTOTOYに辿り着いてお手伝いを数ヶ月。そこで記事の書き方を教わり、卒業後も寄稿を続け、「斎井直史のパンチライン・オブ・ザ・マンス」を連載中。趣味で英語通訳と下手クソDJ。読みやすい文を目指してます。

■市川タツキ
幼い頃から、映画をはじめとする映像作品に関心を深めながら、高校時代に、音楽全般にも興味を持ち始め、特にヒップホップ音楽全般を聞くようになる。現在都内の大学に通いつつ、映画全般、ヒップホップカルチャー全般やブラックミュージックを熱心に追い続けている。

前編はこちら

Creepy Nuts、Awich、舐達麻、Moment Joon……2020年以降のヒップホップシーンの潮流 有識者3名による座談会(前編)

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