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家政婦/夫ドラマは“癒し”の存在に? 『私の家政夫ナギサさん』『家政夫のミタゾノ』などから考察

リアルサウンド

20/4/15(水) 6:00

 続編だらけの春ドラマ。ジャンルは医療モノ、刑事モノばかりが量産される昨今だが、なぜかこの春、特定のジャンルに作品が集中した例もある。それは「家政婦(夫)」だ。

 例えば、四ツ原フリコのWebコミックをドラマ化した、多部未華子×大森南朋の『私の家政夫ナギサさん』(TBS系/火曜夜10時~)。また、第4シリーズとなる金曜ナイトドラマ『家政夫のミタゾノ』(テレビ朝日系/金曜夜11時15分~)に加え、猫の家政婦が主人公の人気漫画を松重豊主演で描くミニドラマ『きょうの猫村さん』(テレビ東京/水曜深夜0時52分~)だ。

【写真】家政夫のナギサさん

 現実世界では、近年、「予約のとれない、伝説の凄腕家政婦・志麻さん」がテレビ番組で度々紹介されたり、彼女のレシピが書籍や雑誌に掲載されたりしているものの、実際に家政婦(夫)に依頼したことがある人、出会ったことがある人はまだまだ少ない存在だろう。

 にもかかわらず、なぜ家政婦を描くドラマが続々と作られるのか。

 家政婦ドラマというと、古くは東芝日曜劇場で『芝生は緑』のタイトルで1979年にドラマ化された『家族八景』(新潮社)や、続編がNHKの少年ドラマシリーズで放送された『七瀬ふたたび』、1986年放送の堀ちえみ版や2012年の木南はるか版などの筒井康隆原作のSF作品がある。

 しかし、誰もがまず思い出す作品といえば、なんといっても1983年から2008年まで「土曜ワイド劇場」(テレビ朝日系)で放送されていた、市原悦子主演の『家政婦は見た!』だろう。

 家政婦・秋子が上流家庭に派遣され、そこで見聞した欺瞞・家庭の抱える闇を最終的に家族全員の前でぶちまけ、去っていくというストーリー。この面白さはもちろん、「一般人が知りえない、すました顔で暮らす上流家庭の人々の秘密やドロドロした人間関係を、家庭内に一時的に入り込める“家政婦”の視点から、間近でのぞき見できる」ところにある。また、作中には実際に起こった当時の時事ネタやスキャンダルをモデルにした風刺も多いため、芸能記事を立体的に楽しめるような野次馬的趣向もあった。

 それを元ネタにして作られたのが、ご存知、視聴率40%超を記録した松嶋菜々子主演×遊川和彦脚本の『家政婦のミタ』(日本テレビ系、2011年)である。

 ただし、ミタはロボットのように喜怒哀楽を一切出さず、業務命令には何でも従い、完璧に仕事をこなす一方で、個人情報の開示は拒否し、家庭の問題には一切かかわろうとしない。積極的にのぞき見して暴いていく市原悦子とは真逆のスタンスだが、それは自身の家庭の悲しい過去から「自分が関わる人は不幸になる」と思い込んでいるため。にもかかわらず、関わるまいとすればするほど家族の問題に巻き込まれていき、そのことが結果的に家族を再生させ、自身の傷とも向き合わせることになるのだ。

 さらに、日本テレビに「家政婦ドラマ」を持っていかれた感のあったテレビ朝日がやり返したのが、松岡昌宏主演の『家政夫のミタゾノ』シリーズ(2016年~)だ。

 「ミタ」ではなく「ミタゾノ」は、女装した大柄な「家政夫」で、たくましい足を剥き出しにして全速力で走る迫力・異様さ・不気味さを放つ。完璧な家事能力に加えて語学や様々な特殊能力を持ちながらも、家庭の「暗部」をあぶりだしては、それを暴いて家庭を崩壊させたくなる悪趣味の持ち主でもある。

 不幸にさせたくないという思いで関わりを拒むミタとは反対に、積極的に家庭を崩壊させようとするミタゾノ。しかし、それが家庭を困窮させても、結果的には家族の絆を深めてしまうことになるという皮肉もまた、パロディ返しだった。さらに、毎回突飛に差しはさまれる家事テクニックなどの実用情報は、かえって深夜帯のユルさを際立たせていた。

 なぜ家政婦ドラマが増えているのか。その背景にはまず、決まったセット・決まった場面の中でストーリーを展開できる制作費の利点があるだろう。

 今よりもまだテレビに予算があった当時でも、『家政婦のミタ』の制作費は、ロケがほとんどないことなどから3000万円程度と言われていた。同クールのTBS開局60周年大型企画として放送された『南極物語』が1本約1億円だったことを思うと、格安である。

 また、「家政婦」という特殊なポジションにより、他人の秘め事や暗部をのぞき見できたり、家族再生を内面から描けるのは脚本・演出上の利点でもある。

 しかし、そうした流れから『ミタゾノ』シリーズを除く春の家政婦ドラマを改めて観てみると、『私の家政夫ナギサさん』『きょうの猫村さん』では、「家政婦」の描き方が異なっていることに気づく。

 家政婦→家政夫と、男性が家事のスペシャリストとしてて登場するのは『ミタゾノ』と同じ、現代ならではだろう。しかし、『ナギサさん』が大きく異なるのは、仕事はデキるのに、家事が全くできないヒロイン(多部未華子)にとっての癒し、生活の潤いとして、ナギサさん(大森南朋)が登場すること。

 自分は好きな仕事に励み、家では「お母さん」のように優しく気がまわる人に癒されたい、内助の功で助けてほしいと願う女性は多い。そうした傾向は、近年のNHKの朝ドラ『あさが来た』の新次郎さん(玉木宏)や『スカーレット』八郎さん(松下洸平)の人気からもよくわかる。

 また、その一方で、仕事がデキて、それを諦めざるを得なかった母から「お母さんになりたい」という夢を幼い頃に否定され、仕事人間になったヒロインと、「お母さん」になりたくて「家政夫」という職業に就いたナギサさんとの交流も描かれる。「そんなこと」と言われ、下に見られがちの家事が、いかに人生を豊かにするものかを再認識させられたり、専業主婦が誇りを見出すことのできる内容にもなりそうだ。

 一方、『猫村さん』の場合は、仕事に対する誠実さ、一生懸命さ、律儀さはあるものの、決して家事が完璧というわけではない。素直で、好奇心旺盛で、知らないことに無邪気に反応し、夢中になったり、猫の習性からときにはゴロゴロしたり、どこかヌケていたり。そんな姿に、思わずクスリとさせられたり、癒されたりしてしまうのだ。

 のぞき見や、巻き込まれ、家族再生を経て、「癒し」の存在に変わってきている家政婦/夫ドラマ。企画時に予想されたわけではないのに、奇しくも感染症の影響で疲れきった私たちを癒してくれる、時代が求めるドラマとなっているのではないだろうか。

(田幸和歌子)

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