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田中泰の「クラシック新発見」

“室内楽の庭”は花盛り

隔週連載

第8回

オープニング 堤剛プロデュース 2021

クラシック界における初夏の風物詩といえば「室内楽の庭」。国内最大の室内楽の祭典「サントリーホール チェンバーミュージック・ガーデン」だ。昨年は新型コロナウィルス感染拡大の影響によって“閉園”となってしまったこのイベントが、今年は見事に復活。再び“室内楽の庭”を散策できるのは嬉しい限りだ。

10周年を迎える今年の“開園期間”は、6月6日(日)から27日(日)までの22日間。サントリーホール ブルーローズ(小ホール)に咲き誇る11企画28公演は“百花繚乱”。まさに室内楽の楽しさと奥深さを体験するのにピッタリのイベントと言えそうだ。

サントリーホール ブルーローズ

というわけで、早速気になるプログラムを紐といてみたい。6月6日のオープニングを飾るのは、このイベントの“開園”以来継続されるサントリーホール館長の堤剛(チェロ)と小山実稚恵(ピアノ)のデュオによるブラームスだ。ここでは交響曲の重厚なイメージとはひと味違うブラームスの姿が体験できる。ヴァイオリン・ソナタ『雨の歌』のチェロ編曲版を含む3曲のチェロ・ソナタからは、稀代のロマンティストぶりが垣間見えるに違いない。

エルサレム弦楽四重奏団 (C) Robert_Torres

恒例企画「ベートーヴェン・サイクル(6月6日~11日)」には、結成25周年迎える「エルサレム弦楽四重奏団」が登場する。こちらはコロナ禍に沈んでしまった2020年の「ベートーヴェン生誕250年」へのオマージュといった趣だ。ベートーヴェンが遺した16曲の「弦楽四重奏曲」の価値は永遠不滅。文学に例えてみれば、シェイクスピアやゲーテの名作を読むことにも匹敵する。人類がなし得た偉大な業績に触れる時間を是非体験してほしい。

今年の“庭”の特徴のひとつが、没後25年を迎える作曲家武満徹(1930-1996)の室内楽公演だ(6月15・17日)。今や日本を代表するピアニストに成長した小菅優のプロデュースによって描かれるのは、武満徹作品と世界大戦に深く関係する作品の組み合わせによる「愛・希望・祈り」の音楽だ。武満作品と、メシアン、ストラヴィンスキー、アイヴズ、ショスタコーヴィチ作品との化学反応に興味津々。特にストラヴィンスキーに於いては、1959年の来日時に偶然聴いた武満の音楽を絶賛。武満が世に出るきっかけとなっただけに意義深い。

エラール

今年の“庭”の中でもひときわ華やかな「フォルテピアノ・カレイドスコープ(6月13・16・23日)」にも注目してみたい。万華鏡のようにきらびやかなフォルテピアノの音色を弦楽器とのアンサンブルで楽しむこのイベントの主役は、サントリーホール所蔵の1867年製フォルテピアノ「エラール」だ。カエデ材の美しい木目が生かされた長さ2.5メートルのグランドピアノの響きやいかに。このエラール以外にも、様々な時代や国で制作された楽器4台が描き出す空間は、まさに百花繚乱の美しさだ。

さて、足早に見て回った「室内楽の庭」の印象はいかがだっただろう。ここから先はぜひご自分で散策を。ちなみに、5月24日週の「JWAVEモーニングクラシック」は、室内楽特集をお届け予定。「室内楽の庭」のプログラムからセレクトした名曲をご堪能あれ。

「サントリーホール チェンバーミュージック・ガーデン」

「サントリーホール チェンバーミュージック・ガーデン」
6月6日(日)~27日(日)
サントリーホール ブルーローズ(小ホール)
https://www.suntory.co.jp/suntoryhall/feature/chamber2021/index.html

プロフィール

田中泰

1957年生まれ。1988年ぴあ入社以来、一貫してクラシックジャンルを担当し、2008年スプートニクを設立して独立。J-WAVE『モーニングクラシック』『JAL機内クラシックチャンネル』などの構成を通じてクラシックの普及に努める毎日を送っている。一般財団法人日本クラシックソムリエ協会代表理事、スプートニク代表取締役プロデューサー。

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