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柴那典が選ぶ、2019年国内作品年間ベスト10 カネコアヤノ、小沢健二、KOHHら「日本語の音楽表現」

リアルサウンド

19/12/29(日) 8:00

1.カネコアヤノ『燦々』
2.小沢健二『So kakkoii 宇宙』
3.KOHH『UNTITLED』
4.ドレスコーズ『ジャズ』
5.OGRE YOU ASSHOLE『新しい人』
6.長谷川白紙『エアにに』
7.ヨルシカ『エルマ』
8.君島大空『午後の反射光』
9.People In The Box『Tabula Rasa』
10.betcover!!『中学生』

 今回は「日本語の音楽表現」というテーマで2019年のベストを選出しました。

 実は、キュレーション連載の年間ベスト企画にあたってかなり悩んだのは、何をどのように選ぶかというポイントでした。普通に「邦楽」や「国内作品」といった括りを設けても構わないし、実際のところそういうラインナップになっているんですが、そこにもうひとつテーマを設けたほうがいい気がしていたのです。

 というのも、今やONE OK ROCKやCHAI、おとぼけビ~バ~やThe fin.のように国境を超えて活躍している人もいるし、YonYonやeillやちゃんみなのように、K-POP以降のシーンに影響を受け、日本と韓国の文化をつなぐような志を持ったアーティストもいる。ロンドンに拠点を移した小袋成彬の最新作も最高だった。そんな中で、果たして国境でわけてしまっていいのだろうか? と思ったわけです。

 そういう中で思いついたのが「日本語」というテーマ。単なる「邦楽のベスト10」というよりも、言葉の持つ力、ユニークな詩情の喚起力、歌としての鮮烈さをキーに選びました。

カネコアヤノ『燦々』

 1位に選出したカネコアヤノの『燦々』は、今年、個人的にもっともよく聴いたアルバムのうちの1枚。Spotifyの再生回数をもとに自動生成されるプレイリスト「My Top Songs 2019」でも収録曲「光の方へ」が、日本語曲の最上位でした。

カネコアヤノ – 光の方へ

 この「光の方へ」で歌われる〈隙間からこぼれ落ちないようにするのは苦しいね/だから光の方 光の方へ〉とか、たとえば「燦々」の〈胸が詰まるほど美しいよ ぼくらは〉とか「りぼんのてほどき」の〈なんとか生き抜いた〉、〈プレゼントボックスのりぼんを/体のかたちが変わっても/焦ってほどいてたい〉とか、カネコアヤノの歌うフレーズには、思わずハッとさせられるものが多い。

 決して難しい言い回しではないが、彼女にしか書けない生々しい言葉が綴られている。ベースに漠然とした不安があって、でもそれを抱えながら日々の荒波に向かっていくための、お守りのような言葉。そういうものに惹きつけられたんだなと思う。

小沢健二『So kakkoii 宇宙』

 小沢健二の『So kakkoii 宇宙』については、一つ一つの言葉に込められた密度と情報量が図抜けていて、もはや音楽だけじゃなく、いわゆる小説やエッセイや新書なども含めた「今年に発表された日本語の表現物」としてダントツという印象。

 「彗星」の〈そして時は2020/全力疾走してきたよね〉という冒頭の一節からそうだし、「流動体について」や「フクロウの声が聞こえる」といったシングル曲についてもそうだけれど、小沢健二の言葉の大きな特徴は、とても大きくて神秘的なテーマを表現するために、ものすごく具体的な描写を示す言葉を使うこと。そういう意味で言えば「高い塔」がアルバムの白眉だったとも言える。

小沢健二『彗星』MV Ozawa Kenji “Like a Comet”
KOHH『UNTITLED』

 KOHHの『UNTITLED』は〈今は縛られてるロープ〉〈すぐ自由になれるよ〉と歌う「ロープ」が、尾崎豊やTHE BLUE HEARTSに通じる「抑圧からの解放」をストレートに歌い上げる曲として最高だった。

 音楽は社会と密接に絡み合ったもので、だからこそアーティストは炭鉱のカナリヤのように未来のムードを感じてそれを表現する類の人たちだと思っている。そういう観点では、ドレスコーズは「もろびとほろびて」(アルバム『ジャズ』)が、そしてOGRE YOU ASSHOLEは「新しい人」(アルバム『新しい人』)が、それぞれグッときた曲だった。どちらも、ある種のディストピアをイメージさせる作品だ。

 たとえばドレスコーズ「もろびと ほろびて」の〈500年続いた人間至上主義をいっかい  おひらきにしよう〉〈核兵器じゃなくて/天変地異じゃなくて/倫理観と道徳が/ほろびる理由なんてさ〉という一節、OGRE YOU ASSHOLE「新しい人」の〈かつて人は/争いあったり/自ら死んだり〉という一節には、どことなく通じ合うようなものを感じる。

 People In The Box「風景を一瞬で変える方法」(アルバム『Tabula Rasa』)の〈日々肥大していく獣、繁栄の彼方〉というフレーズもそう。テクノロジーの進化とグローバルな資本主義社会にまかせて21世紀の人類は発展を謳歌してきているけれど、ひょっとしたら、今は、その曲がり角に立っている時代なのかもしれない。そんなことを思わせるような作品だった。

 AIによる技術的特異点や気候変動が取り沙汰され、ユヴァル・ノア・ハラリの『ホモ・デウス』がベストセラーになるような、2010年代末ならではの表現なのではないかと思っている。

 ここに挙げられなかった中でも、KIRINJI『cherish』や、ROTH BART BARON『けものたちの名前』や、柴田聡子『がんばれ!メロディー』など、沢山の良作が相次いだのが2019年だった。

 来年も楽しみに思っている。

My Top Songs 2019@Tomonori Shiba
RealSound_Best2019@Tomonori Shiba

■柴 那典
1976年神奈川県生まれ。ライター、編集者。音楽ジャーナリスト。出版社ロッキング・オンを経て独立。ブログ「日々の音色とことば:」/Twitter

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