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『クイーンズ・ギャンビット』で一躍話題に アニャ・テイラー=ジョイはなぜ人を惹きつける?

リアルサウンド

21/1/4(月) 12:00

 2020年、最も話題になったドラマの一つがNetflixオリジナル『クイーンズ・ギャンビット』。チェスをテーマにした硬派な作品でありながらも、主演を務めたアニャ・テイラー=ジョイのファッションやヘアメイクも見どころで、多くの人が様々な楽しみ方ができたものだった。Netflixが製作したリミテッドシリーズ(シーズン1で完結するもの)の中で最も視聴されたドラマとしても、話題沸騰となった。

 お堅いチェスのイメージを、彼女自身の華やかさで印象を変えたアニャ・テイラー=ジョイ。本作で現在世界的に大ブレイクしている彼女の魅力を紐解く。

印象深い顔と多国籍な魅力

 彼女の魅力を考えるうえで、まず避けて通れないのがそのユニークな顔だ。彼女の母はアフリカ、スペイン、イギリス系。一方、父親はアルゼンチン、スコットランド系ということで、彼女をパッと見ただけでどこの国出身かわからない、それが彼女のミステリアスで魅力的な美貌につながっている。大きくて少し離れた目と、少し離れて釣り上がった眉毛。キュッとつぐまれた唇。これまで見たことのない不思議さがあって、まるで妖精のようだ。従来のハリウッド女優の典型的な流行り顔とは一線を画す、個性のあるものが美とされる時代の流れを象徴する存在とも言えるのではないだろうか。

 彼女の多国籍性は流れる血だけではない。アメリカはマイアミで生まれた後、すぐにアルゼンチンに引っ越した彼女。生まれてから6歳頃まではスペイン語を話したが、国内の政治情勢が悪化したことをきっかけに家族で渡英。しかし、最初の2年は再びアルゼンチンに戻ると信じていた彼女が英語を学ぶのを拒んでいた。そして諦めがついた8歳の時、ようやく英語を学びはじめたという。完璧なまでに美しいイギリス英語を流暢に話す彼女からは、少し想像もつかない事実だ。それだけでなく、母親とはフランス語を話すようだ。『クイーンズ・ギャンビット』ではロシア語を披露していたが、そういった語学背景があるからこそどんな言語も流暢に話せてしまいそうな、俳優としての手腕を感じる。

 そして女優になるために14歳の時、アメリカへ戻る。ニューヨークに住んでいた彼女はモデルとしてのキャリアをスタートさせるが、すぐに映画の世界に入ることができた。

ホラー映画界で高めたその存在感

 スクリーンデビューは2014年公開の『ヴァンパイア・アカデミー』だが、その翌年にロバート・エガース初長編作品『ザ・ウィッチ』で主演を飾ったアニャ・テイラー=ジョイ。1630年のニューイングランドを舞台に、敬虔なキリスト教の一家が赤ん坊の失踪を巡って魔女に怯えはじめる。その魔女と疑われた長女のトマシンを好演し、映画はサンダンス映画祭で監督賞を受賞するなど高い評価を得た。

 鮮烈な主演デビュー後に再び彼女が多くの人の目に留まったのは『スプリット』。M・ナイト・シャマラン監督作であり、『アンブレイカブル』の続編でもある本作はジェームズ・マカヴォイが多重人格者を怪演したホラースリラーだ。しかし、彼の狂気的な演技に飲み込まれることなく、アニャ・テイラー=ジョイは攫われた女子高生の1人ケイシー役として強い印象を残した。彼女は続編の『ミスター・ガラス』にも続投している。

 ほか、『マローボーン家の掟』や『X-MEN』シリーズ初のホラー『ニュー・ミュータント』など、なんとなく怖い映画に出演しがちだった彼女。駆け出しの女優の登竜門的なジャンルでもあるホラーだが、その中で彼女が一際存在感を持てたのはその“表情”に起因している。というのも、従来のホラーヒロインは恐怖に怯え、叫び、震えてきた。

 しかし、そんなホラー畑で培った演技力と演じてきた役柄の積みが、『クイーンズ・ギャンビット』のベス・ハーモンに繋がっているように思える。

※以降、『ザ・ウィッチ』と『スプリット』の映画内容ネタバレあり

強い意志を持つヒロイン像を打ち出したアニャ・テイラー=ジョイ

 アニャ・テイラー=ジョイが演じた天才チェスプレイヤーのベス・ハーモンは、闇があって孤独やトラウマを抱えている。しかし、その恐怖に打ち勝って前に進んでいくというキャラクターなのだが、実は彼女がこれまで演じてきた役柄の多くがベス・ハーモンの要素を持っている。

 『ザ・ウィッチ』のトマシン。魔女が“本当にいる”土地で家族から常に抑圧されてきた。母親は何でもかんでも彼女のせいにして責め、時には妬んだ。弟は実の姉に欲望を感じ、幼い双子は悪魔的と言えるほど彼女の手を焼く。父親はそういった状況を見て見ぬふり。ある意味、トマシンにとって地獄的な日々を過ごしていたわけだが、そんな家族が壊滅し、悪魔と契約して魔女になる。常に孤独で疑いをかけられていたが、最後まで純粋であり恐怖に震えていた彼女が、映画のラストで恐怖を克服(というより彼女が恐れていたものに自分がなった)ことで力を得たわけだ。

 『スプリット』のケイシー。虐待されて体に無数の傷を持つ彼女は学校でも1人浮いた孤独な生徒だった。しかし、偶然その場に居合わせたことで攫われてしまったにも関わらず、パニックにならずに細かいことに目をくばって突破術を探っていく。なにより、彼女のトラウマ的な過去があったからこそ、多重人格の中で最も凶暴なビーストの心に触れ、彼をなだめることができた。痛みを知っていたからこそ、恐怖に打ち勝ち、強くなることができたのだ。

 疑心暗鬼になった家族に魔女だと責められたり、突然危ない男に誘拐・監禁され、命の危険が迫ったりという不条理な状況の中で、いつだって彼女はその“意志の強さを感じる表情”で場を切り抜けてきた。その澄み通った鋭い眼差しには誰も勝てない。そういう強いヒロイン像を彼女自身が常に提案してきたからこそ、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』の前日譚を描いたスピンオフで若きフュリオサ役に抜擢されたことは、決して不思議ではない。

 フュリオサもまた、イモータン・ジョー率いる男性が女性を支配する不条理な世界で、女として、1人の人間として恐れ知らずに勝負をかけるキャラクターだ。『クイーンズ・ギャンビット』もまた、チェスという男性社会の中で1人、その女性地位を獲得するように、しかし1人の人間として勝負をしたベス・ハーモン。静の動きが求められた役柄だったが、フュリオサを演じるにあたって想定されるアクションなどを彼女がどのように魅せてくれるのか、今から期待で胸がいっぱいだ。

■アナイス(ANAIS)
映画ライター。幼少期はQueenを聞きながら化石掘りをして過ごした、恐竜とポップカルチャーをこよなく愛するナードなミックス。レビューやコラム、インタビュー記事を執筆する。好きなボードゲームはガイスター。InstagramTwitter

■配信情報
『クイーンズ・ギャンビット』
Netflixにて独占配信中
THE QUEEN’S GAMBIT Cr. PHIL BRAY/NETFLIX (c)2020

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