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立川直樹のエンタテインメント探偵

ヴィスコンティの『山猫』は時空を超えた映画絵巻。コムアイも出演した映画『サタンジャワ』のライヴコンサートでは“夢幻”の空間が表出されていた!

隔週水曜

第29回

19/7/24(水)

『山猫〈4K修復版〉』

 “極音上映”や“選ぶシリーズ”などユニークな企画を連発して支持者を増やしている立川シネマシティでの『山猫〈4K修復版〉』最終上映の最終日にあたる6月28日には上映前にミニトークをした後、186分に及ぶ本編を観たが、その素晴しさは圧倒的だった。ヴィスコンティに魅かれ、80年代の初めには篠山紀信さんと『ヴィスコンティの遺香』(小学館刊)という写真集も作り、ヴィスコンティ映画の音楽を何本も手がけているフランコ・マンニーノ氏を日本に呼んでコンサートもプロデュースしたほど、敬愛する人だが、チラシに載せてもらったコメント通り、『山猫』はヴィスコンティでなければ作ることのできない、時空を超えた映画絵巻だった。

 そして、時空を超えるということでは7月2日に『響きあうアジア2019』プログラムのひとつとして、国際交流基金アジアセンターとユニジャパンの共催で有楽町朝日ホールで行われた映画『サタンジャワ』の立体音響による1日限りのライヴコンサート上映が凄かった。

『サタンジャワ』 サイレント映画+立体音響コンサート/響きあうアジア2019 (C)bozzo/ 提供:国際交流基金アジアセンター

 インドネシア映画界を牽引するガリン・ヌグロホ監督が“エクスパンデッド・シネマ(拡張映画)”のコンセプトのもと、生演奏付きで上映するために作ったサイレント映画『サタンジャワ』は、2017年2月のオーストラリア・メルボルンでの海外公演を皮切りに、シンガポール、アムステルダム、ベルリンといった世界各都市で、その地の楽団とのコラボレーションによる公演を成功させてきたというが、今回の日本公演のためには全編新しく制作された音楽が用意され、インドネシアと日本のアーティストが一緒に舞台に立ち、文字通り“夢幻”の空間が表出されたのである。

 この意欲的な試みで音楽を構築したのはサウンドデザイナー、森永泰弘。映像とパフォーマンスとのシンクロ感は申し分なかったが、びっくりさせられたのは“水曜日のカンパネラ”として個性的かつ実験的な音楽活動を展開しているコムアイのライヴパフォーマンス。彼女はこの夜で僕の中で注目アーティストの上位に浮上した。

武蔵野美術大学美術館での小竹信節 退任記念公演『奴婢訓』、サイケデリック・ワールドと化していた『田名網敬一の観光』展

小竹信節 退任記念公演『奴婢訓』/撮影:稲口俊太

 そして、その翌日も今度は小平にある武蔵野美術大学美術館でまた異次元へと連れていかれた。演し物は万有引力による小竹信節氏、武蔵野美術大学退任記念公演『奴婢訓』。小竹信節は寺山修司率いる天井桟敷と、寺山亡き後はその遺志を継ぐ形でスタートしたJ・A・シーザー率いる万有引力で、言葉では形容できないユニークな舞台装置を作り続けてきた異才だが、今や向かう所敵なしの感もあるシーザーは今まで数えきれないほど上演してきた寺山修司の代表作に、大学の美術館という場所を巧妙に使いきり、見事な演劇空間を作り出したのである。その空間構築という点ではギンザ・グラフィック・ギャラリーで開催中の『田名網敬一の観光』展も強力だった。2つのフロアは平面から立体までの作品で完全にサイケデリック・ワールドと化し、美術史家・山下裕二氏の言葉を借りれば、“もの静かな狂人”の凄味に震撼させられたのである。2階では“情熱大陸”で放映された“ポップでサイケな82歳 芸術は人生だ”を観ることもできたし、2016年に作られた短篇アニメーション『笑う蜘蛛』も他の誰も作り得ない超絶アート作品だと思う。

『田名網敬一の観光 Keiichi Tanaami Great Journey』
金魚鉢のなかの畸形宇宙①(2017)
Deformed Universe in the Fishbowl①
(C)Keiichi Tanaami

 この2週間は他にも何必館 京都現代美術館で開催中の『中野弘彦展ー無常ー』やSUGIZO『聖誕半世紀祭』など書くに値するものが随分と観られたし、プロデュースしているビッグ・バンド、MUSIC UNLIMITED ORCHESTRAの神戸チキンジョージでの初のワンマン・ライヴも、アドバイザーとして参加しているポップサーカス富山公演も満足すべき仕上がりになっていた。エンタテインメントの旅は終わらない。

作品紹介

『山猫〈4K修復版〉』(1963年・イタリア=仏)

2019年3月17日公開
配給:クレストインターナショナル
監督:ルキノ・ヴィスコンティ
出演:バート・ランカスター/アラン・ドロン/クラウディア・カルディナーレ

『サタンジャワ』 サイレント映画+立体音響コンサート/響きあうアジア2019

日程:2019年7月2日
音楽・音響デザイン:森永泰弘
舞台出演:コムアイ(水曜日のカンパネラ)/日本・インドネシア特別編成音楽アンサンブル ほか
会場:有楽町朝日ホール

小竹信節 退任記念公演『奴婢訓』

日程:2019年7月2日~7日
会場:武蔵野美術大学美術館
上演:演劇実験室◉万有引力

『田名網敬一の観光 Keiichi Tanaami Great Journey』

会期:2019年7月5日~8月21日
会場:ギンザ・グラフィック・ギャラリー(ggg)

プロフィール

立川直樹(たちかわ・なおき)

1949年、東京都生まれ。プロデューサー、ディレクター。フランスの作家ボリス・ヴィアンに憧れた青年時代を経て、60年代後半からメディアの交流をテーマに音楽、映画、アート、ステージなど幅広いジャンルを手がける。近著に石坂敬一との共著『すべてはスリーコードから始まった』(サンクチュアリ出版刊)、『ザ・ライナーノーツ』(HMV record shop刊)。

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