ひとりの女を追う二人の男という構図の映画は数あれど、本作はかなり異質のサスペンス・ノワールだ。追われるのは一人の女。被害者にとっては新妻であり、加害者にとっては不利となる目撃者である。 そしてそれぞれの目的で女を追うのは、被害者の父と加害者の父。ひとつのひき逃げ事件の当事者たちをさしおき、二人の父親の奔走が本作のメインとなっている。 一見ハン・ソッキュ、ソルギョングの競演が目を引くが、とりわけ異彩を放つのはヒロインを演じたチョン・ウヒ。彼女の“不協和音”としての存在感が、混沌の物語を黒から深黒へと染め上げる。 観客はまるで事故のように唐突にバイオレンスを目撃し、スクリーン上では描かれない恐怖や嫌悪感を想像力で増幅させる。これは監督イ・スジンよる脚本と演出の賜物だ。 “本性”が露になる時、人間は、なんと恐ろしく、そして滑稽なのか。「善人」「悪人」──よく人は選別したがるけれど、人の本質に迫る時、その境界は極めて曖昧かつ多面的であることを知る。